第九話「没落貴族の依頼(後編)」
お読みいただきありがとうございます!
前回、エドガーはリリアの父ヴィクターが
指紋偽装によって陥れられたことを発見しました。
そして、容疑者として浮上したのは——
被害者マーティンの息子、レオン。
今回は、事件の真相が明らかになります。
そして、リリアとエドガーの関係も——
第九話「没落貴族の依頼(後編)」、どうぞ。
翌日、俺はレオンの商会を訪ねた。
町の中心部にある、立派な建物。
『グレイソン商会』という看板が掲げられている。
俺は、店に入る。
「いらっしゃいませ」
若い店員が迎える。
「レオン様に、お会いしたいのですが」
「ご用件は?」
「エドガー・クロウと申します。少し、お話を伺いたく」
店員は、奥へ引っ込む。
しばらくして、戻ってきた。
「どうぞ、こちらへ」
*
応接室に通される。
豪華な調度品。高価な絨毯——
商会は、繁盛しているようだ。
扉が開き、一人の男が入ってくる。
三十代前半。豊かな服装。自信に満ちた表情——
「レオン・グレイソンです。エドガー・クロウ殿、でしたか」
「はい。お時間をいただき、ありがとうございます」
レオンは、椅子に座る。
「それで、何の御用でしょう?」
「三年前の、お父様の事件について、お聞きしたいことがあります」
レオンの表情が、一瞬強ばる。
「父の、事件——ですか」
「はい。シルバーレイク家の方から、調査の依頼を受けまして」
「シルバーレイク——」
レオンは、少し不快そうな顔をする。
「あの家の者が、まだ何か言っているのですか」
「はい。ヴィクター様の無実を証明したいと」
「無実? 馬鹿な」
レオンが笑う。
「証拠は揃っていました。指紋も、動機も」
「決闘裁判でも、彼は負けた」
「それでも、無実だと?」
「はい」
俺は、静かに答える。
「指紋は、偽装されたものです」
レオンの顔から、笑みが消える。
「……偽装?」
「はい。蝋を使った、指紋の転写です」
「凶器の短剣の柄に、蝋が塗られていました」
「それは——」
「ヴィクター様が実際に触った物から型を取り、短剣に転写した」
「そうすれば、指紋鑑定の魔法は、それを本物と認識します」
レオンは、黙っている。
だが、額に汗が浮かんでいる。
「レオン様、あなたが真犯人ですね」
「何を——」
「お父様を殺し、ヴィクター様に罪を着せた」
「そして、商会を継ぎ、土地も手に入れた」
レオンは、立ち上がる。
「根拠のないことを!」
「根拠はあります」
俺は、ノートを開く。
「まず、動機。あなたは父マーティンと仲が悪かった」
「父を殺せば、商会を継げる」
「さらに、ヴィクターを陥れれば、土地も手に入る」
「次に、機会。あなたはマーティンの息子。自宅への出入りは自由」
「そして、方法。指紋の偽装」
「ヴィクターが触った物——おそらく、土地取引の書類——から指紋を採取」
「蝋で型を取り、短剣に転写した」
「その後、父を刺殺し、短剣を現場に残した」
レオンは、じっと俺を見ている。
だが、反論はしない。
「最後に、決定的な証拠」
俺は、もう一つの事実を指摘する。
「あなたは、魔法使いギルドに出入りしていますね」
「それが、何か?」
「指紋鑑定の魔法——あれは、特殊な魔法です」
「普通の人間は知らない」
「ですが、あなたは魔法使いギルドと取引がある」
「そこで、指紋鑑定の魔法のことを知った」
「そして、その盲点——蝋で偽装できること——も知った」
レオンは、深い溜息をつく。
「……参りました」
彼は、再び椅子に座る。
「あなたは、本当に優秀な探偵だ」
「全て、その通りです」
レオンは、観念したように話し始めた。
*
レオンの告白。
父マーティンは、厳格で、レオンを認めなかった。
レオンは、商売に興味がなく、遊び歩いていた。
父子の関係は、最悪だった。
ある日、レオンは思った。
父がいなくなれば、商会は自分のものになる——
そして、土地取引で対立していたヴィクターを利用すれば、完璧な計画ができる——
レオンは、魔法使いギルドで指紋鑑定の魔法のことを知った。
そして、蝋で偽装できることも——
計画を実行した。
土地取引の書類から、ヴィクターの指紋を採取。
蝋で型を取り、短剣の柄に貼り付けた。
そして、父を刺殺。
短剣を現場に残し、ヴィクターに罪を着せた——
「全て、計画通りでした」
レオンは、自嘲気味に笑う。
「商会を継ぎ、土地も手に入れた」
「ですが——」
彼は、顔を伏せる。
「後悔しています」
「父を殺したこと」
「無実の人間を陥れたこと」
「全て——」
レオンの目から、涙が落ちる。
「罰を受けます」
「どうか、真実を公表してください」
*
レオンは、衛兵隊に自首した。
正式な調査が行われ、レオンの自白が記録された。
そして——
ヴィクターの無実が、正式に認められた。
再審が行われ、ヴィクターは釈放されることになった。
*
数日後、ヴィクターが釈放された日。
リリアとアリシアが、俺の家を訪ねてきた。
二人とも、涙を流しながら、何度も頭を下げる。
「エドガー様、本当にありがとうございました!」
「父が——父が、帰ってきます!」
リリアの声は、喜びで震えている。
「良かったですね」
「これも、全てエドガー様のおかげです」
「いえ、真実を明らかにしただけです」
俺は、リリアを見る。
彼女の顔には、笑顔が戻っていた。
三年間の苦労が、報われた——
*
翌週、シルバーレイク家で、ヴィクターの帰還を祝う小さな宴が開かれた。
俺も招待され、出席する。
ヴィクター——痩せていて、疲れた顔をしているが、目には力がある。
「エドガー殿、本当にありがとうございました」
ヴィクターが、深々と頭を下げる。
「あなたがいなければ、私は一生獄中でした」
「いえ、リリア様の依頼に応えただけです」
「リリアは——良い娘に育ちました」
ヴィクターが、リリアを見る。
リリアは、父の隣で微笑んでいる。
「父が投獄されてから、彼女は必死に家を守ってくれました」
「そして、あなたを見つけてくれた」
「本当に、感謝しています」
宴の後、リリアが俺に近づいてくる。
「エドガー様、少しお話ししてもよろしいですか?」
「もちろんです」
リリアと、庭を歩く。
夕日が、庭を照らしている。
「エドガー様」
リリアが立ち止まり、俺を見る。
「私、決めました」
「何をですか?」
「私も、推理を学びたいです」
俺は、少し驚く。
「推理を?」
「はい。エドガー様のような、論理で真実を見抜く力——」
「それを、身につけたいです」
リリアの目は、真剣だ。
「そして、エドガー様のお役に立ちたいです」
「私、記録魔法の適性があるんです」
「まだ未熟ですが——エドガー様の推理を記録できます」
「助手として、働かせていただけませんか?」
俺は、リリアを見る。
真剣な顔。強い意志——
彼女は、本気だ。
「分かりました」
俺は頷く。
「ですが、条件があります」
「はい」
「推理は、危険なこともあります」
「私の指示に従ってください」
「それができるなら、助手として迎えます」
リリアは、嬉しそうに笑った。
「はい! 必ず、お役に立ちます!」
彼女は、深々とお辞儀をする。
「これから、よろしくお願いします。エドガー様」
「こちらこそ、よろしく。リリア」
*
家に帰る馬車の中。
俺は、今日の出来事を振り返る。
リリアが、助手に——
これから、二人で事件を解決していくことになる。
彼女の記録魔法は、きっと役に立つだろう。
そして——
一人ではなく、誰かと一緒に——
それも、悪くない。
馬車が、クロウ領に近づく。
夕日が、地平線に沈んでいく。
新しい日々が、始まろうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
第九話、前後編の後編でした。
事件解決、そしてリリアが正式に助手となりました!
ついに、エドガーに相棒ができました!
これから、リリアと共に様々な事件を解決していきます。
リリアの記録魔法は、推理を記録するのに最適。
二人のコンビネーションに、ご期待ください!
次回、第十話では——
リリアへの推理の訓練、そして新たな事件が!
リリア編、まだまだ続きます。
じっくりとお楽しみください。
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次回もお楽しみに!




