新たな仲間
ノルンさんが身支度を整えた後に、俺はどうにか正気を取り戻して、さっき何をしたのかを問い詰めた。ノルンさんの話をまとめると次の通りだ。
・光魔法Lv2の『デボーション』を俺に使用した
・『デボーション』は主従契約の魔法である
・従者の身体に浮き上がった魔法紋に、主が触れると契約完了
・従者は主への悪感情の度合いで痛みを感じ、行動を阻害される
・従者は主のための行動であれば、主に逆らうことも可能
・主従契約の破棄は、どちらかの死をもってのみ為される
『デボーション』の効果を聞く限り、無属性魔法『プロミス』での主従契約に近いものがあったが、従者が主に逆らうことが出来る点は違った。例えば主が鬼畜な行動をとった時などに、止めるのが主の為と思えば、最悪殺してでも止めることが可能らしい。
裏切られたくなければ、従者の期待を裏切らないよう、理想の主たれという事だろう。俺も今後は、鬼畜な事はほどほどにしよう、でも、少しくらいは許してくれるよね、ねっ!
あとは一度、主従契約してしまったら『デボーション』が使用できなくなるというわけでは無く、魔法名はそのままで詠唱の違う、自己強化魔法になるらしい。主が目の届く範囲に居る時に限るという縛りはあるものの、自身の全能力を強化できるという高性能さだ。
『デボーション』という魔法は忠誠の証であり、主を守る時にも有用だ。そんな魔法だからこそ、エスト教国において、高位の騎士にとって光魔法Lv2が必須のスキルと言っていい物だそうだ。
ちなみにキュロスと、ニコラスさんの立場が微妙だったは、既に別の相手に『デボーション』を使っており、上役からの信用を得られなかったという理由もあるらしかった。
それだけに、この魔法を使うには充分な覚悟が必要である。今回の契約が不意打ちだったとはいえ、ここまでのことをされたのだ、男として受け入れざるをえないだろう。
「ところでノルンさん」
「何でしょうかご主人様、あと、私のことはノルンとお呼びください」
「そのご主人様ってのやめてくれないかな、ノルンさん」
そうなのだ、さっきからノルンさんにご主人様と呼ばれるようになっている。こう背中がゾクゾクッとして良からぬことを考えてしまいそうになるので、呼び方を改めてほしいのだ。少し惜しくはあるけど、これから一緒に生活することを考えると、直してもらう必要があった。
「ノルンです、ご主人様」
「あーもう、わかった。ノルンも前みたいな呼び方で頼むよ」
「わかりましたアスラさん、これでよろしいでしょうか?」
「ああ、これから頼むよノルン」
「はいアスラさん、末永くよろしくお願いしますね!」
これでノルンがうちのパーティに加入してくれると6人になる。回復役が入る事で、だいぶバランスの取れたパーティになるんじゃないか? ノルンが僧侶とすると、コテツとアンズが戦士、マシロが狩人でスズが忍者、俺はそうだな……暗殺者か。思ったよりバランス取れてなかったわ、あれだ俺が要らない子だ。俺の代わりに盾役入れるとか、俺の代わりに魔法使い入れるとかすると、いい感じかもしれない。
まあ、その辺は今は置いといて、早くスズ達にも紹介して、今後の育成予定を詰めておくべきだろう。
「そろそろ、皆の所に戻ろうか」
「すみませんが、少しだけお待ちください」
そう言うとノルンは、何度か深呼吸をして呼吸を整えた後、気合いを入れるように両頬を叩く。
「今更、緊張でもしてるのか?」
「はい、ここからが本番ですからね」
「へっ?」
「気にしないでください、すぐに分かる事ですので」
不思議に思いながらも隣の部屋に戻り、スズ達と合流する。
「皆聞いてくれ、今日からノルンに一緒に来てもらおうと思っている」
「改めまして、ノルンと申します。これからよろしくお願いいたします」
ノルンが丁寧にお辞儀をして挨拶をすると、機嫌の悪そうなスズが口火を切った。
「私は反対! そんな騙して主従契約を結ぶような奴」
「あら、盗み聞きとは良い趣味ですのね」
「マシロちゃんが教えてくれたの、盗み聞きなんてしなくても聴こえちゃうのよ」
もしかして本番ってこのこと? スズが反対することを予測してたのかノルンは。そういやノルンのこと、スズ達に相談せずに決めちゃったから、スズが怒っても仕方ないのかも。集団行動って慣れてないから、ついつい自分だけで決めちゃう癖が抜けないんだよな。
「スズ聞いてくれ、あの契約は、俺が事前にノルンを誘っていたからで」
「アスラは黙ってて!」
「いや、だから俺がな」
「黙ってて!!」
「はい、ごめんなさい!」
スズが怖い、背後に修羅が見えるよ……そういや鬼人族の血が混じってるんだよな、なんか納得だわ。
「スズさん、さっきの理由は本音ではありませんね、本当の事を言ってくださいな」
「貴方は弱い、足手まといは連れていけない」
「それも嘘、水路の時みたいに、本音を言ったらどうです?」
ノルンの真偽判定を使っての追及は、けっこう堪えるんだよなぁ。
「あの~、あんまりスズを追い詰めないでやって」
「アスラさんは口を挟まないでください」
「ちょっと、あっち行ってて!」
あっるぇ~? 2人掛かりで怒られたぞ……やっぱり、俺のようなコミュレベルの低い人間に女の口論の仲裁など無理という事か。
俺はスズに言われた通り、少し離れたところに行き待機する。我ながら、情けなさすぎて泣けてくる。
ノルンがおもむろに頭部を覆うベールを外し、スズに詰め寄る。
「この耳を見てください。アスラさんはこんな私を受け入れてくれたんです。その上、命まで助けてもらったんですよ」
「わっ、私だって助けてもらったわ!」
「それなら、尚更わかるでしょう? 私の気持ちが」
「だから反対してるのよ、アスラには私だけでいいの!」
なんだろうこの度重なる羞恥攻めは、俺を恥ずか死にさせるつもりだろうか……。ニコラスさんがニヤニヤとこっちを見てるんだが、いい加減あんたの孫を止めてくれないものか。
「やっと本音が出ましたね、ですが貴方だけでは厳しいと思いますよ」
「貴方に何がわかるっていうの」
「胸に手を当ててよーく考えて見なさいな」
スズが「胸に?」と首を傾げながら、自身の控えめに過ぎる胸に手を当てると、ノルンがスズに耳打ちをする。
「(アスラさんは特別な人、これからも仲間は増えていくでしょう。それが普人族の女性だったらどうします?)」
「!?」
「ご主人はそんなの気にしない」
ノルンが何を話しているのかは分らなかったが、何故かスズが驚き、マシロが話に参戦する。
「(私もそう思いますが、周囲の目は別です。私達が相手では周囲の人が止めるでしょうが、相手が普人族なら別です。相手の女性があの方の良さを知り、周囲の人がそれを盛り上げたら、あれよあれよという間に結婚ということも。こう言っては何ですが、あの方は流されやすい方のようですから)」
「(確かにあり得ない話じゃない)」
「(ただでさえ、私達は女性的魅力に欠け、立場も弱いのです。不利は否めないでしょう)」
「(悔しいけど、言う通りだわ……)」
何か俺の悪口を言われている気がしたが、スズが暗い顔で、自分の胸をスカスカと確認し始めたので、俺には関係無い話なのかもしれない。
「(私達は協力できると思うんです。1人で駄目なら2人で)」
「ボクもいる」
「(そうですね、3人で協力して当たりましょう。まずは普人族女性のパーティ入りは断固拒否です)」
「(……どうやら、そうするしか無さそうね。これからよろしく、ノルンさん)」
「(ええ、お二人とも仲良くしましょうね)」
「ん、よろしく」
マシロの声しか聴こえてこなかったのだが、3人で握手を交わし合っているので、どうやら話が纏まったらしい。何はともあれ、2人が若い出来たようで何よりだ。仲良きことは素晴らしきかな、だな。
俺達はこの後、テオさんの教国への工作が一段落するまで、2週間に渡って工房都市に足止めされることになった。その間、やる事が無かったので、宿屋でゴロゴロして俺はすごした。
金については、テオさんから報酬として、金貨10枚を頂いているので多少の余裕はある。少し多い気もしたが、手切れ金替わりなのかもしれなかった。まあ、気付かない方が幸せなこともあるから、あまり深く考えないでおこうと思う。
この間に、ノルンへの加護の付与は済ませてある。当然、濃厚なやつをしたわけだが、恥ずかしがるノルンは実に新鮮で初々しく、こっちまで恥ずかしくなってしまった。必要な事だと言って聞かせ、スズ達にも説得を手伝ってもらってやっとのことだった。
ちなみに、実際に唇に触れる瞬間、部屋の中に濃密な殺気のような物を感じたのは、気のせいだと思いたい。今後も加護を付与する機会があるのだろうから、生きた心地がしない。
また、この2週間は久しぶりの休日ということもあり、前半1週間の間をほとんど寝て過ごし、俺の筋力と敏捷が少し下がってしまっていた。流石にマズいと思い、残り1週間で元のパラメータに戻しはしたが、スズ達は皆、毎日トレーニングを欠かさずに、順調に強くなってきている。
このままいくと、精神的にだけでなく物理的にも勝てなくなりかねないので、ここらでいっちょ気合いを入れねばならないだろう。
まあ、明日になったら外出許可が出るはずだ、そうしたら狩猟都市ハイロウに拠点を移して、レベル上げと金稼ぎに勤しむつもりだ。
というわけだから、明日だ、俺は明日から頑張ろうと思う!
どうやらスズ達に追いつかれるのも、遠い日では無さそうだ。
これにて2章完了です。3章の舞台は商都連合、主に狩猟都市ハイロウをメインにお送りします。
次話は時間が少し飛んで、状況報告兼、人物紹介の回となる予定です。
今まで読んでいただきありがとうございました。そして次章からもよろしくお願いします。




