10:ポール
試験の受付担当フロアに入る。
ピカピカだ。
総大理石造り。ある意味見慣れた景色。
(貴族諸侯は一族が手に入れたい優先スキル順を持ち寄り協定を結んでいる。加盟している全ての貴族が迷宮の運営に干渉すると収拾が付かなくなると判断し、迷宮運営に干渉出来る貴族は持ちまわりになっている。残念だが今担当のゴルジフ卿になってから、試験に合格したものは一人も居ない)
俺の実力なら貴族の方から接触があるから、それを承諾し試験を免除してもらえときた。
面倒くさい。
いっそのこと許可など取らずに隠密で迷宮に潜りこんでしまおうかと思ったが、迷宮内はほぼ一本道と言う情報を思い出し踏み止まる。
フロアを見渡すと、冒険者らしき奴等が多数見受けられる。
ランクにもよるが冒険者っていうのは基本汚いんだよなって、違うな。目立たない恰好をしていると言った方がいいか。
特に一人で行動するときは人目を引かない恰好を心掛ける。ソロで迷宮に挑戦するならいかに先手を取れるかが勝敗を大きく左右するため周囲に溶け込める色で統一したりする。
俺も今、鎧の上に薄い茶色のローブを羽織っている。これは迷宮ではなく街中で周囲に溶け込める恰好だけどな。
これが貴族や高ランクの冒険者だと、ピカピカになる。
磨きこまれた鎧を装備していたり、家紋入りの派手なマントを肩からぶら下げてたりする。
外見を気にする奴等は、いる場所も己に合わせようとする。
つまり、ピカピカだ。貴族の屋敷や城と同じ金に糸目をつけないピカピカのフロア。
そういう奴等と接点の無いDランク冒険者は場の雰囲気に萎縮する。
ここを管理している本人たちに自覚はないのだろうけど、試験を受ける奴等にしたら堪ったもんじゃない。
美人秘書っぽい女の人が、試験受験者はこちらへ来てくださいと皆を集めている。
おっと、俺も試験を受ける一人だった。
冒険者の集団に着いていく。
「冒険者の皆さんお早うございます。これから試験について説明します」
試験は二日間に渡って行われる。
一日目。
第一試験、攻撃力試験。動かない標的に対して攻撃を行う。
一分間のうちに標的を破壊すれば合格。
第二試験、防御力試験。試験官から放たれる攻撃を一分間受けるか避けるかして耐えきれば合格。
二日目。
実戦試験。
試験官と一対一の実戦を行い勝利すれば合格。
一日目の試験でふるいに掛け、二日目の試験で本当の実力を測る。
理にかなった試験だが、防御力試験と実戦試験がきな臭いな。
「受験料は金貨五枚です」
普通に高いな。一日豪遊できる額だ。
「試験に金貨五枚とかおかしいぞ!」
「そうだ、一日目の試験でふるいに掛けるんだからもっと安くしろ!」
おう、さすが冒険者諸君、はっきりと文句を言うな。素晴らしいです。
「金貨五枚が高いのですか?」
おっと、美人秘書さん貴方達が何をいってるのか解りませんという顔で聞き返してくる。
「あ、あたりまえだ! 金貨五枚あれば十日は遊んで暮らせるぞ」
おいおい、盛り過ぎだ。
「でしたら十日間遊んで暮らしなさい。お帰りはあちらです」
そう言い放ち、冷たく笑う秘書さん。魅惑的で刺激的だ。
まあ実際、ここを管理している奴等にしたら金貨五枚とか端金なんだろうな。
しかし、Dランクの冒険者にしてみれば金貨五枚は結構な出費だ。
この時点で既にふるいに掛けてきているということか。
「受付はこちらです。試験を受ける冒険者の方は金貨を支払ったら試験番号を受け取りあちらのドアから試験会場へ移動してください」
淡々と話す美人秘書さん。冒険者の意見など意に介さないか。
皆無言で金貨を払い試験会場へと移動する。
冒険者は現実的だ。無駄と判断したことに労力を割かない。
歩いていると声を掛けられる。
「なあ、あんたフジワラだろ?」
「ん?」
まいったぜ。俺ってばそんなに有名だったか。照れちまうぜ。
と、思いつつそいつを見るとなんか見覚えのある顔だ。
「えーと。誰だっけ? なんか見たことあるけど名前知らねーわ」
「まあそうだわな。俺はあんたと話したこと無いからな。俺の名前はポール。ローランの市民街の冒険者だ」
「おぅ。お仲間か、どうりで見たことあると思ったぜ。ここにいるってことはあんたもスキルの迷宮目当てか」
「まあな、市民街のギルドはあんなことになっちまったし、管理迷宮もおかしくなっちまって俺達Dランクの冒険者は潜れない状態だしな」
そうだな、ギルド長のギルバートが死んだことになって、しかもローランの管理迷宮は今最下層に出現するような強力な魔物がランダムに出現するようになっていて入場規制がされている。
俺は強いので魔物の討伐隊に参加していたが、普通のDランク冒険者は討伐隊に選ばれることはないし入場も出来ない。
「俺の事はポールって呼んでくれ。あんたはギルド長のお気に入りだったし、桁外れだったから管理迷宮の討伐隊にも参加してたんだろ。なんでここにいるんだ?」
「じゃ、俺もフジワラでいいぜ。ちょっと欲しいスキルがあってな。パーティーメンバーも他の依頼で忙しそうだし良い機会だからサクッと手に入れて戻ろうかとな」
「……サクッとかよ。まったくスゲーなフジワラは」
「まあな、けどポールはここの情報ちゃんと仕入れてきたのか? 合格出来ないって噂だぜ」
「マジ? なんだそれ」
「仕入れてないのかよ。見れば分かるだろうけど試験を取り仕切ってるの貴族だぜ。俺達冒険者をまともに扱うわけ無いだろ」
「けど、管理迷宮だろ? 冒険者ギルドの領分のはずだぜ」
「あー、あれだ。そういうのがマトモな方が珍しいらしいぜ。ローランはじじいと貴族街のギルド長ウィリアムさんがいただろ、あの二人がスゲー有能だったみたいだな、他のギルドで話を聞くと実感するわ」
「マジかよ、そうするともしかして...」
「ああ、おそらく平気で殺しにくるんじゃねーかな、奴等にしたら俺等の命とかゴミみたいなもんだしな。ヤバイと思ったら、即棄権しとけよ」
「あ、ああ」
「おいおい、迷ってんじゃねーよ。下手したら殺しといて司祭に蘇生させて蘇生の代金払えなくてそのまま貴族の奴隷コースもあるんだぜ。蘇生の代金払えるだけの金持ってるのか?」
「蘇生の代金って、い、幾らくらいかな」
「さあな、値段設定は司祭次第じゃねーかな。ま、最低金貨百枚以上は取られるんじゃないか」
「だよな、最低でも百枚は取られるよな...」
話ながら歩いていたら試験場に到着した。




