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ドラゴン・パークをつくろう!  作者: 伊栄寿 大好
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それはいわゆるヤンキー効果?


「ほわあああ~! ブルー、ほんとに子どもが生まれたんだねぇ! 小さいねぇ、かわいいねぇ! 男の子かな、女の子かな? どちらにせよ頑張ったねぇ~!」


 とベッド代わりのバスケットが置かれたラドニアの部屋の床に()いつくばりながら、まるで初孫の誕生を喜ぶ(じい)さんみたいな猫撫で声を上げるヘスペルを、ブルーが冷ややかな()で見つめていた。


 その横顔には人間の俺が見ても分かるほどはっきりと「うざ……」という感情が表れているのだが、当のヘスペルが気づいている様子はまったくない。


 何しろ今のヘスペルは、ふかふかのクッションの上で眠るスカイの愛らしさにメロメロのデレデレだ。


 ブルーの卵が無事(かえ)り、スカイが記念すべき最初の一歩を踏み出してからしばらくが過ぎた頃。既に竜の園(ドラゴンメナジェリー)へ出勤していたため遅れて駆けつけたヘスペルは、俺たちがスカイと名づけた仔竜の姿をひと目見た瞬間からずっとこの調子だった。


 が、自力で殻を割って世界を飛び出すという重労働を終えたあとで疲れ切った我が子を抱くブルーは、そんなヘスペルが鬱陶しくてたまらないといった感じだ。


 しかし終始不機嫌そうな顔をしながらも、うなったり噛みついたりする素振りを見せないのはブルーなりの譲歩だろうか。


 ヘスペルがスカイの誕生を心から喜んでいることだけは(ニュミナ)で伝わっているはずだから、今回は大目に見てやろうという心境なのかもしれない。


 ただしあの状態があと五分も続けばさすがのブルーも我慢の限界を迎えて、今度こそ本気で牙を剥くかもしれないが。


「おお、いいな、かなりうまく描けてるじゃないか。特にこのブルーとスカイが寄り添ってるスケッチがいい。こいつと、あとはスカイ単体のスケッチと、一応孵化直後の卵のスケッチもほしいかな。どれも園の正式な記録として残したいから、あとでブルーの飼育日誌に描き写しておいてもらえるか? でもってもし時間があれば、俺が個人的につけてる日誌用にも一枚もらえると有り難いんだが……」

「ふふ、構いませんよ。ではのちほど別の用紙にスケッチを複写したものをお渡しします。今ご指定いただいた三つの絵でよろしいんですよね?」

「おう、助かる助かる。けど俺の分は本当に時間があったらでいいからな。ま、おまえの腕なら同じスケッチをもう一度描くくらい、大して時間もかけずにサササッとできちまうんだろうけどさ」


 と、俺が先程描かれたばかりのスケッチを手に記録係(シエル)へそう声をかけたのは、そんなヘスペルらをラドニアの部屋に置いて下りた宮の食堂でのことだった。


 俺の言葉に笑って頬を掻いたシエルは照れ臭そうだったが、ここ数日で褒められることにも多少慣れたのか、以前のように過度に謙遜したり恐縮したりする素振りはない。そういうシエルの反応を見て、どうやら俺が懲罰房にぶち込まれている間に再びアスバルたちから因縁をつけられるようなことはなかったらしいなと、内心胸を撫で下ろした。


 俺が数日前に園の記録広報係に任命したシエルは、ブルーの卵がついに孵りそうだとの知らせを受けて、さっきヘスペルと一緒に駆けつけてくれたところだ。ふたりが到着した頃にはもう卵は孵化したあとだったが、どちらにせよ貴重な記録であることに変わりはないから、俺はすぐに生まれたてのスカイの姿を描き取らせた。


 アゴログンドにカメラが存在しない以上、今後もスカイの成長記録はシエルが手がけた挿絵と共に残していくことになるだろう。いやあ、しかし卵が孵る前に絵描きの才能がある人材を確保できててよかったぜ。


 やっぱり文章だけとなると、記録としてはいささか物足りないからな。


「にしても、俺が留守にしてる間も、たくさん竜のスケッチを描いてくれてたんだな。前に見せてもらったときよりもかなりページが増えてるじゃねえか」

「は、はい。最初のうちは少し怖かったんですけど、慣れてくると竜たちの色んな仕草や表情を描き写すのがとても楽しくて……こうして見ると竜も人間と同じくらい表情豊かで、色々な感情を持っているんだと分かりますね」

「だろ? たとえ言葉が通じなくたって生き物は生き物だからな。竜だって生きてる限り、人間と同じように喜んだり悲しんだりするのは当然さ。おまけによーく観察してみると、案外人間くさいところもあったりして面白いんだぜ? カールなんてこないだ寝ながらムニャムニャ寝言を言ってたしさ。やっぱり竜も夢を見たりするんだなって、あんときゃ思わず興奮したね」

「……リュージさんは本当に竜がお好きなんですね。普通は誰もが怖がって避けるような相手にも臆せず向かっていけるだなんて、すごいです」

「ん、そうかあ? まあ俺の場合は竜が好きというか、生き物全般が好きで好きでたまらんって感じだからな。おかげで動物バカすぎて女にフラれたりもしたが、それでも治らん程度には我ながら重症で……」

「リュージ! ハイビス、アロアロ、いっぱい!」


 ところが刹那、俺とシエルが話し込んでいるうちに、ティアとふたりで勝手にクロッキー帳を(めく)っていたイヴが弾んだ声を上げた。


「ん?」と思った俺が再びテーブルの上へ視線を落としてみると、なるほど、開かれたページには確かに同じ竜の絵ばかりがびっしりと描き込まれている。


 イヴが〝ハイビス〟と〝アロアロ〟と呼んだその竜は、花竜(フラワー・ドラゴン)という種の小型竜だった。花竜は名前のとおり、大きな花びらに似た襞状(ひだじょう)襟飾(えりかざ)りと飛膜を持ったトロピカルな見た目の竜で、竜格(ランク)羽毛竜(ブルー)と同じ二級。


 鮮やかな黄緑色の(うろこ)に覆われた姿は本物の花のように美しいが、一応有翼類(ゆうよくるい)に当たるため、竜毒(ドラコヴェノム)を持つ種として警戒が必要な竜でもあった。


 現在竜の園にはそんな花竜が二頭いる。それがハイビスとアロアロだ。二匹の名前は首周りにある襟飾りの色や形が、地球で言うところのハイビスカス──あの花はハワイでは〝アロアロ〟と呼ばれる──に似ていることから俺がつけた。


 だが先程パラパラと眺めたクロッキー帳の中に花竜のスケッチなんてあったかなと、俺は改めてページを捲ってみる。すると妙なことが判明した。


 というのもイヴたちが眺めていた花竜のスケッチは、他の竜のスケッチが雑多に描かれたページから数枚の白紙を挟んだ先にあり、ゆえにさっきは続きがあることに気がつかなかったのだ。


「あー……すごいな、確かに何ページもハイビスとアロアロのスケッチでいっぱいだ。シエル、おまえ、もしかして花竜が好きなのか?」

「えっ……あ、いえ、それは……」


 と俺の質問に何故か言葉を濁し、シエルは気まずそうにうつむいた。


 ……何だ?


 今、こいつの目の前には花竜どころか竜族全部大好きオジサンの俺がいるのだから、別に花竜が好きだとしても恥ずかしがることはないと思うのだが。


「……あの、実は、私が特別花竜を好いているわけではないのですが……以前から何度か、アスバルさんが花竜の(おり)の前でぼーっとしているところを見かけたことがあるんです。そういうときは決まっておひとりで、いつも以上に近づき難い雰囲気があって……」

「アスバルが?」

「はい。他の竜には大して興味を示さないのに、花竜だけは気になるようで……それで私も、ハイビスとアロアロのことが気にかかるようになったんです」


 とまるで罪の告白でもするように華奢(きゃしゃ)な肩を竦めながら、シエルは花竜のスケッチだけが異様に多い理由をそう語った。


 にしてもあのアスバルが花竜に興味を示しているというのは初耳だ。


 乱暴者のあいつならもっと大きくて、見るからに凶暴な竜に親近感を抱きそうなものなのに、そんなイメージとは真逆の小型竜を気にかけるだなんてどういう風の吹き回しだろうか。実はああ見えて案外カワイイもの好きとか?


 だとしたら、不良が雨の日の公園で捨て猫に傘を差しかけてやっている……なんてベタでお約束のシチュエーションよりよっぽど衝撃的な展開だぞ。


 実際の花竜は見た目もサイズも、ハイビスカスを擬人化ならぬ擬竜化したようなファンシーでメルヘンチックな竜だからな。


「そ、そうか……そいつはずいぶんと意外だな。あいつが竜に関心を持ってるってだけでも個人的には驚きだが、中でも花竜にご執心とは……しかしなんであの二匹なんだ? 確かにハイビスとアロアロは温厚で飼育しやすいし、見た目もかなり目を引くけどさ……」


 と俺が思わず顎に手をやって首を(ひね)れば、隣のイヴとティアまで仲良く首を拈ってみせた。が、反対側の席に座ったシエルは相変わらずうつむいたままで、何やら思い詰めたような顔をしている。それに気がついた俺は、もしやシエルはアスバルが花竜を気にかける理由にも察しがついているのではないかと思った。


 ゆえに聞き出してみようとした矢先、にわかにきゅっと唇を引き結んだシエルが覚悟を決めた様子で顔を上げ、まっすぐに俺の目を見据えて、言う。


「あ……あの、リュージさん。私、リュージさんに、どうしてもお話しておかなければならないことがあるんです」

「話しておかなきゃならないこと?」

「はい。リュージさんが園に戻ってこられたら、きっと打ち明けようと思っていました。……すみません。隠していたわけではないのですが、実は、私は──」


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