竜人族との交渉
雷魔法『パライズウェーブ』、この魔法の効果範囲はそれほど広くは無いが、数少ない非殺傷の範囲魔法である。自分で喰らってみて分かったが、効果自体はさほど強くは無い。
精神値の高い俺への効きは悪いのは想定内だが、目の前の竜人達もせいぜい膝をついている程度だ。この調子だと、近いうちに効果は切れてしまうだろう。
そのため、早いところ竜人達を無力化する必要がある。俺ものんびり見てる暇は無いなと、動き出した時には、竜人達は既に、待機していたスズ達4人と、俺の後方にいたコテツ達によって無力化されている処であった。
ほどなく、5人の竜人を拘束した俺達は、全員で集落の入口へと戻る。
「さて、族長とやらを連れて来てもらえないだろうか?」
「くっ、人質のつもりか、この卑怯者め!」
「おいおい、こっちは襲われた側だぞ。殺さずに捕まえただけ有りがたいと思ってほしいもんだ」
「我らを愚弄するのか!?」
衛兵達は冷静に様子見してたと思ったのだが、この調子だと単に油断してただけなのかもな。これだから、話の通じない脳筋は嫌なんだよな。
「もう少し冷静になってくれよ。そんなんじゃ程度が知れるぞ」
「きっ、貴様っーーー!!」
「待て、これ以上、恥をさらすな! お前たちの行動が、一番我ら一族を愚弄していると分からぬのか!?」
すんでのところで、衛兵が剣を抜こうとするのを、気が付いたばかりのカーミラが止める。まあ、衛兵4人はレベル30後半ってところだから、来たとしても返り討ちにしたがね。
「済まなかったなアスラ殿、約束通り族長の元に案内しよう。その者達を解放しては貰えないだろうか?」
「駄目だ、のこのこ付いて行って、また襲われたくはないしな。族長をこの場に連れて来てくれ。用さえ済めば解放するつもりだ」
「ぐっ、そこを何とか私達を信用して付いて来てほしい」
「信用してくれと言われて、ハイそうですかと信じられるわけないだろう。あんたの言う通り勝負して勝った結果、暴走したあんたの仲間に殺されかけたんだぞ。俺は何度裏切られればいい?」
少し言い過ぎな気もするが、こっちは殺されかけたんだ、このくらいは許されるだろう。こちらに実害が無かったとはいえ、俺達に刃を向けた相手に妥協する必要などない。
「……致し方ないか。分かった、しばしここで待っていてくれ」
「ああ、頼んだよ」
根負けしたカーミラが集落の中に消えて行くと、衛兵達がギャーギャー喚きだす。相手をするだけ時間の無駄だ、カーミラを待つ間にスズ達と話をしておく。
「皆、いつでも逃げられるよう準備だけはしておいてくれよ」
「分かってる、族長の対応次第ではってことよね?」
「ああ、族長が何も知らないなら、長居する意味は無いからな」
スズとの小声の会話で、今後の簡単な方針を皆に伝えておいた。ぶっちゃけ俺は、竜人族とかどうでもいい。
俺への警戒を見る限り、普人族との確執とかややこし事情があるのかもしれんが、一々首を突っ込むつもりは無い。ましてや、悪しざまに罵ってくる相手のために何かしてやろうと思えるほど、お人好しでも無いのだ。
衛兵の罵声を無視して、スズ達と話しながら待っていると、カーミラが2人の男?を連れて戻って来た。
「待たせたなアスラ殿、こっちが私の祖父と父だ」
「儂が族長のオイゲンじゃ、孫が世話になったようじゃの」
「俺は戦士長のエルヴィンだ、パッと見は弱そうだが、なかなかどうして強いなお前さん」
オイゲンさんは立派な白いヒゲを蓄えた糸目の爺さんで、レベルは60を超えている。年の所為か基礎パラメータは低いものの、レベル補正を考慮すれば充分過ぎるほどに強い。
エルヴィンさんは、今まで見た中でも、最も大柄な竜人族だ。背は2メートルを軽く超えているだろうし、レベルも54と高く、パラメータも恐ろしく高い。まともに戦ったら、1対1じゃ勝てないなこいつには。
「初めましてアスラと申します。私の話を聞いていただけませんか?」
「ふむ、聞いていたのと随分違うなお主、もっと失礼な奴と聞いとったが」
「初対面の相手への礼儀は心得ているつもりです。ただ、それが続くかは相手によります。敬う必要の無い相手に、払うべき礼儀は持ち得ていません」
「それもそうじゃの、それで要件はなにかの?」
俺は手っ取り早く、族長のオイゲンに紹介状を差し出し説明する。
「知人から財産を託されまして、その在りかを竜人族のかたに聞くようにと、紹介状を預かって来た次第。まずは確認をお願いします」
「よかろう、見せてみよ……これは!?」
オイゲンは紹介状を見るなり、その糸目をカッと見開き、紹介状の文字を必死で追っている。
「父上、これはもしや真龍文字ですか?」
「そうじゃ、『この者は、我が恩人、最大限の便宜を図れ。白龍』、少し前から封印されているはずの、白龍様の気配を感じれなくなり、もしやと思っておったが……」
「御爺様、そのような物を信じると言われるのですか?」
「俄かには信じがたい、じゃが……お主、他には何か預かってはおらぬか?」
どうやら読める者が少ないだけで、白龍さんの紹介状の中身は意外にまともなようだった。俺は預かっていたもう1つの物を見せることにする。ちなみに最初にこれを見せなかったのは、竜から剥ぎ取った物のように見えないか、心配だったからである。
「これは、住居のカギと言われて渡されたものです。手に取ってご覧になりますか?」
「いや遠目で見れば充分じゃ、ここからでも恐ろしいほどの魔力を感じるの。どうか、大切にしまっておいて下され」
「では父上、この方達は!?」
「ああそうじゃ、正真正銘、白龍様の恩人じゃな。どうやら儂らは、とんでもない事をしてしまったようじゃぞ」
そう言うとオイゲンは、俺に跪き頭を垂れ、他の竜人達も同様に地面に跪いた。
「あっ、あっ、アスラ殿! 申し訳ございませんでした。全ては私の責任……如何様にも罰しください」
「えーっと、そんなに畏まられると、話しづらいし困るんだよな。それと、カーミラさんとは同意の上で戦ったわけだから、気にしてないよ」
「では、赦していただけると?」
「赦すも何も、怒って無いからね。でも、後から攻撃してきた5人をタダで許す気は無いよ、問答無用で襲ってきたわけだからね。まあ、そんなことより皆さん、立ち上がってくださいな」
俺はそう言って、竜人達を立ち上がらせる。
「それでは、どうすればその者達を赦していただけるのでしょうか?」
「俺に赦される必要なんて無いだろ? 赦してもらいたいなんて、加害者側のエゴでしかないよ。こっちとしては、もう2度と被害に遭わないことのが重要なんだ。そうだな……エルヴィンさん、あなたがこの5人を責任を持って監督していただけるのであれば、解放いたしますが、いかがでしょう?」
「はっ! 俺が責任を持って、監督します」
「では、宜しくお願いしますね」
竜人5人の処遇は、一応これで大丈夫だろう。無罪放免にするのは甘すぎるし、かといって中途半端な罰を与えて、逆恨みされるのも嫌だ。一思いに殺すって手もあるが、家族に恨まれたくないし、奴ら自身、俺達に強い怨みが有るわけでもないだろうし、このくらいが妥当な処だろう。
「寛大な処置、有りがたいのじゃが、それだけでは儂らの気が済まん。何かお詫びがしたいのじゃがな……そうじゃ! 孫娘のカーミラを嫁に貰ってはくれんかの」
何言ってんだこのジジイ! 流石の俺も爬虫類を嫁に貰うほどレベルの高い趣味人じゃないぞ。
「だめっ、アスラは私の嫁なの!」
「スズそれは違う、俺は旦那だ! オイゲンさんも変な冗談言わないでくださいよ、カーミラさんに失礼じゃないですか」
「我ら竜人族は強さが全てじゃ、戦いに負けたのじゃからカーミラには異存は無い筈じゃぞ」
「ふっ、ふんっ! どうしてもと言うなら、なってあげなくも無いわ!」
いや、ツンデレとか要らんし……。確かにその豊満な胸部には興味が無いとは言えんが、竜人族の肌は、鱗が堅そうだし、顔だけだと男だか女だかも判別できないくらいだ。正直、竜人の嫁とかあり得ないわ。
「そのぉ、有りがたいお話ですが、見た目が近い種族のほうがいいかなぁ……なんて」
「それは残念じゃの……、失礼を承知で聞くがの、もしや、その娘は混血種かの?」
「あぁん、それが何か文句でもあんのか? 回答には気を付けろよ糞ジジイ」
おっと、つい口が悪くなってしまったよ。まあ、こればっかりはしょうがないよね。
「いっ、いや文句は無い。どうやら本気で好き合っているようじゃな、ふむ……確か、道案内が必要なんじゃったか?」
「取り乱してすみません、失礼しました。オイゲンさんは白龍様が以前住んでいたと言う、迷宮の位置は知っていますかね?」
「知っておるぞい、強い魔物が出るでの、今では儂らの中でも強者達の訓練所替わりになっておる場所じゃ。案内人は手配しておくから、今日はこの村に泊まってくれんかの?」
安全を期するなら、あまり村に入りたくは無いんだが、この調子なら、襲われることは無さそうだな。よし、御厄介になるとしようか。
「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます。案内人の件よろしくお願いします」
俺達はオイゲンさんの案内のもと、竜人の集落に入り、族長の家に案内された。村の建物は木製の簡素な物であったが、作りは意外にしっかりしているし、素材も頑丈なものが使われているようだった。
「案外、頑丈そうな家ですね」
「そうじゃの、儂ら竜人は力の加減が苦手での、そこらの木を使った家じゃすぐ壊してしまうんじゃ。この家も魔物から採れる木材を使用しておる」
「なるほどね、これなら安心だ」
何が安心かというと、まあいろいろだ。ちなみに空き部屋が3部屋あると言う事で、部屋割りは俺とスズで1部屋、マシロ、ノルン、ナオで1部屋、コテツとアンズで1部屋だ。
肉ばかりの食事を済ませて、各自の部屋に行って休息を摂る。
「アスラ、するんでしょ? さっきそんな話してたし」
「ああ、バレてたか。嫌か?」
「ううん、嫌なわけないじゃない」
俺はスズを抱き寄せて、優しくベッドに引き込み……。
「アスラ殿! 話がしたいのだが、少し良いか…………しっ、失礼した!」
良いところで部屋に乱入して来たカーミラが、顔を真っ赤にして出て行ってしまう。
あんな爬虫類顔して、顔が赤くなるってことは、意外に顔の皮膚が薄いのかもしれんな。
そんなどうでも良い事を考えながらも、気にせず続きをおっぱじめる俺であった。




