プロローグ
あぁ、疲れた。現在時刻は朝6時。
俺は大澤まさや、30歳。
とあるIT企業のセキュリティチームに所属している。
俺の仕事は意外とシンプルだ。
「侵害される前に、防ぐこと」
――だが現実は、そううまくいかない。
新たに見つかった脆弱性を悪用され、会社は大規模なサイバー攻撃を受けた。
パソコンは次々と遠隔操作され、まともに使えなくなる。
社内は一気に混乱に陥った。
SOC(セキュリティ監視チーム)からは、異常を示すアラートが鳴り止まない。
ログを追って侵入経路を探るが、断片的で決定打が見つからない。
鳴り止まない電話に、ひっきりなしに届く対応依頼。現場は完全に手一杯だった。
「まだ対応終わらないのか!?」
「ログが追いきれません! どこから入られたのかも……!」
怒号と焦りが飛び交う中、俺はひたすらキーボードを叩き続けた。
被害を広げないために。これ以上、壊されないために。
――だが。
(間に合わない)
なんとか一旦の対応を終え、俺は会社を出た。
とはいえ、被害にあったPCの入れ替えや点検、再発防止策の検討など、やることは山ほど残っている。まったく落ち着いたとは言えない。
それでも、体は限界だった。
足元がおぼつかない。フラフラとした足取りのまま、駅のホームに立つ。
……帰ろう。
電車がホームに滑り込んでくる。
――その瞬間。
ドンッ、と背中を押された気がした。
(……え?)
突き飛ばされたのか?
頭がぼんやりして、うまく考えられない。
体がふわりと浮き、視界が傾く。
次の瞬間――
激しい衝撃とともに、俺の体は電車に激突した。
そして、俺の人生は、そこで途切れた。




