11:ゴルジフ卿
うーん。
誰も棄権しないな。
周りの奴等にも聞こえるように喋ってたんだがな。
金貨五枚程度で人生終わらせるのは割りに合わないぜ。
Dランクの冒険者なら自分の命の値段くらい勘定しろよな。
ポールも試験を受けるようだ。
ま、冒険者である以上自分の命は自分持ちだ。
俺がとやかく言う権利も資格もない。情報は与えた。後の判断は自分でする。
ただそれだけだ。
試験会場:
地面は固い土。なかなか大きな広場、いや、闘技場と言った方がいいか。その中央部分に人を象ったおそらく的だろう物が十個立っている。
あれを時間内に破壊しろってことか。
的の前、闘技場の中央に佇んでいた男が振り向き声をあげる。
「来たか。冒険者諸君、僕がこの試験を取り仕切るゴルジフだ」
おっと、伯爵自ら現場に立つのか。
今この試験を担当している貴族のゴルジフ卿。端正な顔の偉丈夫だ。まだ若く二十代後半か三十代前半、まさかその若さで当主という事はないだろう、僕とか言ってるし、血族の若様というところか。
気配を探る。
俺の気配察知スキルならばこの程度の広さならカバー出来る。といってもこれを出来るのは俺くらいだろうが。
剣、槍、ボウ、弓、杖を持った者達が物陰に複数存在している。
遠距離装備の者達は俺達冒険者に狙いを定めている。
気付いている冒険者もいるな、さすがに自分が狙われていたら気付く。
なんかこのまま一斉に襲われて皆殺しの刑とかになりそう。てか、その方が簡単だし。俺ならそうするな。
「ああ、気付いている人もいるようだね。今この会場は僕の部下達が取り囲んでいる。だが安心したまえ無意味に殺したりはしない。ただ、先日僕を殺そうと試験に紛れ込んだ者がいてね、皆、警戒しているんだよ」
なんだ、殺さないのか。面白くない。何だかんだでちゃんとしてるんだな。
「今から君達には時間内にこの人型を破壊してもらう。出来れば第一試験合格だ。出来なかったものには帰ってもらいそのまま第二試験に移行する。今回は三十八人か、受付で番号を貰っただろう、まずは番号順に十人づつ試験を行う。自分の番号を見てここに並んでくれたまえ」
俺の番号は...三十八番かよ。ビリじゃん。
「では、一番から十番まで出てきたまえ。おっと、武器の強化も魔法の詠唱もまだだよ。武器を装備するのは構わないが強化とかは始まってからしてくれたまえよ」
三番の冒険者が言う。
「ボス部屋での戦闘を想定しているなら強化を事前にしてもいいんじゃないか? 部屋に入る前の強化が出来るのは常識だし問題ないはずだ」
パチンッ!
ゴルジフ卿が指を鳴らす。
ヒュン!
風切り音がしたと思ったら、三番が倒れる。
「…………僕は意見されるのが嫌いなんだ。冒険者風情が僕と対等とでも思っていたのかな? 困ってしまうね。連れていきたまえ」
胸に矢が突き刺さり絶命している三番を影から現れた騎士達が運んでいく。
「ああ、安心したまえ。ここには蘇生魔法が使える司祭が常駐している。彼はそこで蘇生されるよ。今回の試験は不合格になってしまったけど彼には次回頑張って欲しいね」
ああ、彼に蘇生の代金が払えたらの話だけどね。
フフッ! と尊大に笑いながらゴルジフ卿が言う。
その顔を見ながら思う。
やっぱ貴族ってクソだなあ。ぶっ殺してー。
「ん? 何が可笑しいのかな君」
………………
…………
……
「君だよ、君」
ん?
「あ、私ですか?」
俺だったみたいだ。あー、笑ってたのか。
「すみません。ゴルジフ卿が楽しそうでしたので思わず私もつられてしまいました」
キョトンとした後、楽しそうに聞いてくる。
「そうかね、僕はそんなに楽しそうだったかね」
「はい、素晴らしい笑顔でした」
「うんうん、そうかいそうかい。君イイネ」
バチッっとウィンクされる。オゥ、キモい。
隣の冒険者が睨みながら小声で言う。
「媚び売ってんじゃねーよ、臆病者が」
オゥ、臆病者扱いされちまったぜ。
「サーセン」
謝っとく。
「チッ! 雑魚が」
雑魚扱いされた。ひどい!
こうなることは想像出来た未来だろ。
せっかくの耳より情報を黙殺してここに立った以上自分の命は自分持ちだ。
大体あれくらいの矢を喰らうなんて問題外だ。何をどう思って試験を受けようとしたのか。
ぬるすぎる。
ポール。あんたもまさか俺がどうにかしてくれるなんて思ってないよな?
目が合う。
ニッと笑うポール。覚悟を決めた男の目だ。
いい目だ。
そりゃそうだ。ポールもローランの市民街ギルドで鍛えられたんだもんな。自分の判断に命を懸けるなんてのは当然の事。残った時点で覚悟を決めてるよな。すまんな、疑っちまってさ。
グッと親指を立て前を向くポール。格好良いじゃねーか。惚れちまいそうだぜ! その趣味はないがな!




