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20/22

第20話:3日目、9:00 要第一高校再訪

 世界が変わり、平和は失われた。

 教師という立場なんて、暴力の前では何の役にも立たない。


 初日の夜、平坂くんが助けに来てくれてからも、生き残った生徒たちで交代で休みながらなんとか夜を明かした。

 この時点でクラスチェンジしている生徒もいて、私も付与術師を選択した。

 平坂くんからもらった《ヒール》のスキルを活かしつつ、一時的な能力上昇や耐性の付与を可能とする付与術師は、生徒会長の御剣(みつるぎ)双葉(ふたば)さんという、ある生徒の暴挙によって失われた戦力的・精神的支柱の代わりになり得るもので、2日目も散発的な襲撃はあったものの、初日と比べれば敵の数が激減していて、体を休める余裕もあった。


 ふと、気がつくと、男子と、女子と、男女混合の3つの組に分かれて集まっていた。

 女子組は私の周囲に集まり、今後どうするかを真剣に話し合っていた。

 時折意見を求められ、それに応じつつも、体育館の外の監視も怠らないように心がける。

 男女混合の組は、恋人同士で集まっているようで、寄り添って励ましあいながら前衛後衛などの情報交換をして、外へ出て活動するためのチーム分けを検討していた。


 そして、男子組は……。

 一番数が多く、それでいて、なにを考えているのか分からないものの、時折こちらを見てニヤリと笑う者もいた。

 そのたびに女子たちは、キモいだの鳥肌たっただのと嫌悪を示していた。


 これは、よくない。


 悪夢のような初日の生き残りが、さらに数を減らして2日目を迎えた中で、分裂が起きてしまうと、取り返しがつかないことになってしまいかねない。


 E-フォンの、連絡先に表示されている男子の名前を見る。


 入学式を終えた次の日に、自筆の退学届を提出してきた男子。


 折れて壊れそうな心を救おうと、手を差し伸べた結果、魔物の襲撃から救い出してくれた男子。


 今、私を支えるのは、大人として、教師としての使命感のみ。


 絶え間ない攻めを受けた地獄のような1日目と、わずかな戦闘で終えられた2日目。


 余裕が出てきた男子たちの、粘つくような視線に、心が削られる思いだ。


 体育館の地下に保存されている、レトルトのごはんと缶詰という味気ない朝食を済ませ、今日は外に出て周辺の様子を探ろうかとミーティングをしている最中。


 女子たちと、混合組の男子女子、合わせて3分の2ほどの生徒たちと私が、急に倒れた。


 身体に力が入らず、視線を動かすのも一苦労。

 苦労して、わずかに体を動かし周囲の状況を確認しようとすれば、


 男子たちが一斉に立ち上がり、前に立ちふさがった数人の男子を殴り飛ばし、動かなくなるまで蹴りつけ、動けない私と女子たちに視線を向けた。


 獲物を前にした、飢えた獣のような、ギラついた目を。


 なぜ。頭はその言葉で埋め尽くされ、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる男子に恐怖を覚える。


 体は動かないまま、腕を掴まれ乱暴に転がされ、仰向けにされる。


 目が見開かれ、ニヤついた気色悪い表情で伸ばされる手を見て、悟った。


 これから、めちゃくちゃにされてしまうのだと。


 恐怖を煽るように、ゆっくり近づいてくる男子。

 体は動かず、声も出せない。

 なにもかも、あきらめてしまいそうになった時、女子の1人が絶叫し、助けを求めた。


 いもしない、誰かに。


 誰か、助けて。と。


 助けなんて、来るわけがないのに。


 日付が変わった頃増えてきた死霊(レイス)悪霊(ゴースト)を《死霊操術》で眷属にしつつ、ゴブリンやコボルトなどのゾンビも死霊操術で操りアイテムボックスに放り込む。

 獣類は《モンスターテイム》で従魔にできるものはして、できないものは敵として仕留める。

 主に、虫などの知能が低いものは従魔にしづらい傾向にあるようだ。

 小型犬ほどもある巨大なアリのビッグアントや、毒の鱗粉を撒き散らしながら飛ぶガのポイズンモス、ニシキヘビサイズの毒を持つ巨大ヘビのポイズンバイパーなどなど、夜の闇に紛れて徘徊する危険な魔物を退治していく。

 明け方に見つけた、強力な麻痺毒を持つスズメバチのビッグホーネットはヤバかった。

 背丈が1mくらいあるゴブリンから鋭く研いだ石の槍で突かれてもものともせず、毒針を撃ち込んで麻痺させ自身より大きなゴブリンを持ち去っていった。


 アレは危険だと後を追い、見つけた巣は4〜5階建てのアパートかなんかみたいに巨大だった。



・ビッグホーネット レベル7 タイプ:虫・毒・飛行

 :強力な麻痺毒を持ち空も飛ぶ危険なスズメバチの魔物。

 小型犬サイズの大きさで、毒針を突き刺し獲物を麻痺させた後、自身よりも重い獲物を空を飛んで運ぶことのできる危険な存在。

 虫、肉類、花の蜜などが好物。

 ドロップ:虫のアゴ、虫の翅、虫の外殻、虫の脚、虫の鉤爪、毒針、毒液、麻痺針、麻痺液、飛投剣ホーネットニードル



・クイーンホーネット レベル33 タイプ:虫・毒・飛行・女王

 :非常に強力な麻痺毒を持ち空も飛ぶ危険なスズメバチの魔物。

 4mを越えるサイズの大きさで、戦闘力も非常に高く卵を産み配下を増やす危険な存在。

 虫、肉類、花の蜜などが好物。

 ドロップ:虫の大アゴ、虫の斬翅、虫の堅外殻、虫の堅脚、虫の鋭鉤爪、猛毒針、猛毒液、強麻痺針、強麻痺液、インセクトキラー、蜂王弓クイーンショット、蜂矢ホーネットアロー、蜂針剣ホーネットレイピア



 人が問題なく入れるほど大きい巣に侵入し、中のデカいスズメバチを鏖殺(ミナゴロシ)にした。

 幼虫は仕留め卵も全部アイテムボックスに放り込む。

 幼虫のドロップアイテムは全部ハチミツとハチミツ酒。

 ……ホーネットはミツバチではないというツッコミは、受け付けていないようだ……。


 ホーネットはドロップの種類が多くても、固有武器などはなかなか出ない。

 一応飛投剣ホーネットニードルとインセクトキラーは出たが、ホーネットニードルは注射器と棒手裏剣を足したような投擲武器で、インセクトキラーはレイピアみたいなナックルガード付きの細身の剣だった。

 ……どちらも毒を付与できる状態異常武器だが、どちらかというと、弓と矢の方が欲しかった。

 三樹(みき)へのいい土産になると思ったんだが。




 8:00


 ホーネットの巣を壊滅させ巣自体をアイテムボックスに収納する頃には、7時を過ぎていた。

 急いで中学校まで帰還すると、既に全員起きているようで……。


 ……朝食、食べずに待っていた……。


「朝帰り」


 三樹がジト目でつぶやく。


「あとで、()()しよう」


 双葉(ふたば)さんが、にっこり笑う。


「はいはい。まずは、ごはんを食べてしまいましょう」


 一華(いちか)さんの号令で、みんないただきますして食べ始める。

 おれは……。乙骨(おっこつ)(ゆう)弓削(ゆげ)奈月(なつき)さんの先輩後輩コンビに挟まれた席に案内される。


「もう。みんな待ってたんだからね?」


「ケガはなさそうだけど……。朝起きてもまだ帰ってきてなかったから、泣きそうになってた子もいるのよ?」


 ……うん、心が痛い。

 時間を忘れてホーネットを狩り尽くしていたおれが全面的に悪いので、言い訳のしようもない。


 白米、豆腐とネギのみそ汁、焼き鮭と玉子焼き、切り干し大根のお浸しにサラダ。

 どれも美味しかった。

 乙骨優がおかわり要る? おしょうゆ使う? としきりに世話を焼きたがっていてちょっとウザかったけれど。




 9:00


 朝食後、お弁当でーすと居残り組の女子たちからおにぎりとおかずが入った使い捨てのトレーと割りばし、ペットボトルのお茶を受け取り、メインメンバーに設定した、御剣(みつるぎ)一華(いちか)さん、双葉(ふたば)さん、三樹(みき)の三姉妹、(あずま)(まい)さん、西園(にしぞの)美麗(みれい)さんの高校生組、思井(おもい)佳奈美(かなみ)田力(たぢから)瑠衣(るい)相沢(あいざわ)(らん)篠原(しのはら)(あゆむ)の中学生生徒会メンバーと西園美鈴(みすず)、ポンコツもとい乙骨(おっこつ)(ゆう)と先輩の弓削(ゆげ)奈月(なつき)さんの13人で要第一高校まで移動する。


 夜のうちの魔物掃討のおかげか、要第一高校までは戦闘もなく順調に進む。

 高校の敷地内に入り、魔物や屍鬼の一体もいないことにホッとしていると、体育館の方から悲鳴というか絶叫が聞こえる。


 なにか起きたのかと急いで駆けつければ、


「…………お前ら、なにやってんだ?」


 体育館の中では、倒れている女子たちと、数人の女子に寄り添うように倒れている少数男子と、女子に手を伸ばしている男子たちと、ボロボロになって倒れている数人の男子というわけが分からない状況。



佐藤(さとう)(すず) レベル14 タイプ:人・術士

 クラス:付与術師

 市立要第一高校1年A組担任。サイズはE。

 かつての憧れに胸を弾ませ、周囲の反対を押し切って教師になった。

 理想と現実の狭間で苦悩しながらも初の担任に気を引き締めていたところ、2日目から退学届を提出した平坂武に同情し、職責を越えないように気をつけながら支えになりたいと行動してきた。

 弟を見守る姉のような心持ちでいたが、踏み込みすぎて生徒と教師という一線を越えてしまいそうと思っている。

 麻痺の状態異常を受けて動けない。

 ショップで購入した麻痺薬を使用したものと推測される。

 好感度はA。(好き)

 素質:水・土・光・木

 適性:魔術師、僧侶、付与術師、テイマー、召喚師、薬師



「なにやってんだと聞いてんだが……。見たまんまか。……クソが。死ね」


「殺しちゃだめ!」


 倒れて動けない佐藤先生の服に手をかけている男子目がけて一気に接近し、日付が変わった際また進化した蛮刀を引き抜き、振り下ろそうとして、双葉さんの制止で刃を返しみねうちを選んだ。

 みねうちといっても強化されたステータスと金属の塊でぶちのめされたのだから、男子は吹っ飛び蛮刀で打ち据えた腕はまあ悲惨なことになっていた。


「殺しちゃだめだよ。間に合ったんだから、殺しちゃだめ」


 双葉さんが追いついてきて、肩に手を置く。


 そう。間に合った。

 まだ大丈夫だろうと余裕ぶっこいて、ただの様子見のつもりだった。

 その判断で、間に合った。

 恩人の危機を救うことができた。


 だからといって、凶行に走った連中を、許せというのは……。


「殺しちゃだめだけど、ぶちのめそう」


 双葉さんがそう言っておれに向かい微笑むと、近くの暴行未遂男子に一瞬で接近し刀でみねうちした。


 …………えーと、両腕両足両脇腹股間で、7回くらい。

 ギリギリ気絶しないように調整された一瞬の七連撃で悶絶している暴行未遂男子。


 躊躇ない股間への一撃を見て、ヒュッとした。


「男子たち、今すぐ女子たちから離れなさい。素直に言うことを聞くならそれでいいけれども、従わない場合は……」


 じゃきっと、刀を構える双葉さん。

 ……わ、すごい、かっこいい。


「痛い目、見てもらうよ?」


 啖呵切った双葉さんに対して、暴行未遂男子どもは多くが立ち上がり、双葉さんに一斉に襲いかかっていった。


 まあ、結果は予想通り。

 某時代劇の世を忍ぶ将軍様の殺陣(たて)シーンみたいな無双ぶりで、次々と暴行未遂男子どもを打ち倒していく双葉さんと、一華さん。


 今にも呪い殺そうとしてる相沢と殴り殺そうとしてる瑠衣は、ステイ。

 おれも我慢してるんだから、お前らも我慢しなさい。

 それよりかは、麻痺してる女子と男子、暴行を受けたと見られる男子を回復させよう。

 僧侶にクラスチェンジした(あずま)さんと佳奈美(かなみ)はまだレベルが低く、麻痺の状態異常を回復するスキルは取得していなかった。

 なので、暴行受けた男子の傷を癒してもらい、おれがショップで買った解麻痺薬を麻痺している生徒たちに飲ませる。

 その効果は絶大で、薬液を飲み込んだ瞬間から麻痺が回復し起き上がることができていた。


 ……って、きみも待ちなさい。被害者だからやり返したい気持ちも理解できるけど、今やりすぎないように調整しながら懲らしめてもらってるのだから。


 そうでなきゃ、おれが鏖殺(ミナゴロシ)にしてるよ。


「……成敗!」


「美鈴ちゃん、しー。静かにしてようよ」


 最後の暴行未遂男子を2人でうちのめし、残心している一華さんと双葉さんに合わせるように西園美鈴が決めゼリフを言っていた。

 これにはさすがの親友篠原歩も呆れ顔。



 …………これで、よかったんだよな。


 要第一高校の生き残り女子たちと佐藤先生は無事。

 一部女子の彼氏と思われる男子たちも、ただ麻痺していただけで無事。

 暴走を阻止しようと立ち上がった少数の男子たちも、回復魔法(ヒール)で元気になった。

 自暴自棄になって女子たちを襲った男子どもは、ボコボコにした。


 これでよかったんだ。


「先生。佐藤鈴先生。おれは、間に合いましたか? こんななるんなら、もっと早く来ればよかったですよね」


 佐藤先生の引き裂かれたシャツをスキル《修繕》で直す。


「でも、今度は一緒に来てもらいます。嫌といっても連れていきます」


 教師としてがんばってきたのに、その結果がこれなんて、傷ついたんじゃないだろうか。

 男になんて、近寄ってほしくないだろう。

 でも、要第一中学校(おれの要塞)に来れば、あとは大丈夫。

 これまで受けた恩を返していくだけだ。


「ずっと、おれの心を守ってもらった分、今度はおれがあなたを守りますから」


 抱きしめてしまいたい気持ちを抑え、怯えさせないように、そっと手を取って頭を下げる。

 先生には、本当に感謝しかない。


 ……そんなことを思っていたら、


「……ありがとう、武くん、ありがとう。助かったわ。本当にありがとう」


 急に、抱きしめられて、頭が真っ白になった。



※3日目開始時点での情報


平坂(ひらさか) (たける) レベル50(+15) タイプ:人・修羅・戦士・術士

 クラス:ネクロマンサー

 素質:火・風・闇・雷・木

 適正:双剣士・闇戦士・暗殺者・召喚師・呪術師・死霊騎士(ネクロナイト)・狂戦士・蛮族


御剣(みつるぎ) 一華(いちか) レベル26 タイプ:人・戦士

 クラス:将軍

 素質:水・風・光・木

 適性:侍、将軍、巫女、騎士、騎兵、槍士、戦士


御剣(みつるぎ) 双葉(ふたば) レベル25 タイプ:人・戦士

 クラス:剣舞姫(ソードダンサー)

 素質:水・風・光・木

 適性:剣舞姫(ソードダンサー)、侍、将軍、巫女、騎士、騎兵、剣士、戦士


御剣(みつるぎ) 三樹(みき) レベル7 タイプ:人・戦士

 クラス:弓術士

 素質:水・風・光・木

 適性:弓術士、狩人、スナイパー、侍、巫女


(あずま)(まい) レベル9 タイプ:人・術士

 クラス:僧侶

 素質:水、風、光

 適性:付与術師、僧侶


西園(にしぞの)美麗(みれい) レベル9 タイプ:人・術士

 クラス:魔術師

 素質:火、風、光

 適性:魔術師


佐藤(さとう)(すず) レベル14 タイプ:人・術士

 クラス:付与術師

 素質:水・土・光・木

 適性:魔術師、僧侶、付与術師、テイマー、召喚師、薬師


思井(おもい)佳奈美(かなみ) レベル7 タイプ:人・術士

 クラス:僧侶

 素質:水・土・光・氷

 適性:魔術師、僧侶、付与術師


田力(たぢから) 瑠衣(るい) レベル7 タイプ:人・戦士

 タイプ:格闘家

 素質:火・風

 適性:格闘家・軽戦士・戦士


相沢(あいざわ) (らん) レベル7 タイプ:人・魔女・術士

 クラス:呪術師

 素質:火・風・闇・雷

 適性:魔術師、付与術師、呪術師、人形師、召喚師、薬師、幻術師、奇術士


篠原(しのはら) (あゆむ) レベル7 タイプ:人・術士

 クラス:人形師

 素質:水・土・木

 適性:付与術師、人形師、呪術師


西園(にしぞの)美鈴(みすず) レベル7 タイプ:人・戦士

クラス:忍者

 素質:風・雷

 適性:軽戦士、軽業師、忍者


弓削(ゆげ) 奈月(なつき): レベル15 タイプ:人・戦士

 クラス:騎馬武者

 素質:土・木

 適性:騎馬武者、弓騎兵、弓術士、スナイパー、巫女


乙骨(おっこつ) (ゆう) レベル7 タイプ:人

 クラス:料理人

 素質:光

 適性:料理人、保母さん、うたのお姉さん、僧侶、付与術師


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