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09:諸事情

ブオトの町。そこにある冒険者ギルドの長、セザールの後をついて歩く。

「セザールさんよ、この町の冒険者ギルドちょっと大きすぎじゃね」

町の一区画丸々を占有しているのは規模として少し異常だ。

「フンッ! それはただの名目だ。着いたぞ、入れ」

扉を開きさっさと入っていくセザールの後をついてギルド長の部屋に入る。


入るとまず豪勢な応接室がある。

「そこに座っとれ」

革張りの高そうなソファーを指差し、自分は奥の部屋へと姿を消す。

ズブズブと底無しかというほど沈み込むソファーに腰掛け部屋を見回す。


部屋という物は、持ち主の個性を如実に現す。


無骨な部屋だ。


目に付くのは壁に掛かっている戦斧。ウォーアックスやバトルアックスと呼ばれる戦闘に特化した両手持ちの斧。

部屋の角には全身鎧もある。逆に剣や盾は見当たらない。ある意味解り易い。


アックスウォーリアー。

その両手斧から繰り出される一撃は全てを両断する。

両手剣や両手槍も攻撃力は高いが、両手斧の攻撃力に比べると見劣りする。

セザールと言うギルドの(おさ)は、頼りになる前衛だったのだろう。


よく見れば、鎧には無数の傷が刻まれており。戦斧も見事に砥がれた刃以外は使い込まれ摩り減っている。

ソファーやテーブルなど必要なものには最高級の物を使っているが、それ以外は無駄な装飾の無い部屋。


戦いに身を置いてきた者の部屋。

悪くない。


そういえばさっき俺の気に反応して飛び退いた距離が妙に短かったのは、前衛の斬り込み役だったからか。

両手を前に突き出してたのは槍使いにしては妙な間隔だったが戦斧持ちだったからなんだな。



セザールが手に酒瓶とグラス二つを持って戻ってくる。

テーブルにドンッと酒瓶を置き。ソファーにドスンッと座る。


自分のグラスに酒を注ぎ、俺のグラスにも酒を注ぐ。

「俺、酒飲まないぞ」

「つれない事を言うな、一杯くらい付き合え」

なぜか嬉しそうに言うオッサン。

「大体オッサン、今、仕事中だろう」

「それがどうした? 自分を失うほど酔ったりはせんから、問題なかろう」

まあ、本人の自由だからこれ以上突っ込まないが、気になる点は聞いておこう。


「オッサン、何で嬉しそうなんだよ気持ち悪いんだけど」

グビリッと酒をひとくち飲んでオッサンが言う。

「フジワラ、お前、本気で怒っただろう?」

「ん、ああ、まあな。あんたが踏み込んじゃあいけない所まで踏み込んだからな。俺が聞いてない所でならどうでもいいが、聞いた以上間違いは正さないとな」

「それは剣鬼に対する侮辱か? それともフジワラの所属するギルドに対する侮辱か?」

「さあな」

じじいと、じじいが捨てていった場所を必死に守っている奴等に対する。そうだな両方だな。

(うらや)ましいな。そんな冒険者のいるギルドは」

グビリッと酒をひとくち飲む。

「オッサン。俺は酒の肴かよ」

「ハハッ、しかし、許せないからといって普通の者はあそこであんな事は出来ん。よそ者がギルドに喧嘩を売ったようなものだ。よくて半殺し、普通なら殺される。そんなことをする奴は感情に任せて後先考えないバカモノか、自分の実力に余程の自信があるバカモノだけだ」

「まあ、そうだな。俺は馬鹿者なんだろうな」

ジッと俺の顔を見つめ、またグビリッと酒を飲むオッサン。


「まだお前みたいな冒険者がいたんだな」

しみじみと呟き、グビリッと酒を飲むオッサン。


「おーい。もう十分旨い酒飲めただろ。試験とかの情報くれ。後、ヤケ酒してる理由もな」

「そうだな...ギルドの現状から説明するか」

グラスに酒を注ぎ、グビリッと飲むオッサン。


「フジワラ、この町の勢力図は分かるか?」

勢力図ねえ。まあ世間一般からすると一番力を持っているのは貴族諸侯。

しかし、この町は少し異なる。地図を思い浮かべると一目瞭然。

「町長が一番で、貴族が二番、三番が冒険者ギルドって所か?」

「察しがいいが、おしいな、町長と貴族と商人ギルドが一番で、冒険者ギルドが二番だ」

「商人も連合組んでるのか」

「ああ、ギルドという(てい)をとっているが、実際は一人の豪商の独占体制だ。そいつが商人達を牛耳っている」


「じゃあなんだ、町長と貴族と商人がスキルの迷宮を私物化してるのか?」

「冒険者ギルドを、だな。迷宮からドロップしたスキルの巻物は名目上ギルドを経由しているが、有用なものは貴族に渡り、不要なものを商人が市場に値段を操作して流す。独占しているのだから値の操作は自由自在だ。そして町長はそれぞれの上前をはねる」

「完全な構造だな!」

「…………そうだな」


「で、」先を促す。


「既に利権の構造が完成している以上、これ以上迷宮に潜る冒険者は制限したい。高ランク冒険者のほとんどは既に貴族か商人との専属契約を済ませている。後は新規の制限をするだけ。貴族の紹介状を持つ者達はその時点で既に貴族と契約しているようなものなので問題無い。高ランク冒険者は止めようが無いが、高ランクの時点で何某かの貴族と関係を持っている。つまり問題が無いのだ」


「つまり、Dランクの冒険者を迷宮に潜る資格試験と称して潰すだけという事か」

合格出来ない試験という事かね。

「そうだ、だからフジワラお前に忠告だ。実力の有る者には誰かが接触してくる。そうしたら、それに乗れ」

「長いものには巻かれろってか?」

「ああ、そうだ」

空になったグラスに酒を注ぎ、グビリッと不味そうに酒を飲むオッサン。


これはどうにも参ったね。


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