42:就寝
バラの宿:
今日は疲れたな。色々ありすぎだぜ。
そんな俺を癒してくれる、最高の笑顔のジェントルメン。
「お帰りなさいませ、フジワラ様」
「ただいま、セバスチャン」
ほっと落ち着く。セバスチャン。
「何かあった?」
俺は色々あったんだけど。
「なにも御座いません」
本当に?
「なんか、そっちで処理してくれてるならありがたいけど、出来れば処理した内容を教えてほしいかな」
「…………なにも御座いません」
ニッコリ微笑まれる。今の間はなんですか?
「ま、いいや」
心の癒しセバスチャンがそう言うなら信用しちゃおう。
部屋に戻ると、メイドさんがコーヒーを淹れてくれる。
ホッと落ち着く夜中のコーヒー、あれ?
色々と考えたいし、丁度いいか。
メイドさんに明日の朝、起こしてもらう時間をつげて出ていってもらう。
装備を外し、ベッドにダイブする。
「今日は疲れたな」
特に勇者ユウキ様はどうしたもんかね。
俺には欲しい物は無い、か。
スキル強奪持ちと会うのは初めてだな。
どうしたものか、
俺がスキルの迷宮を攻略しちまったら、アイツは俺を殺しに来るかね。
攻略した以上なにか有用なスキルを手に入れたのは判るはずだ。その時もう一度鑑定されて、前と同じ結果だったら自分の鑑定がレジストされていたという事に気付くし、どの道その時点で俺が見た目以上のスキルを持っていることに気付く。
[僕が欲しいスキル]を持っていた奴等を殺してきたんだろうから、確実に俺も殺しに来るだろうな。
あー、面倒くせー。
鑑定スキルとスキル強奪を持っているユウキはスキル的に俺の上位互換なんだよな。
鑑定された時、アイテムボックスを隠すか迷ったんだけど、隠さないで晒してたらその場で殺し合いが始まってた可能性もある。
まあ、さすがにそこまで非常識な奴じゃないと思うけど。
あまり近づかない方が得策だよな。
いきなり後ろからグサッって来るかもしれないし。
一度死んだのに、あんな普通な顔してられるってのも、なんかズレてて怖いんだよな。
かといって、ただ精神がイカれてそうで存在自体が怖いからって、俺の方からいきなりグサッていうのもさすがに出来ないしな。
ああいう、善悪の観念が無い、自分の行動が善なのか悪なのか理解して無い奴が一番扱いづらい。
けど、俺みたいに、自分と仲間に害が有るものは殺すという方針より。
自分の役に立つから殺すという方針のほうが生き残る確率からいえば高いんだろうな。
いやいや、まてまて、少し想像が膨らみすぎてないか?
ついさっき会ったばかりの人間を、数時間の会話だけで判断するのはおかしい。
会話が苦手なだけで実は良い人という事も...無いな。
短い会話で解ってしまうほどに、ユウキは自分以外の人間をモノとしか見ていない。それが意識していない会話の端々に現れていた。そしてその言葉は、俺が今まで会ってきたクソッタレな貴族共と似ている。それでもあいつ等は自分の身内や同じ貴族に対しては人としての最低限の礼節を持っていた。あいつ等は身分で人を区別し、区別した下の人間はモノとしか見ないだけだ。まあ、その思考が十分クソだが。
しかし、ユウキは皆平等にモノとして認識している。
そしてモノの判断基準は、自分の嫁としての女と、自分の役に立つスキルを持っている人間。
逆に用のない人間に対しては優しいのではないか、例えば欲しいスキルを持っていない俺は、懐かしい会話が出来るから友達。そして欲しいスキルを持ってないモノは無闇に殺さないなどの方法で心のバランスを保っていると思っていたり。
元からそういう人間だったのか、ここで生きるためにそういう人間になってしまったのか。
いや、ユウキの過去は関係ないな、そういう人間だという事を忘れないで接することだ。
あー、めんどくせーなー。
大体いろんな事がありすぎだぜ。
けど、俺の目的は最下層の攻略だけなんだよな。
それこそ、明日五階で虚ろな影と戦闘してしまい、その日の内に最下層のレアボス倒せばこの町に用はない。ユウキとかも関係なくなる。
一応対策も用意してあるし、レアボスに挑戦しちゃおうかなあ。
あー、けど、下手したらレアボス倒したらそのままユウキと連戦に突入の可能性もあるんだよな。
スキル強奪持っているだけで、敵確定なんだしローラン王都とかに来られてもアレだし殺しちゃおっかなー。
と、思いながら眠りに落ちる。




