竜素材の価値
俺達はシルバーランクになった翌々日、つまりは今日、ランドドラゴンの解体のため冒険者ギルドへと来ている。
昨日は、解体の担当者と顔合わせをし、獲物を渡して帰って来ただけであった。一応その後、軽く討伐依頼をいくつかこなして終わりだ。
ランドドラゴンの解体を担当してくれることになった爺さんは、レベル47とかなりの強者であり、【解体】のスキルレベルも3である。いつものおっさんがレベル38の、【解体】スキルレベルが2であることを考えると、スキルレベル3がランドドラゴン解体のボーダーラインなのかもしれない。
今後のためにマシロには早速、解体スキルを取得してもらったのだが、レベル3になるのはまだまだ先のことだろう。一応、スキルレベル2のおっさんもワイバーンまでなら解体できるらしいので、取りあえず2までは一気に上げたいところだ。
それはともかく、今日、何のためにギルドに来たのかと言えば、素材を受け取りに来たのである。窓口のおばちゃんに一声かけてから、解体部屋に入ると、昨日紹介された爺さんが迎えてくれた。
「おう、お主等か、解体ならできとるぞい。鱗と皮は少々傷付いておったが、他はこれこの通り、綺麗なもんじゃ」
そう言って見せてくれたのは、ランドドラゴンの鱗、皮、爪、牙、骨、肉、血、といった素材の数々である。
「お疲れ様でした。これだけの物を解体するのは大変だったでしょう?」
「いんや、ランドドラゴンなんぞこの辺りでは見かけんからの、楽しませてもらったわい。それに少々、昔を思い出してしまってのぉ」
と、吶々と語りだす爺さんの話を、結局は1時間近く聞く羽目になってしまった。
要約すると、自分の若い頃も冒険者としてブイブイ言わせたもんで、亜竜も何度も討伐していたらしいのだが、運悪く本物の竜と遭遇してしまい、その時負った怪我が元で引退したとの事だ。
それでその怪我と言うのが、膝に受けた矢傷だと言うのだが……なぜ相手が竜なのに、矢傷なのか疑問に思って聞いて見ると、話を濁されてしまった。どうも、話の流れからすると、竜自体はその場に居合わせた冒険者で力を合わせて討伐したのだが、その後の配分を決める際に一悶着有ったらしい。
まったく、魔物と長年戦いながらも、引退の引き金が人から受けた矢傷というのは、なんとも皮肉な話である。人にとって最大の味方が人であると同時に、最大の敵も人ということなのかもしれない。
ちなみに話にも出た、竜の素材を俺達は沢山抱えているわけだが……やはり、迂闊に出すわけにもいかんな。
「おっと、すまんの長々と話してしもうて。わしはもう戻るとするか」
「いえ、為になる話をありがとうございました」
爺さんに礼を言うと、爺さんは笑みを浮かべ去っていく。少々、時間をくってしまったが、おかげで竜の素材がヤバい物だと言う事は分かった。
ちなみに今回、ランドドラゴンを運ぶ上で、高レベルの収納スキルをうちのパーティの誰かが所持していることはバレているだろう。ランドドラゴンは【異次元収納】のレベル3ではとても収納できるサイズではないのだ。
一応、家で収納からランドドラゴンを出して、ギルドまで運ぶという手もあるが、それはそれで目立ちすぎるので没にした。正直なところ、今後、同じように大型の魔物を運ぶ機会が有った時、一々気にするのも面倒になったという本音も有った。いわば、厄介事に巻き込まれたときの面倒さと、今後も気を遣う事の面倒さを天秤に掛けた結果である。
俺達は爺さんが部屋から出た後に、ナオに素材各種を収納してもらい、窓口のおばちゃんの元に戻る。
「随分と時間が掛かったようだけど、何か問題でもあったのかい?」
「いえ、含蓄溢れるお話を聞かせて頂きまして……」
「それはまたご愁傷さま。年寄りは話が長いもんだからねぇ」
身も蓋も無い言葉である、俺が遣った気を返してほしいものだ。
「ところで少し相談なのですが、今回の素材を使った装備を作るのに、お勧めのお店とかありませんか?」
「その前に、まずは解体代を払っておくれ。金貨5枚と……そうだね、銀貨3枚でいいよ」
銀貨3枚? ああ紹介料ってことか。
俺が金貨5枚と銀貨3枚を支払うと、おばちゃんは満足気に頷き、口を開く。
「あれほどの素材だと、狩猟都市でも作れなくも無いが、思い切って工房都市に行ったほうが良い物を作れるよ。うちの旦那の行きつけの店があるから、行くときになったら言いな、紹介状を書いたげるよ!」
「それは助かります。その時になったら、是非お願いしますね」
今すぐに工房都市へ向かってもいいのだが、移動の時間も馬鹿にならないし、装備だって頼んですぐに出来るという物でも無いだろう。とすると、山が雪で閉ざされワイバーン狩りが出来なくなる、冬場に向かうのが良いだろう。
その頃なら、ワイバーンの素材も貯まっているだろうし、まとめて色々と作ることが出来るだろう。なんだったら、装備が出来るまでの間は、商都連合の他の街々を見て回るのも面白いかもしれないな。
「あいよ、任せときなさいな。それとね、工房都市と言えば、うちの旦那ったら……」
とまあ、その後にどうでも良い話が3時間ほど続いた。話の内容を要約しようにも、途中からほとんど覚えていないので無理だ。なんでこう、女性の話というのはあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと話に脈絡が無いのだろうか……正直付いていけない。
俺に出来たのは、「なるほど」とか「そうですね」とか相槌を打つマシーンと化し、時が過ぎるのをジッと耐え忍ぶ事のみであった。途中から見るに見かねたスズとノルンが、おばちゃんの話相手になってくれてからは、話半分に聞きながらも、今日受け取った素材で何を作ろうかと考えていたくらいだ。
おばちゃんの話で俺が、唯一分かったことと言えば、年寄りの話は長いが、おばちゃんの話はその3倍長いという事だけだった。
長話の2連撃を喰らって、なんとか自由の身となれたわけだが、日が落ちるにはまだ時間が有り、依頼をこなすほどの時間は無いという、中途半端な時間帯になっていた。
「さて、まだ時間もあるし、たまには外食と行こうか?」
「う~ん……家のご飯のが、美味しい」
俺の提案にマシロがそう答えると、ナオも頷いて同意する。
「確かにな、でも毎日作るのも大変だろうからさ」
「ううん、皆のためにご飯を作るのって、結構楽しいんだよ」
「私も出来る限りお手伝いしますし、節約にもなりますから」
「それなら、拙者も何かお手伝いするでござるよ」
スズとノルンもこう言ってくれているし、イリスまで手伝うと申し出てくれている、今日も家での夕食としよう。まあ、たまには酒も飲みたいから、酒場には寄っていくけどな。
「そうか、なら今晩も頼むよ。俺は買い物して行くから、先に帰っていてくれ」
スズ達と別れて酒場に向かうと、店内は随分と活気に溢れていた。
「お勧めの酒を3本ほどお願いします、持ち帰りはできますか?」
「今は忙しいから少し待ってな」
店のオヤジに酒を頼みしばらく待っていると、酒を持ってきてくれた。
「ほらよ、銀貨6枚な」
「ありがとう、ところで随分と賑わってるみたいですね」
「ああ、最近は魔物の素材が高騰しているらしくてな、みんな懐が潤ってるんだろうさ」
ふむ、冒険者ギルドで納品してると、市場での相場に疎くなってしまうな。冒険者って実は結構、ギルドにぼったくられてたりするんじゃないか?
「へー、何か有ったんですかね?」
「ここだけの話、王国から工房都市へ、大量の武具の依頼があったらしくてな」
「それはまた、物騒な話ですね」
「まあな、だが俺ら商人にとっちゃあ稼ぎ時ってなもんよ」
代金を払うついでに質問した俺に、そう答えた店のオヤジは「あー忙しい」とぼやきながら、仕事に戻っていった。
それにしても大量の武具の依頼か、王国は戦争でもおっぱじめようってんじゃないだろうな? 隣接する国は、帝国に皇国、獣国に商都連合の4つか……どこと戦争になるにしろ、今すぐと言う事は無いだろうが、情報だけは集めておくとしよう。
酒を片手に家に帰ると、ダイニングにはイリスが1人、ポツンと座っていた。
「どうしたんだイリス、こんなところに1人で?」
「聞いてくだされ主殿! 皆、拙者に何もするなと言うのでござるよ~」
そう泣きついて来たイリスに詳しい話を聞くと、どうやらイリスは力の加減に失敗し、盛大にやらかしたらしい。料理ではまな板をぶった切り、洗濯では力の入れ過ぎで衣服をボロボロにする。フォローのしようがないな……。
「まあ、最近急に力を付けて来たんだ、力加減に慣れるまでは仕方ないだろう」
「それでも、拙者も何かしたいのでござるよ」
「ふむ……なら、コテツとアンズを呼んできてくれないか、一緒に一杯付き合ってくれよ」
酒を掲げてそう頼むと、イリスはコテツ達を呼ぶついでに、コップを人数分持ってきてくれる。その後は4人で酒を酌み交わしながら、夕食の時間まで様々な事を話して過ごした。スズ達とのベッドの上での語らいは最高だが、たまにはこういうのも悪くは無かった。
こうして俺の商都連合での日々は、微かな暗雲を漂わせながらも、平和に過ぎていくのであった。
更新遅れて申し訳ありません。少々盛り上がりに欠ける気もしますが、一応、今回で雌伏編は終了となります。次回からは決別編となり、舞台は商都連合のままで季節は冬場となる予定です。




