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しばらくぶりの更新ですみません><
ブクマ、評価ありがとうございます\^^/
殆ど何も変わったいませんが2と3を少しだけ手直し致しました*_ _)ペコリ
あらすじとキーワードも変更&追記しました(o_ _)o
前世の記憶というものを思い出してから一週間。
子爵家のこの邸にも他人に世話をされる事にも、やっと少しだけ慣れてきた。
子爵家に迎え入れられてからお父様は仕事で遠くに行く時以外は必ず毎日一緒に朝食を食べ、夕食もなるべく共に摂れるようにと仕事を調整してくれている。
邸の使用人達や専属メイドのアンも、慣れない私に不便や負担が無いようにととても気遣ってくれていて、居心地のいい日々を送れている。
お父様に迎えられ、前世の記憶を思い出した当初は馴染めるか不安な気持ちが大きかったけれど、無作法な私を咎める人も蔑む人もおらず、この邸に居るのは本当に優しい人たちばかりだった。
日に日にゲームのような結末を迎えてこの邸の皆に迷惑を掛けてはいけないという気持ちが強くなる。
今朝も優しい父と共に美味しい朝食を頂いていると、「そろそろマリアに教師を付けようと思っている」と父がこちらを窺うように言ってきた。
その整った顔に気遣いを浮かべながら私の様子を気にしつつ話すのは、やっとこの生活に馴染み始めた所である私の体調や心情を心配しての事だろうと思う。
本当に過ぎる程優しく、しっかりと愛情を注いでくれる素晴らしい父親だと思う。
まだ父だと名乗られてから一週間程だけれど、既に私はこの父を全面的に信頼していた。
この人が私の父で良かったと、心から思う。
「お父様、その事について私からもお願いしたい事があるのですが」
まだ何の作法や礼儀も教えられていない私は、前世の薄い記憶を辿りながら何となくで扱っていたカトラリーを一旦置いて、ナプキンで口元を拭いながら口を開く。
正直、今世の今までの生活ではカトラリーなんて立派なものを使う事なんて無かったし、スープを飲む時に木の匙を使っていた位だ。
平民の食事情なんて、少量の具が入った薄味のスープに固いパン位の物であるし。
薄らと思い出した前世の自分も平民で、こちらの市井の生活よりは比べようもない程生活全体の水準は高かったものの、貴族のマナーになんて触れてはいない。
まだ貴族として必要な事を何も学んでいない今の私は、きっと市井の子供にしては綺麗に食べているけれど貴族のマナーは全く出来ていない子供と言った感じだろうと思う。
「お願いとは何だい?」
お父様が、その浅青色の瞳を優しく緩めながら聞いてきてくれる。
話を遮ってこちらの要望を切り出したのに、嫌がる素振りも無かった。
とても優しくて素敵なお父様。
きっとゲームのマリアにも、この父は優しく接していたのだろうな。
それがゲームのマリアの、 " 何でも自分の思い通りになる ” という思い違いを助長したのかもしれないと思うと、少し複雑な気持ちにもなるけれど…。
これは私がお父様の優しさに甘え過ぎないよう気をつければ良いだけの事だものね。
「実は、貴族としての教養とマナーの他にも、勉学を教えてくれる先生をつけて欲しいんです。
アンに教えて貰った貴族女性が学ぶ内容は、マナーや刺繍、ダンス、花や紅茶の銘柄、ゲストの迎え方、持て成し方等だと聞きました。
でも私は、お父様やゆくゆく迎えるだろう旦那様のお仕事のお手伝いも出来るようになりたいんです。
貴族の子女としてははしたないのかも知れませんが、私、どうしても…。」
手にしたままだったナプキンを、思わず握りしめる。
貴族と言うものを何も知らない私は、少しずつアンに貴族の女性とは、と言うものを教えて貰っていた。
どうやら貴族の女性が仕事をする、というのはあまり良く思われないらしい。
家の家業を手伝うのも庶民の女性ならば普通の事だが、それが貴族の女性となるとかなりの変わり者、といった風に見られるらしく、女当主でもない未婚の貴族女性が働くというのは家としての外聞もよろしく無いのだとか…。
当然、そんな変わり者のには縁談も遠のくという。
養女と言えどもこの子爵家唯一の息女となった私は、ゆくゆくは貴族の子息、若しくは才ある有名な商家の子息を婿に取り、この家を共に支えていく事になると思う。
その支えると言うのも、普通の貴族女性ならば邸内の事を取り仕切る、管理する、社交を通じて家の為になる情報を仕入れ、時には操るといった陰ながらでの事らしい。
でも私は、私だけでも生きていける何かが欲しいと思った。
この先どんな人と結婚する事になるのか分からない。
無事にゲームの結末を回避出来るのかも分からない。
そんな今の私には、誰かに頼ったり任せる様な生き方しかできなくなるのは正直怖いのだ。
これからの自分の未来がどうなるのか不安しかない今、自分が身につけられるものは何でも学んでおきたい。
そうすればゲーム開始の時が来ても、その時に選べる選択肢が僅かでも増えるのではないかと思うし。
それなら家の為に親が相手を決めるのが当たり前と言う選択の自由なんて無い貴族の結婚で、どんな相手が旦那様になっても何とかやっていけるのではないかとも思うのだ。
それに、そうする事でこの不安な気持ちも少しは減らす事ができるかもしれない。
だって、これから何が起こるか分からないもの。
できる限りの事はできる内にしておきたい。
そんな焦りと不安に埋め尽くされて、早く何かをしなくてはと逸る気持ちと、やはりこんなお願いをして図々しい、はしたないとお父様に嫌われてしまうのではという恐怖とで、だんだんと顔を俯けていってしまう。
今、お父様はどんな顔をしているのだろうか。
怒っている?
呆れている?
こんな娘は引き取らなければ良かったと思われていたら…。
そんな風にぐるぐると考え込んで視界が薄ら涙で歪んでしまい、ますます顔を上げられなくなってしまった私は、唐突に存外逞しい腕の中に抱き込まれて息を詰まらせてしまった。
下ろしたままの髪の毛を梳くように、お父様が優しく撫でながら抱きしめてくれているのだと気が付いたのは、お父様のその低くも耳障りのいい声がすぐ傍から聞こえてきた時だった。
「マリア、何も不安に思うことはないよ。マリアがそう言ってくれて、私はとても嬉しい。
勇気を出して伝えてくれてありがとう、マリア。
ここではマリアのしたい様にしてくれていい。
私の仕事も、マリアが手伝えるようになったらゆっくりとお願いするよ。
でも、これだけは約束をして欲しい。
無理だけはしない事。
不安に思ったり何かあったら、我慢する前に必ず私に相談する事。
──いいね?」
「……はい、お父様。ありがとう、ございます。」
なんて愛情深く、慈愛に満ちた人だろう。
なぜゲームのマリアには、この愛が伝わらなかったのだろうか。
それとも、分かっていながらも、王子様との未来を欲したのだろうか。
その先の運命を知らなければ、このお父様の愛も、王子様の愛も、自分のものに出来るのが当たり前だと思うのだろうか。
私は、この今与えられている温かな温もりを、愛を守りたい。
悲しませるような未来は選びたくない。
王子様との結婚も、ハーレムも望まない。
私はこれからここリリベル子爵家でこの優しい父と共に、未来の旦那様や子供達に囲まれる幸せな家庭、家族を持ってただただずっと平穏に暮らしていく未来が欲しいのだ。
涙が瞳から零れそうになるのを堪えながら僅かに震える声で謝意を伝えると、お養父様は私を更にぎゅっと抱きしめて下さった。
幸いにも子爵家の資産は潤沢らしい。
きっとマリアに合う優秀な教師をつけると、お父様はいつもの素敵な笑顔で約束して下さった。
マリア「お父様が素敵すぎて、これ以上に素敵な人に出会える気がしない。」