外伝 〜もうひとつの出会い〜
朝8時。シィは死に掛けていた。
シィとはシィ・ドゴール・ラ・ヴィシィー・キュベリン・ガリバルディ5世のことで、
親しいものにはこう呼ばれていた。本人もどちらかというと気に入っていた。
(・・・・腹減った。まさかどこにも飯がないとは・・・・・。)
それもそのはず。
この町、東拍川市は田舎町である。
コンビニは4件しかなく、小学校、中学校、高校がひとつずつしかなく、人口も少ない。
商店街もあるがほとんどの店が10時からだ。
コンビニも24時間営業ではなく、朝の9時から夜の11時まで。
しかもここらへんは住居地区であり、店などない。
意識が飛びかけていたところに、男の声がする。
「おい母さん。ウチの前で女の子が死に掛けているが。」
妙に落ち着いている。冷静というかただ天然なだけだ。
「あらまぁ。中に運んでやりなさいな♪」
女の声。妙にはずんでいる。
そして男が我を運ぼうとしたが、
「うむ、それがだな。重くて運べないのだ。」
非力なわけではない。この鎧が重いのだ。
体重を合わせれば、おそらくは100キロ近くだろう。
「じゃぁ『たださん』は布団しいてくれる?」
スリッパの音がする。おそらく女が出てきたのだろう。
「分かった。いやぁ、年はとりたくないものだなぁ」
その声を最後に、シィの意識が吹っ飛んだ。
そして気がつくと、大きな布の中にいた。
寝心地がよく、いつもは硬い地面などで寝ていたシィは離れたくなかった。
それにきちんと片付いた部屋。どちらかというと男の部屋っぽいが。
しかしなぜこんなところにいるのだろうか。
そこでさっきのことを思い出す。
おそらくはここの家の人が運んでくれたのだろうな。
あまり覚えていないが、たぶんそうだろうと一人納得し、部屋を出た。
「変わった壁だな。我の地球にはこんなものなかった。」
そう独り言をつぶやきながら黄色い壁を触っていると、
「あっはっは!やっぱり破局か!!」
不意を突く大きな声。
思わず耳をふさいでしまうほどの声だった。
その声は、少し離れた部屋から聞こえてきた。
(お礼を言わなくては)
そう思ったシィは、声のした方へ向かった。
部屋に入った。
そこには男がねっころがっていた。
それになにか箱を見ている。
「ほら、言っただろう母さん。この二人離婚するだろうって」
こちらに声をかけてきた。
「たださん。あたしははこっちですよ♪」
もう一つの扉の方から声が聞こえてきた。
「ん?でもそこに、・・・・あぁ起きたのか。」
「うむ、世話になったな。」
そう答えて、出て行こうとしたら、
「ちょっとまった。飯でも食っていきなさい。お腹も減ってるようだしな」
「お腹が減ってなどな」
計ったようなタイミングでお腹の虫が鳴く。
「・・・い・・・・・・・」
そして2度目の鳴き声。
「遠慮しない」
そう男は言う。
「うむ、ではそうしよう」
そして女が隣の部屋から出てきた。
その手には大盛りの白い粒がたくさん入った茶碗が3つ。
そしてもう一回戻る。その手には変な色のスープが入ったおわんが3つ。
そしてまた戻る。その手には草の炒め物が入った皿が3つ。
ちなみに白米、味噌汁、野菜炒めである
それを次々にテーブルに並べていく。
そこで本日3回目の鳴き声。
「ふふふ、先に食べてていいよん♪」
子供のような無邪気な笑いを浮かべて言う。
「うむ、では先にいただく」
そしてシィは、ごはんにがっついた。
遅れて食べ始めた女と男と
話しながら(自分はほとんど聞いてるだけだったが)3人で朝食を食べた。
「お譲ちゃんはどこかいくあてはあるのかぃ?」
食べていると、いきなり男が聞いてきた。
『お譲ちゃん』と呼ばれると普通腹が立つが、この男に言われるとなんだかいい気分がした。
「いや、ないが。まぁ倒れない程度にぶらつこうと思う」
本当なら2、30年この地球で遊ぼうかとも思ったが。
なにせここは未知のものだらけだ。
この地球にいたってまた腹が減って死に掛けるだけだろう と思い帰ろうと思っていた。
すると女が、
「あら、それならウチに住まない?ねぇ、たださん?」
「うむ、家族が増えると楽しいしな」
一瞬いいのか? と聞きそうになったが、これ以上迷惑はかけられないと思い、
「いや、迷惑はかけられない。我とて王族だ。プライドというものもある」
最初はそう渋っていたシィだが、顔に似合わない二人の押しの強さに負けて、
「では、そうさせてもらう」
と言ってしまっていた。
なによりこの人のご飯はおいしい。
いいと言ってくれるのだから、と自分に納得させて、ここに住ませてもらうことにした。
そして全員ご飯が食べ終わり、そろそろ仕事にでなくてはいけないという。
二人は同じ所で働いているらしく、子供は一人。中学生の男の子がいる。と言っていた。
「夕方には帰ってくるだろうから、それまで留守番頼むね♪ っと忘れてた。」
「なにか忘れ物か?我が特別にもってきてやろう」
「ううん。違う。」
???
頭の中にハテナマークが浮かんできた
「そういえば名前聞いてなかったなぁ って♪ お名前は?」
あぁそんなことか。ここの者は一々名乗るのか。
「我はシィ・ドゴール・ラ・ヴィシィー・キュベリン・ガリバルディ5世。第13の地球の王だ」
魔王のスキルで、顔を見れば相手の名前が分かるが、作法なのだと思い、一応聞いた。
「おぬしは?」
「あたしは酉島千紘。千紘って呼んでね♪」
女が答える。
「うむ」
酉島か・・・・どこかで聞いた名だ。と思ったが気にするほどではない。
「私は酉島忠幸だ。忠幸でいいぞ。」
男が答える。
「うむ」
「じゃぁシィちゃん。困ったらそこの紙を見てね♪」
千紘の指差す方を見ると、変な形状の小さい箱の隣に紙が2枚。
そして二人は、鍵も閉めずに仕事場へ向かった。
ちなみに、シィが変な形状の小さい箱と称したのは電話である。
そして紙の一枚目には、二人の携帯の電話番号が書いてあった。
「ん?なんだこれは、暗号か?」
独り言をつぶやきながら、居間へと向かう。
そして居間で2枚目を見る。
そこには電話の仕方や食べ物の場所、食べ方などがイラストつきで書かれていた。
余談だが、千紘は芸術家に推薦されるくらい絵が上手い。
シィは2枚目も読み終わって暇になった。
なので、さっき忠幸がしていたように箱の前でねっころがってみた。
すでにこの時にはテレビの画面は『真っ黒』だった。
これのなにがおもしろいんだろう、と思いながら画面を見続けていた。
そしてしばらく画面を見ているとお腹がすいた。
千紘のメモどおり、インスタントラーメンを作って食べた。
満腹になったシィは、
そして真っ黒な画面とのにらめっこに戻った。
そしてにらめっこをしていると、玄関の方からドアを開ける音がした。
「ただいまぁ〜〜」
と若い男の声がした。
メモには、『ただいま』と言われたら返事をするように書いてあった。なので、
「うむ」
と少し大きめに声をだした。
静寂が戻ってくる。
何秒かして、
「あ、すいません。おじゃましました」
といってまたドアを開ける音。
ふむ、なんだここの家のものではないのか。
中学生の男の子が夕方に帰ってくるはずだが、まぁいいか。
そして何分か過ぎて、またドアの開く音。
今度は『ただいま』と言われなかったので、返事はしなかった。
そして背後に人間の気配。
おそらくは中学生。
(帰ってきたか)
男は扉の前で立ち尽くしていた。
そして、
「えっとどちらさまでしょうか?」
その顔を見たとき、なぜか胸が暴れだした。
これで本当に最終話です。
長い間読んでいただいた皆様に感謝を。
さて、今は「死神見習い」を書いています。
魔王の次は死神と決めていたものでw
(http://ncode.syosetu.com/n0798f/)
そして、重大発表です。
後書きでチラチラ言ってましたが、「となまお!」の第二部、「隣には魔王がいたSECOND」を執筆中です。
では、今までありがとうございました。
そして、これからもよろしく願いします。