ブルグント伯爵令息の証言
私には、フーヴェルオ三世陛下と同じ年に生まれた兄がいた。
それがハゲネ・ブルグント。十七年前、天王竜による皇太子誘拐事件に巻き込まれて命を落とした、陛下の乳兄弟の名だ。
……何? 天王竜とは何か、だと?
そうか……貴君にはまずそこから説明せねばならんのだな……。
その竜の正式な名は、スカイライト・キングドラゴン。
名前のとおり、光属性の竜の頂点に君臨する天空の王だ。魔獣の多くがそうであるように、竜もまた源素組成によって〝属性〟というものがある。たとえばクリソプルが連れている羽毛竜は、肉体を構成する源素の中で風素が最も大きな割合を占めるため風属性。つまり風の竜の王である嵐王竜の眷族というわけだ。
……ああ、そうとも。
各属性ごとの竜の頂点に立ち、彼らを束ねる存在。それが〝竜王〟と呼ばれる特級クラスの竜であり、またの名を〝古代竜〟という。
古代竜たちは数いる竜の中でも特に長命で〝死〟という概念を持たない。
肉体は時間と共に朽ちるが、魂の持つ強力な氣によって新たな器を創り上げ、前世までの記憶を有したまま生と死を繰り返すのだ。
……話が逸れたが、とにかくそうした古代竜の一匹に、天王竜と呼ばれる竜がいる。かの竜は大陸の中央に聳え立つアゴログンドの最高峰──〝天竜の頂〟に棲み、滅多なことでは人前に姿を見せないと聞いた。
ところがその天王竜が十七年前、突如としてセント・ソフィア宮殿を襲い、当時まだ十歳であられたフーヴェルオ三世陛下と、共にいた我が兄を連れ去ったのだ。
……実を言えば、私は当時のことをよく知らない。兄が亡くなったとき私はまだ七歳で、しかも帝都から遠く離れた領地で暮らしていたのでな。
しかし同じ年に生まれたご縁で、兄は幼くして陛下の側付きとなり、母と共に帝都で暮らしていたのだ。だから正直、私は兄のことをほとんど覚えていない。
ただ幼いながらも聡明で、勇敢な少年だったと聞いている。
そしてその勇敢さが兄を殺した。
熟練の竜狩人でさえ恐怖で足が竦むという竜の王を前にして、兄は迷わず剣を抜き放ち、陛下をお守りすべく立ち向かったというのだからな。
……もともと我がブルグント伯爵家は、帝国の西方を治める騎士の家系だ。
ゆえに兄もゆくゆくはブルグント西方騎士団を率いる当主として、陛下の剣となるべく鍛練に明け暮れていたと聞く。皇太子時代の陛下と共に過ごした日々が、兄の忠誠をより強固なものにしたのだろうな。結果、兄は天王竜に食われて死んだ。
ひと太刀も浴びせることなく丸飲みにされ、形見ひとつ遺らなかったそうだ。
……天王竜が陛下を狙った理由?
それならさっきクリソプルが言っていただろう。当時は先帝が起こした竜族狩りの真っ只中で、同族を殺戮された古代竜たちは当然ながら激怒した。ゆえに人質として皇太子を攫い、ただちに戦いの矛を収めるよう先帝に迫ったのだ。
ところが先帝陛下は止まらなかった。
あのお方の竜に対する憎しみが、果たしてどこから来るものであったのか私は知らない。しかしその憎悪に駆られるがまま、先帝は「獣ごときの脅迫に屈するは皇家の名折れ」と逆上し、天竜の頂へ皇属竜狩猟団を向かわせた。
……そう。つまり我が子の命よりも、天王竜の討伐を優先したのだ。
フーヴェルオ三世陛下が今もご健在であらせられるのは、当時狩猟団を率いておられたジーク様とフリーダ様のご活躍によるところが大きい。
……ああ、そうだ。
ジーク様は皇属竜狩猟団の先代団長、すなわちフリーダ様のお父上だな。
あのお方が命を賭して陛下をお救い下さったおかげで、今日のメアレスト帝国がある。もっともジーク様は天王竜との戦いで負った傷が因で、ほどなく世を去ってしまわれたが……。
ともあれ、フリーダ様が今も民から絶大な支持を得ておられるのもそうした過去の偉業ゆえだ。何しろあのお方は当時まだ狩人見習いの身分であったにもかかわらず、自ら討伐隊に志願し、ジーク様による皇太子救出を助けたのだからな。
……だが、母は。
私の母は、実の息子である兄を失った悲しみで心身を病み、そのまま帰らぬ人となってしまった。いまわの際に母は言ったよ。
──竜狩人になりなさい、ギゼル。
そして哀れな兄と母のため、この地上から竜を駆逐するのよ、と。




