シルバーランク昇格
昨日は三大欲求に忠実な一日を送ってしまった俺だが、今は皆でいつもの冒険者ギルドへと向かっているところだ。ちなみに、コテツとアンズは家で番犬……いや、お留守番である。
今朝も少しだけ惰眠を貪ってしまい、どうにか気持ちを切り替えて家を出る頃には、太陽は既に高い位置にまで来ていた。まあ、昼時はギルドも空いているだろうから、結果オーライと言っても良いだろう。
ギルドまではさほど離れてはいないのだが、今日はぎこちない歩みのノルンに合わせているため、もう少し時間が掛かりそうだ。ノルンの歩みがぎこちないのは言うまでもなく、昨夜の事が原因である。
昨夜のノルンを端的に言い表すなら、ノルンはマッタリ系であった。具体的にナニがとは言わないが、これは耐久パラメータの低さに起因するものであろう。
俺とのパラメータ差は元々、俺が躊躇するほどであったのだが、それを埋めるためにノルンが最初にしたことは、自らに強化魔法を掛ける事であった。光魔法『デボーション』は主が近くにいる場合のみ、全パラメータを1割強化してくれるものだ。
まさか、そういう事をするために強化魔法を使うとは思いもよらなかったが、おかげでノルンに怪我をさせずに済んだのだ。とは言っても、強化後の耐久値も高いとは言えず、ノルンはこう何と言っていいか……そう、マシュマロのようであった。
そんなノルンから与えられる刺激は、どうしても緩いものとなってしまい、なかなか終われなかった俺が途中で止めようと提案はしたが、ノルンは頑として受け入れなかった。そのため、結局、1時間近くノルンに無理をさせてしまった結果が、今日のノルンの歩き方に表れているのだ。
ちなみに、1時間ものあいだ緩い刺激を受け続けていた俺が、1度で我慢できるはずも無く、隣で監視していたスズに2回戦を挑んだことは秘密である。
そんな事を考えている内に、冒険者ギルドへと着いた俺は、先頭に立って扉を開けて中に入る。ギルドの中は、昼間の所為か予想通り閑散としている。俺達はさっさと、いつもの窓口のおばちゃんに話しかけ、ワイバーン討伐について報告することにした。
「こんにちは、魔物討伐の報告をしたいのですが」
「しばらくぶりだね、まさか、もうワイバーンを倒したから、ランクアップさせろって言うんじゃないだろうね?」
「そのまさかですよ。ワイバーンを討伐しまして、収納スキルで持ってきましたので、昇格の手続きをお願いします」
「……こりゃ驚いた。ちょっと待っといで……こいつを納品窓口に持ってって、ワイバーンを置いて来ておくれ。その間に、あたしは手続きの準備をしておくよ」
俺達が、窓口のおばちゃんに渡された用紙を持って、狩った魔物の納品窓口に向かう。窓口のいかついオッサンに用紙を渡すと、一つ頷いて、窓口の奥の部屋に通してくれた。
部屋の奥には、大きなシャッターのような出口があり、外につながっている。通常は大きな獲物を、外から運び入れるようになっているのだ。
「この部屋に出してくれや、俺はいつも通りに外に出てた方がいいよな?」
「はい、いつも面倒かけて済みません」
「構わんよ、スキルを隠したい冒険者は多いかんな。じゃあ、外に居っから、終わったら声掛けてくれや」
そう言うとオッサンは一旦、部屋の外に出てくれる。
【異次元収納】は、この世界では結構ありふれた物だが、それがレベル3でさえ人数はグッと減り、レベル4にともなれば希少と言っていい。レベル3で300キログラムまで、レベル4で4トンまでの荷物を運べ、うちのナオちゃんに至ってはレベル5で50トンという積載量を誇る。
レベル3ではパーティに1人いると便利、商人の欲しいスキルNo.1程度のものだが、レベル4になると、大物を狩る上級冒険者や、大店の商人、軍関係から引く手あまたであるらしい。そのため、高レベルの異次元収納スキルを持つ者は、多少強引な手を使っても欲しい人材であろう。それがレベル5ともなれば、どんな厄介ごとに巻き込まれるか想像すらしたくない。
そう言った理由もあり、狩った獲物を取り出す瞬間を他人に見せないようにしている。まあ、うちのメンバーの内の誰かが、レベル3以上のスキルを持っているのはバレバレではあるが、それがどう見ても幼女のナオであるとバレるよりはマシである。
ナオにワイバーンを部屋の中に出してもらうと、外で待っているオッサンに声を掛ける。オッサンはすぐに部屋の中に戻って来て、ワイバーンの見分を始めた。
「ふむ、サイズは少し大きいくらいか、良く狩れたな。お前らまだブロンズランクだろ?」
「まあ、いろいろ苦労して、何とかといった処ですよ」
「そうだよな、独自の狩り方ってのもあるか、詮索は止めとくぜ。じゃあ……ほらよ、これを持っていきな」
俺が口を濁したのを、俺が隠したいのだと誤解したオッサンは、受領証らしきものに一筆入れた物を渡すと、俺達を部屋から追い出した。
受領証には、受け取った獲物と、その横に+2との記載がある。この+2というのは、獲物の状態やサイズによって、報酬が増減する場合に記載されるもので、+2だと通常報酬に2割上乗せといった具合だ。当然、必要以上に獲物に傷が付いていたり、小物の場合はマイナス評価もあり得るので、注意が必要だ。
今回は、ランクアップのための獲物であるため、プラス分の報酬がどうなるんだろうか? その答えは、窓口のおばちゃんの元に行って直ぐにわかった。
「本当に倒してきたんだね。しかも+2かい……ほら、追加報酬の金貨1枚だけ先に渡しとくよ。ランクアップの手続きを始めるから、冒険者カードを出しとくれ」
俺はおばちゃんからプラス評価分の金貨1枚を受け取り、代わりに冒険者カードを渡す。
プラス評価の2割で金貨1枚と言う事は、ワイバーン1匹の報酬が金貨5枚という事だろうか? まあ、時期や依頼の緊急度、事前に依頼を受けているか否かでも報酬額は増減するため、あまりこれは参考にはならない。
俺の冒険者カードを受け取り、討伐履歴の確認をしていたおばちゃんは、一瞬驚きの声を上げ、直ぐに声を潜めた。驚きながらも、周囲への情報漏洩に気を付けるあたり、さすがはベテランである。
「あんたこれ!! おっとごめんよ……ランドドラゴンなんていったい何処にいたんだい?」
「えっと……白龍山の頂上付近の洞窟の中で遭遇しまして」
さすがにバレてしまったようだ。あまり騒ぎにはしたくない。
「まったくあれほど、無茶するなって言ったのに、こんな大物を討伐するなんてね。やっぱりあんた、かなり強かったんだねぇ」
「はは、仲間達の力があってこそですよ。そこでなんですが、うちのパーティに心強いメンバーが1人増えまして、冒険者登録をお願いしたいのですが」
俺は外套のフードで顔を隠したイリスを前に出し、いかにも彼女の力を借りて、どうにか倒したのだと主張する。
「拙者はイリスという者でござる。宜しくお願い致す」
「イリスさんね、ちょっと見せて貰うよ……アスラ、あんたまたかい……。こんな子ばかり集めて、何か企んでるんじゃないだろうね?」
彼女達、混血種は別名「魔王の種」とも言われているから、それを率いている俺が怪しまれるのも無理は無い。魔王達を引き連れた俺はさながら大魔王といった処か、いや、そんなの俺の柄じゃないな。
「そんなまさか、なんでか縁があるってだけですよ。3人も4人も一緒でしょ?」
「はぁ……まったくしょうがないね、登録用紙を書いときな、確かに3人も4人も一緒だからね」
そう言ってイリスに登録用紙を渡すと、おばちゃんは窓口の奥に引っ込む。このおばちゃんは、この街の生活の中で見つけた、数少ない理解者の1人なのだ。
イリスは文字を書けないらしく、ノルンに代筆してもらって登録用紙を仕上げていた。俺はそれを受け取り、しばらく窓口で待っていると、おばちゃんが銀板1枚と銅板3枚、血を登録するための針を持って戻ってくる。
「こいつがシルバーランクの冒険者カードさね。約束通り、ついでにスズちゃん達3人もブロンズランクに上げといたから、一緒にカードの所有者登録をしていきな」
「はい、ありがとうございます。スズ、登録方法は分かるか?」
「うん、問題無いよ」
スズ達のほうを見ると、皆、何の躊躇も無く自らの指に針を刺し、冒険者カードに血の登録を行っていた。皆の手前、俺もぐずぐずしているわけにもいかず、さっさと自分の指に針を刺し、銀色の冒険者カードに触れて登録を完了させた。
平気な風を装い針を刺したけど、やっぱり、ちょっと痛い……。
「無事に登録できました。ちなみにシルバーランクになると、何か特典とかありますか?」
「基本はブロンズランクと一緒だよ。受けれるクエストが増えるのと、冒険者として一目置かれるってくらいだね」
基本は一緒ってことは、覚えることが無くていいが、一目置かれる云々は、俺の固有スキル的にあるんだろうかと思わなくも無い。
「あとは、イリスの冒険者登録をお願いします」
「あいよ、登録用紙は預かるよ。ところで、倒したランドドラゴンはどうする気なんだい? 持って帰って来てるんだろ?」
「あー、そうですねぇ……どこかで解体とかできたりしません? 出来たらその素材で装備を作りたいのですが」
ランドドラゴンの素材を使った防具や、後々、ワイバーンの素材を作った防具も欲しいところだ。
「解体ならギルドでもできるけど、少し割高だよ。まあ、そこらの悪徳業者で、雑な解体をされたり、素材をちょろまかされるよりはマシだけどね」
「ちなみに、どれくらいかかります?」
「金貨5枚ってとこだね、あれほどの魔物の解体を出来る人は少ないからどうしても割高になっちまう。最低限の筋力と器用さ、解体スキルも必要だからね」
う~む、相場が分からんから高いのかどうか判断できんな。
「正直、相場が分からないのですが、ランドドラゴンって1匹いくらくらいの魔物なんです?」
「上手く市場で捌けば金貨100枚にはなる獲物だよ。まあ、ギルドでの納品だと金貨50枚前後が相場になるんだけどね」
海千山千の商人達を相手にする気は無いので、金貨100枚は諦めるとして、ギルドの納品報酬が金貨50枚が、解体だけで金貨5枚か……ちょっと高いが、今回は仕方ないな。
「では、解体だけお願いできますかね?」
「あいよ、じゃあ手配しておくから、また明日来ておくれ。おっと冒険者登録もしないとね、ちょっと待っといで」
その後、イリスの冒険者登録を行ったのだが、シルバーランクの俺のパーティという事で、アイアンランクからの開始となった。これが、地味に有りがたいシルバーランクの恩恵であった。
今回、ヒロインズの台詞が少なすぎました。次回はもうちょい出番を増やせるといいなぁ。




