13:格闘術
ローブをアイテムボックスにしまう。
胴には大地の鎧、手には大地の籠手が装備されている。
人型との距離は十メートルくらい。
始めの合図と共に人型に向かい歩き出す。
後ろでダブルスラッシュの掛け声と共に、俺に向かって二枚の斬撃破が飛んでくる。
愚痴愚痴言っていた隣の奴か、間違えて撃ってしまったとでも言うつもりだろうか。一般人ならば確実に死ぬ斬撃だ。
やって良い事と、悪いことの区別もつかないのか。
格闘術のダッシュを発動する。
一瞬で人型の前に移動し、そのまますり抜ける。
斬、斬!
と人型に残撃が当たる。
着地と同時に後ろ、人型に向かい一歩踏み出す。
トン。と足が地を踏むと共に、右手の拳が人型の背にコツンと当たる。
「崩拳。浸透破」
ズンッ! と足が地に沈み。人型に拳がめり込む。
ボッ!
と拳の当たっている反対側、腹のほとんどが爆ぜる。
腹の部分が空洞になった人型。これで合格だろうが、まだ。
「バックハンドブロウ」
体が半回転し、硬く握った左の裏拳が人型の頭を叩き、吹き飛ばす。
「ゲベッ!」
ああ、いけない。吹き飛んだ頭が誰かに当たったようだ。
ふふっ、いけない、いけない。
ゆっくりと歩きながら開始位置に戻る。
…………
……
皆が動きを止めてこちらを見ている。
「おいおい、早くしないと一分経っちゃうぜ?」
ハッ!
っとして攻撃を再開する受験者達と、時計を確認するゴルジフ卿。
そして、俺の横で伸びている三十七番。まあ、同じ冒険者のよしみで今回はこれで勘弁しておく。
「あ、後、三十秒だよ。あ、そうだ、三十八番君、合格だよ」
「有り難う御座います」
合格組みの列へ移動する。
ポールが出迎えてくれる。
「スゲーな、フジワラ。一撃かよ」
「まーな。動かない的とか何の意味も無いけどな」
「あんなに派手にやっといてよく言うぜ。おかげで俺のインパクトが吹き飛んだじゃねーか」
「あー、そうか。ポール目立つために二刀流っぽい事したのか」
「当たり前だろ。せっかくフジワラが情報教えてくれたんだからよ、当然引抜ってのを狙って派手にやるだろ」
「だなー。すまんすまん」
「まあ、いいさ」
結局、三十番台の合格者は俺一人だった。
第二試験の準備中にゴルジフ卿が話しかけてくる。
「三十八番君。君の名前はなんていうんだい?」
「フジワラといいます」
「フジワラ君の格闘スキルは幾つなのかな?」
「MAXの五です」
感嘆の声と共に他の冒険者達からも注目される。
「イイネ! 他には何が出来るんだい?」
他にはと来たか。どうするかな、ワザワザ律儀に全てを教える気も無い。
「槍術と弓術も少々使えます」
「うんうん、イイネ、イイネ! 剣術は使えないのかい?」
「はい、残念ながら剣術は持っていません」
「そうかい、そうかい。うんうん」
嬉しそうに笑っている。なんだ?
第二試験は、試験官から放たれる攻撃を一分間受けるか避けるかして耐えきれば合格。
「参った!」
剣の攻撃を受けたところに、後ろから飛んで来た矢が肩に刺さり、盾を持てなくなり降参する。
「グァ! ま、参った...」
剣と矢の攻撃を上手く避けていたが、四十秒を越えた所で魔法攻撃も加わり避ける事が出来ず降参する。
その光景を見ながらポールと話す。
「なんか普通だな」
「フジワラの普通の基準が分からん」
「えー、普通の試験だなって意味だが」
「魔法に当たった奴とか結構重傷だったと思うが」
「生きてんじゃん」
「どういう基準だよ」
「お、次の奴、結構いけてたよな」
「だな。Dランクの実力じゃなかったな」
「始め!」
「ファストソード!」
「トリプルショット!」
「ウィンドカッター!」
「なっ! グッガハッ!」
絶句。
「普通じゃなかったな」
「だな」
「そういうことか」
「そういうことだな」
目ぼしい人材を殺しにきている。
「俺等も殺されそうだな」
「だな」
「ポールは今すぐ棄権しとけ」
「だな」
棄権を申し出た冒険者が試験会場に引きずり出されていく。
「無理みたいだな」
「だな」
「どうする?」
「ああ、そうだな。これ、頼むわ」
ポールが魔法の鞄を渡してくる。
「何?」
「金貨二百枚入ってる。この魔法の鞄も売れば金貨百枚になるだろう。司祭の蘇生魔法、これで足りるようなら生き返らせてくれ」
「足りなかったら?」
「悪いが、ローランのギルドに届けてくれ。後はギルドが処理してくれる」
「何それ?」
「女房と子供がいるんだわ」
「……じゃあ、一人でこんなとこきてんじゃねーよ...アホが」
「ハハッ、ちげーねえ」
「ったく。家族がいるならもっと安全な冒険をしろ」
「だな」
そのまま黙る。
「次、二十二番!」
ポールが呼ばれる。




