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商都連合への道

 つい1時間ほど前まで泣きながら俺に説教していたスズも、今は俺の膝の上に座って、安らかな寝息を立てている。スズの説教は、最初のほうこそ単独行動や独断専行に対する注意だったが、後半になるにつれ話の内容が変わっていき、最後はもう完全に愚痴であった。やれノルンさんに優しくし過ぎだ、最近触れ合いが足りてないだとか、周りで聞いていた人も完全に苦笑いだったよ。


 あの手この手で宥めた結果が今の状態である、笑うなら笑うがいい、女の涙には勝てる気がしない。きっとこれからも尻に敷かれ続けるのだろうな。まあ、こうしてスズのちっちゃいお尻に敷かれていると、それはそれで有りかなと、思えてきてしまうけどね。


 他の皆は5時間交代で休息を取っていたのだが、スズだけは俺が帰って来るのを待ってくれていたらしい。5時間経っても一向に帰ってこない俺を心配し、いざ探しに出かけようとした時に、俺が悪びれもせず帰って来たのだ。それに加えて、俺に対する不満を言えずに溜め込んでいたのだろう、少しくらい感情的になるのは仕方が無いことかもしれない。


 とか考えてるうちに、休憩時間も残り2時間程度だ。スズを起こしてしまわないよう、優しく抱きかかえたまま、仰向けに寝転がる。仮眠を取ろうと目をつむるが、身体の上に感じる人の重みと体温が気になって、なかなか眠ることが出来なかった。


 結局、俺が眠れたのは1時間程度だったと思う。重い瞼をこすりつつ、食事を摂り出発の準備をする。


「随分と眠そうじゃが、大丈夫かのお主」

「まあなんとか、後でゆっくり休みますよ」

「それなら、水路を出たら北に向かうのじゃが、湖は山の中腹じゃから、半日ほどで山の麓まで着けるはずじゃ。そこでまた休息とするから、それまで頑張るのじゃぞ」


 そう言うと、ニコラスさん達とキュロス達が出口に向けて出発し、俺達もそれに続く。もちろん少女達を背負ったうえでだ。道中では魔物に遭遇するといったことも無く、10分ほどかけて地下水路から外に出た。


 地下から出ると、既に日は落ちており、湖は闇に包まれていた。仲間達を見ると、マシロがしきりに湖のほうを気にして、身を震わせているのがわかる。


「どうしたマシロ?」

「湖の底に怖いのが居る……かも?」


 白龍の気配を察知したのだろう、マシロの答えは自信無さげであったが、的を射たものであった。


「ああ、それは気にしなくていいぞ、実害は無いはずだ」

「アスラさんは、湖に何が居るのか知っているんですか?」

「さて、どうだろうね、龍とかいたら面白いよね」


 マシロに答えると、思わぬところから突っ込みが入った。ノルンさんに嘘を吐くわけにもいかないので、冗談交じりに答えると、それ以上は訊かないでいてくれた。


 暗闇の中でも、ニコラスさん達は迷わず進んで行くので、俺達も置いていかれないよう付いていかねばならない。本来、夜間の山歩きは危険であるが、真円に近い月の光が、足元を照らしてくれている。俺達は月明かりを頼りに、白龍山を北側に向けて下って行った。


 腰に括りつけた結界石のお陰か、ここまで一度も魔物と出会ってはいない。白龍の封印を解いたのも、無駄ではなかった。「情けは人の為ならず」、他人の為にしたことが巡り巡って自分の為になる、これが誤用と知りつつも、あながち間違いでも無いなと感じた。


 下山中は、時よりニコラスさんが方向を指示するくらいで、皆、無言であった。勾配が緩やかになり、下山は完了と言ってもいい所まで来たのは、山を下り始めて8時間ほど経ち、空が白み始めて来た頃だった。目の前には鬱蒼とした森が広がっている。


「この森を抜ければ、商都連合じゃ。ここらで休憩としようかの」


 ニコラスさんの提案で、森に入ったところでしばらく休憩となる。いい加減、眠気が限界に達してフラフラしている俺の元に、スズがやってきた。


「あの、さっきは色々言ってごめんなさい」

「気にしないで、今はそれより眠い」

「そっか、そうだよね。ちょっとだけ待って」


 そう言うとスズは、地べたにぺたんと座って、自分の太ももを軽くはたく。


「その……さっきのお詫び、枕あったほうが寝やすいよね」

「……ありがと」


 暴力的な眠気に思考力が鈍っていた俺は、抵抗することなく横になり、スズの太ももに頭をのせる。適度な硬さが枕に丁度良く、スズの甘い匂いがして心が落ち着く。甘い匂いと言っても、砂糖菓子などの実際に甘い物の匂いとは全くの別物だ。嗅覚が感じる甘さでは無く、俺の本能がそう感じさせている物だろう。

 夢の膝枕をもう少し堪能していたいところだったが、抗いがたい睡魔に襲われ、俺は意識を失うように眠りに落ちた。



 眠りから覚めると、髪の毛を触られているのを感じた。薄目を開けて見ると、スズが楽しそうに俺の髪の毛を弄っている。


「おはよ、よく眠れた?」

「おかげで、眠気もスッキリだ。脚は大丈夫か?」

「少し痺れてるけど大丈夫だよ。またしてあげるね」


 俺はゆっくりと身体を起こすと、伸びをして身体をほぐす。どうやら俺は3時間ほど眠っていたらしい、じきに出発するとのことなので、眠れなかったスズには悪い事をしてしまったな。


「街に着いたら頼むよ。それまでは枕無しで我慢するさ」

「そっか……残念」


 イチャついている場合でもないので、スズとの会話を打ち切り、ニコラスさんと今後の相談をする。そこで聞いた話によれば、白龍山の麓の森を北に半日ほど進むと、商都連合の圏内に入るとの事だった。

 俺達が目指している目的地は、工房都市テリエという所らしく、あと3日くらいで到着する予定とのことだった。


 休憩も終わり、昼間の森を北に突っ切る。ここまで魔物は一切出ていない、キュロスなんかは全く出てこないことを、却って不気味に感じているらしく、頻りに周囲を見回している。半日ほど歩いて、何事も無く森を抜けると、日がすっかり沈んでおり、森の出口で野営をする。


「それにしても、一度も魔物に出くわさんとは運が良いのう」

「そうですね、きっとニコラスさんの日頃の行いが良いからでしょう」

「そういうことにしておこうかの、まあなんじゃ、ありがとうの」


 誤魔化す俺に、ニコラスさんは何を察したのか礼を言う。どうやっているのかは解らなくても、俺が何かをしたのを、俺の表情から読んだのかもしれない。まったくポーカーフェイスは難しい。


 今夜は3時間の3交代で眠る事になった。1番目がニコラスさん含む5人で、ここにはスズとアンズも含まれる。2番目はキュロス率いる4人で、うちのパーティからはコテツを出している。3番目が俺とマシロの担当で、キュロス隊からオッサン騎士と、若い兵を1人借りる形だ。

 俺とマシロを3番手にしたのは、食料が心もとなくなってきたためだ。スズに魔物に注意するよう伝えた後、結界石を異次元収納に突っ込んで、マシロと狩に出かける。


「マシロ、肉の食える獲物を探してくれ」

「ん、こっち」


 肉と聞いて張り切ったマシロは、どんどん先に進んで行く。10分とかからずにワイルドボアを見つけたマシロは、俺と協力して手早く仕留め、解体を始める。俺が隣で周囲を警戒していると、珍しくマシロが話しかけてきた。


「ボクにも何かできない?」

「急になんだ? 今だってこうして狩に付き合ってもらってるだろ」

「こういうのじゃなくて、さっきのスズお姉ちゃんみたいな」


 予想外の言葉にドキッとするが、解体しながら話をしている所為で、血塗れで話すマシロが怖かったからなのか、それとも可愛いと思ったからなのかは、判断がつかなかった。


「あー、それなら今度、耳と尻尾触っていいか?」

「ん、いつでも好きにして」


 よし、言質取った、落ち着いたら思う存分もふってやるぜ、これまで我慢していた分まとめてだ!


 解体が終わった肉と毛皮を収納すると、結界石を収納から取り出し、腰に括りつけてから野営地に戻り、皆と合流した。狩に出てから1時間も経っていないだろう。肉の3分の1ほどをキュロス達に分け、残りの半分を少女達に渡し、焚き火で焼いてもらう。

 焼いてもらった肉を食べたが、下処理が足りない所為か、調味料が足りない所為か分からないが、あまり美味しくは無かった。まあ、干し肉や乾パンに比べればマシなので、腹八分に食べて眠ることにする。


「その肉、皆さんも食べてくださいね。俺は寝るから、マシロもほどほどにして寝ておけよ」

「ありがとうございます。お肉なんて久しぶりです」 

「んぐんぐ……わかった、お休みご主人」


 肉は多めに渡しているので、少女達にも充分行き渡るだろう。いまだに大量の肉を頬張っているマシロのことはほおっておき、焚き火のそばで横になって眠る。


 そのまま何事も無く、自分の担当の夜番もこなして翌日の朝を迎えた。食事と睡眠を充分に摂ったので、体調のほうは昨日よりだいぶマシだ。


「さて、この先は街道を行くことになるのじゃが、わしらは不法侵入じゃ。出来るだけ目立たぬように行くぞい」


 目立たないようにするのは得意だが、流石にこの人数では難しいだろう。出来るのは、余計な事をしない事くらいだろう。


 森から街道に出ると、ニコラスさんに先導されて、街道を北にひたすら歩く。1時間も歩かないうちに、大きな街が見えてきたので、ニコラスさんに聞いてみた。


「ニコラスさん、あの街は?」

「あそこは狩猟都市ハイロウじゃな、白龍山での狩猟で生計を立てる者が住む都市じゃ」


 詳しく話を聞くと、この人数じゃ怪しまれるし、コネも無いのでハイロウには入れないそうだ。ついでに商都連合についても聞いてみた。

商都連合とは6つの都市の連合体で、各都市には特色があるらしい。今見えているのが、南西に位置する狩猟都市で、ここから北に行くと目的地でもある商都連合の中心、工房都市があるとのことだ。

 商都連合には他にも、最北端には学問都市、南西の教国との国境付近に芸術都市が、西には帝国と王国の2国と隣接した交易都市、東には大きな港を持つ港湾都市が存在するらしい。



 というわけで、目の前に大きな街が、美味しい食事と温かいベッドがあると言うのに、御預けをくらった俺達は、街道をひたすら北上する。途中で日が暮れてしまい、また野営をする羽目になったが、明日には工房都市に着けるだろうとのことだった。


 さっさと工房都市に着いて、宿屋でのんびり、ぐだぐだしたいものである。


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