第41話:正座
現在、正座させられてます。
「で、先輩。なにか申し開きはありますか?」
「ない。……が、後悔もしてない」
腕を組んで仁王立ちしておれを見下ろしているのは、市立要第一中学3年の御剣三樹。
先ほどおれが抱きしめて、感極まってちゅっちゅしてしまった御剣双葉さんの妹にあたる。
年長者はおれのこと積極的に甘やかそうとしてくる中、後輩でありながらちゃんと叱ってくれる、貴重な存在でもある。
中学の頃は、おれのことを嫌ってる疑惑もあったが、そうでもなさそうだということが分かっている。
「正直、たけ……平坂先輩は、この街でなら何やっても許されるくらいのことはしてると思います。みんな救われました。でも、それとこれとは別だと思います」
「もう、三樹、武くんのこと、名前で呼んであげればいいじゃない」
「ちょっと一華姉さんは黙ってて」
御剣家三姉妹の長女一華さんが妹の早口をたしなめると、ピシャリと言われていた。
あと、一華さん。名字とか名前とか、おれの呼び方は今は置いといて。
「公衆の面前で、衆人環視の中で、ちゅっちゅするのは風紀的にいかがなものかと」
「そのとおりだと思う。おれも見せつけるような趣味はない」
風紀といわれて、なるほどと思う。
そのとおり。三樹の言うとおりだ。
……けれども、さ。
「言い訳はしない。謝罪もしない。ただ、愛しさが溢れて、止められなかった」
「……んなっ?」
双葉さんは、両親が亡くなったあと、高校に通わなくなったおれを、見捨てずに声をかけ続けてくれた人だ。
中学の頃から、ずっと憧れていた。
自分から生徒会の手伝いを申し出るくらいには。
高校に入って、ずっと綺麗に美しくなっていた双葉さんを見て、憧れが違う形を持った。
入学式の翌日から登校しないおれのことを気にかけてくれていて、バイト先のコンビニに、用もないのに毎日通って、おれに一声かけてくれた人だ。
惚れない方がおかしいだろう。
「気が緩んだこともあると思う」
「気の緩み、ですか?」
訝しげな三樹に、大きくうなずく。
「みんな、揃ったから」
「揃った、ですか」
「ああ。恩人が、みんな」
バイト先で、毎日欠かさず声をかけてくれた御剣双葉さん。
退学届を出したにも関わらず、毎日電話やメールをしてくれた佐藤鈴先生。
二日目から登校してない、顔も名前もちゃんと分からない状態でありながら、毎日授業のノートの写しとプリントを届けてくれた東舞。
そして、両親の死の真相を教えてくれた上で、バイト先を紹介してくれたり、家に住み込みでそばにいてくれた新沼直子さん。
こんな世界になってしまったから、会えない人はいると思っていた。
でも、会えた。そして、両親の仇も討った。
状況は、一段落ついた。
そんな、気の緩み。
抑えていたものが、一気に出てきてしまった。
三樹に止められなかったら、一気に最後までやってしまっていたかもしれない。
時間も、場所も、人の目も問わずに。
「ねえ、三樹。そろそろ許してあげて?」
「……むぅ……」
抑えが利かなくなったおれに、襲われてるように見えたという双葉さんからも乞われて、ようやく三樹は退いた。
いやまあ、ほとんど襲ってるようなものだったから、なんら間違ってはいないのだが。
双葉さんが抵抗しなかっただけで。
で、退いた代わりに、むくれてしまった。
柔らかそうな頬をぷくーと膨らせてそっぽを向く、ポニーテールな後輩も、かわいい。
「うん、まあ、実際のところ、けっこう助かった」
勢いも大事かもしれないが、ちゃんとできるならちゃんとしたいという気持ちもあるから。
ほぼ無意識に、可愛い後輩の頭を撫でる。
「……う、うぅ……」
恥ずかしそうに顔を赤くしてる様子も、かわいい。
「ちょ、なんかあったら、とりあえず頭撫でとけばいいとか思ってません?」
「そんなこと思ってないぞ。撫でたいから撫でただけだ」
もしかして、三樹は意外とチョロいのか? なんて思ったりもしてるが。
「と、いうわけで。武先輩、どうします?」
ひとまず場が収まったと感じたのか、中学3年で生徒会副会長の思井佳奈美が苦笑しながら問うてくる。
「今日のところはこれで帰る。救助された人たちは、悪いがここで身の振り方を考えておいてほしい。しばらくはこのままでいていいから」
食事は用意した。
シャワーも、この大学の施設を使えるようにした。
寝具に、マットレスとシーツ、枕を人数分。
恋人同士とかはいないようなので、男女で休む場所を分けた。
狭くなりすぎないように、女性も複数の班に分ける。
個室がいい人は、我慢してもらうしかない。
世話するための環境を整えるためにもポイントは必要で、そのポイントも無限じゃないから。
被害女性の世話は、できるだけ女性の眷属屍鬼。武器になりそうなものは持たせない。
被害男性の世話は、威圧感を与えないように、あまり強そうに見えない眷属屍鬼で対応する。
休む場所には、円筒状のダルマストーブみたいな形の冷房魔道具を設置。ショップで買えた。
魔物からドロップした魔石を入れるか、MPを消費すると稼働する仕組みらしい。
眷属屍鬼は、世話役のほかに護衛としても多数配置する。
後日、レベル1に上げるための講習会もやる予定だ。でもそれは、被害者たちが落ち着いてからでもいいだろう。
なにかしていた方が気が紛れる人もいるかもしれないが、今は休ませた方がいいと判断して。
一通り説明したあと、がれきの撤去など片付けをする眷属屍鬼を残して、バスで移動する。
残してきた被害者たちに後ろ髪を引かれるような思いをしながら、おれたちの拠点へ、《要塞》化した市立要第一中学校へと帰還した。
戻ったら戻ったで、市役所避難所からメールが届いていた。
現在、拠点となっている要第一中学校には、同中学と高校の生き残りが、女子を中心に生活している。
彼女たちの両親や兄弟などの家族は無事かどうか避難者リストを市役所避難所の職員の人に作ってもらっていたが、該当する人物がいることが分かった。
乙骨優の母が、市役所に避難していることが分かった。
乙骨優の父は警察官で、今はおれの眷属屍鬼として警ら巡回、魔物掃討、避難者の保護と移送を行っている。
あいつ、黙ってやがったな。
母が無事だったなら、なんでもするから父を生き返らせてほしいと言っていたくせに。
おれか、他のみんなに遠慮したのか。
ちょっと、思うところが出てきたので、乙骨優を部屋に呼び出す。
「やほ、どしたの?」
パッと見は、普段と変わらない様子。
でも、体は小さくても、子どもじゃなく大人だ。
守られるだけの女じゃなくて、社会に出て世間の荒波に揉まれた社会人だ。
態度をごまかすくらいはできるのだろう。たぶん。
「………………なにこれ」
黙って、蘇生薬を差し出す。
「どうしたの? あ、我慢できなくなった? まあ、男の子だからね。しょうがないよね」
「茶化すな」
目をそらして恥ずかしそうに髪をいじる乙骨優の目を見据えて、言い放つ。
「おれは、たしかに、大人としてのあなたに助けを求めた。でも、自分自身の喜びまで我慢しろとは言ってない」
「………………はぁ」
ごまかしは許さないとばかりに、口を結んだまま目線で圧をかける。
乙骨優は、しばらく待って、ようやく息を吐き、語りだした。
「まあ、それはそうなんだけどさ。お母さんのためには、お父さんに生きててほしいよ。それはそうとして、私は我慢できる。我慢できたの」
少し、会話が止まる。
「きみには、膝と手をついて頭下げてお願いされた側としてさ。大人として、ほかの子たちよりは耐えなきゃなって思ってるのよ」
乙骨優は目を合わせてくれない。
「そうか。じゃあ、あとはおれが勝手にやる」
「えっ」
「以前、何してもいいって言った言葉どおり、好き勝手やらせてもらう」
「あ、や、その」
「拒否しても、許さない。逃さないから」
「ええー…………はぁ、分かった。分かりました。あんまりめちゃくちゃなことはされたくないけど、こんな胸も薄くて背も小さいちんちくりんでよかったら、いろいろさせてあげる」
好き勝手、でナニを想像したのか。
乙骨優は自分から、罠にはまりに来たように言う。
おれは何も、罠とか設置してないんだが。
「んーん、むしろ、世話になりっぱなしだし、できる限りいろいろしてあげるね」
そうは言いつつ、蘇生薬は受け取らない。
「私、きみとの子どもはほしいけど、責任までは求めないから。そこら辺は気楽にね」
乙骨優の、じっとりとした視線を受けて、なんか、なにかを決定的にミスった気がした。
両親を想う気持ちに嘘つくなって言ったつもりが。
か、鑑定スキル先生。乙骨優はいったいどうしたんでしょうか。
・乙骨 優 レベル24 タイプ:人
クラス:メンタルヒーラー
新人ポンコツ警官。サイズはB。
争いごとがなにより苦手な平和主義者。
聞き手として、他者の話に根気強く付き合うことは得意としている。
大人としての自負と、悲惨な現状に、自分だけ家族を救ってもらうのは違うと我慢してきた。しかし、逃げ道をふさぐような言い方をされて吹っ切れた。
蘇生薬のお礼を理由にして、平坂武と一線越える覚悟は完了している。
それはそうとして、巨乳好きな平坂武のために、豊胸薬とかないかショップで探したり、バストアップの手段とか探していたりする。
目指せ合法ロリ巨乳。
小さい体でも無限の包容力。唯一無二の存在になりたい。
……この者に、暴走している自覚はない。
だいたいはお前のせいだ。
責任を取れ。
好感度はS。(なんでもしてあげる)
素質:光
適性:料理人、保母さん、うたのお姉さん、僧侶、付与術師
…………えっと、その。
か、鑑定スキル先生ぃ……。




