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ドラゴン・パークをつくろう!  作者: 伊栄寿 大好
36/81

絶讃逃走中(★)


 レクスが息を引き取ったあと、ラドニアから興味深い話を聞いた。何でも竜の遺骸というのはとても稀少で、自然界ではなかなかお目にかかれないものらしい。


 それは竜の個体数が激減する前から言われていたことで、野生下ではどういうわけか、死んだ竜の肉体は骨さえ残らないのだという。


 原因として現状最も有力なのは、竜の腐肉を食らう竜や魔獣が存在するのではないかという説。ところがソフィア暦四三五年現在、そんな生物の目撃情報は一切なく、竜の亡骸が消える謎は未だ解明されていないとのことだった。


 が、当然ながらアゴログンドで唯一の竜学者であるラドニアはこの謎に強い興味を持ち、過去にある実験を試みたらしい。


 というのも、角や内臓を採るために殺された竜の亡骸を運よく手に入れることに成功し、そいつを使って遺骸が消える謎を解き明かそうと考えたのだ。


 ラドニアは早速入手した亡骸を携えて森へ入り、獣道にそれを放置した。


 そうして自身は茂みの中に身を隠し、数日間その場を離れずに、どんな生き物が寄ってくるのか観察を続けたそうだ。


 ところがなんと成果はゼロ。竜の屍肉を食らう生き物などまったく現れなかったどころか、普段獣道を行き来しているであろう魔獣さえも姿を見せず、結果放置された亡骸はゆっくりと土に還っただけだったという。


「実験の手順や場所に問題があった可能性も考慮して、竜の遺骸が手に入るたびに様々な手法を試したわ。だけど何度繰り返しても、竜の死体に寄ってくる生き物なんていなかった。そもそも自然界では竜を捕食する生物はいないというのが定説だし、やっぱりどう考えても他の理由があるのよ。……まあ、今のところはまだ見当もつかないけどね」


 肩を竦めてそう話していたラドニアは、だからこそ死んだレクスの亡骸も有効に活用させてもらうと意気込んでいた。


 地球の動物園でもそうだが、園で死んだ動物というのは大抵の場合獣医によって解剖される。そうすることで正確な死因が特定できたり、滅多に解剖できない生き物の体の構造を研究できたりと、とにかく色々な情報が得られるためだ。


 特にアゴログンドの竜たちは、前述の理由もあってなかなか解剖の機会に恵まれない。ゆえにラドニアは今後一匹でも多くの一角竜(ホーン・ドラゴン)を救えるよう、レクスの体は隅々まで調べさせてもらうと言っていた。まあ、どのみちレクスほどの巨体ともなると、遺体を運び出すためには解体しなきゃならないしな。


 俺の頭の中には他にもレクスの死を無駄にしないためのプランがいくつかあるのだが、その話は今はいい。すべてはラドニアの解剖調査が終わってからだ。


 で、それまで手持ち無沙汰な俺たちは何をしているかというと、


「──あああああああッ! こ、こんな魔獣がいるとか聞いてねえええええ!」


 はい。絶讃追われてます。ケルベロスとかいう化け物に。


『りゅ、リュージさん! リュージさんたちが今いる母大樹(ぼだいじゅ)の森は、いわゆる〝覚醒〟と呼ばれる状態に入っていて……! そのせいで土地の源素(エレメント)のバランスが火に偏ってしまい、森全体が渇水状態なんです! そ、そして今リュージさんが連れているフレディは、お察しのとおり水属性のスライムなので……!』

「なるほど! つまり喉がカラカラのケルベロスは、フレディをつるんとおいしくいただいちゃいたいわけですね!」

『ご、ご明察です……! スライムは源素組成(エレメンツ)の八割が水素なので、水素の供給源としては大変優秀なんですよね……!』


 うーん、そうか。人間も水分含有量の多いモヤシやキュウリを食べると、腹を満たしながら水分補給もできて夏場なんかは重宝するって言うもんな。


 確かキュウリを一本と半分食えば、コップ一杯の水と同じくらいの水分が摂取できるって話だったか。だから食べると体温を下げる効果もあって、キュウリは夏バテや熱中症予防に最適! って言われてたんだよな。


 ああ、そんなことを考えてたら故郷の味が恋しくなってきた。


 久しぶりにキュウリの浅漬けが食いてえなあ……とか言ってる場合かァ!


 ひと月前、俺がアゴログンドで最初に目にした燃え盛る赤い森。帝都メアレストから馬で数日行った先にあるあの母大樹の森で、俺は現在左手にフレディ入りの瓶を抱え、右手でイヴの手を引きながら、猛り狂う異形の獣に追い立てられていた。


 さっきから俺たちを執拗に追いかけてくる魔獣の名はケルベロス。

 そう、かの有名なギリシャ神話に登場する地獄の番人──三つ首の黒い猛犬だ。

 いや、より正確には赤黒い、か。

 まるで全身に血を浴びたような不吉な風合いの体色だった。

 おまけに頭が三つなら尻尾も三つ。

 その尻尾を豪快に振り回し、ケルベロスはどこまでもどこまでも追ってくる。


「くそ! シャム双生児的なアレならまだしも、三つ首がデフォの生き物ってどういうことだよ!? ひとつの体に脳みそが三つもあるメリットなんて生物学的に皆無だろうがァ!」


 と、俺はヤケクソ気味に叫びながら、目の前の地面をのたうつ木の根を飛び越えた。そうして改めて後ろを振り向いてみると……うん、やっぱり三つ首だ。


 しかも三つの犬の頭はそれぞれ別の意思を持って動いているように見える。ということは、ひとつの頭につき一個の脳みそを持ってると考えて間違いないよな?


 体長は大人のクロサイくらい。つまり地球で陸上最大の捕食者だったホッキョクグマを軽く超えている。神話のように首や尻から蛇が生えている……なんてことはさすがにないものの、フレディを通じて交信中のアリスター博士(いわ)く、ケルベロスの牙には強い毒性があるらしかった。


 というのもやつは腐肉食の魔獣だから、口の中は危険な闇素(ざっきん)だらけ。


 よってひとたび噛みつかれれば、たちまち深刻な感染症を引き起こし、たとえ逃げ切れたとしても生命の危機は回避できない。くそ、くそ、くそ!


 こんなときに限って、フリーダたちはどこに行っちまったんだよ!?


▼シャム双生児

挿絵(By みてみん)


 一卵性双生児誕生の際、分離するはずの受精卵が何らかの原因で分離し切れず、一部がくっついた状態で誕生する双子のこと。正式には結合双生児と言い「シャム双生児」という呼び方は、人間の結合双生児の中でも特に有名なチャン&エン・ブンカー兄弟の出生地がシャム(タイ王国の旧称)であったことに由来する。

 およそ5万~20万出生あたり1組程度の割合で発生すると言われ、結合の部位によっては分離手術により単生者となることも可能。

 脳が結合して生まれた場合手術は不可能だが、この状態でも双子の個々に別々の人格があり、一方で五感や思考は共有されるという。


参考・画像引用元:

https://switch-news.com/science/%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%81%AE%E4%BB%B2%E9%96%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%82%8F%E3%81%9A%E3%81%8B9%E4%BE%8B%E3%80%81%E9%A0%AD%E3%81%8C2%E3%81%A4%E3%81%82%E3%82%8B%E7%B5%90%E5%90%88%E5%8F%8C%E7%94%9F/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E5%90%88%E5%8F%8C%E7%94%9F%E5%85%90

https://www.gizmodo.jp/2010/11/post_7947.html

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