第39話 それぞれの動き
王の寝室--
王の横には医師が座り、いつでも緊急の事態に対応できるよう準備がされている。
今、王の横に一人の老婆が立っていた。
齢は王と同じく70前後だろうか。しかし背筋は伸び、武闘家のような衣装を身に着けたその姿は、とても老人には見えない。まるで歴戦の戦士のようだった。
「生きている間にまた会えるとは思わなかったよ。リョウコ。」
王はなんとか体を起こし、女性に話しかける。
「それは私もよ。レイ。」
リョウコと呼ばれた女性は王に返事をする。
王を名前で呼び捨てにするなど、通常は許されるはずもない。
「私が死んだあと、キョウとカイをたのむ。言えた義理ではないが。」
「しかたないわね。」
リョウコは短く答えた。
「50年前、私たちは神託通りに魔王ヴィクトリーを倒した。しかし、その結果がこれとは、人生はわからないわね。世界を救ったはずの戦いが、この国を壊す始まりになるなんてね。」
「そうだな。」
「今度は勇者が革命家となり国を破壊しようとしている。皮肉なものね。」
「全ては余の、いやオレの責任なんだろうな。」
レイ王は目を伏せる。
理想に燃え、魔王と立ち向かった自分を思い出す。
仲間の勇者とともに世界を救ったはずだった。
しかしその後、王となったオレは国を衰退させた。
自分の子供たちすらも守れなくなった。
「結局、オレの仲間はもう君しかいないリョウコ。」
「私ももう長くないから、できることは多くはないよ。」
リョウコは静かに呟いた。
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは王だった。
「ところでリョウコ、最近、民の中で”貧民街の聖女”とよばれるものがいると聞いたが、あれは君か?」
「え?なんだいそれは?聖女?私が?たしかに50年前はそんな風にいわれたこともあったね。」
リョウコは笑って窓から貧民街のほうを見た。
「さあ、誰だろうね。この国にもまだ、そんな奇特な人間がいるんだね。」
◇
王都郊外 ――
貧困地区、ここに定期的に聖女と呼ばれる女性が出没していた。
定期的に身なりのととのった女性が現れ、貧しい人の病気をや怪我を治していた。
乱暴者たちが聖女を抑えようとすると、不思議な力が働き、乱暴者たちは気絶し、近づくこともできなかった。
そして、一通り、けが人や病人がいなくなると、消え去るのだ。
人々はこれを貧民街の聖女と呼んだ。
◇
歓楽都市「オアシス」
その入り口にアオ、ビゼン、ヨクトの三人は立っていた。
「まずはアカを探すよ。私たちの仲間が来ても攻撃するな、と言っておかないといけないからね。」
「ここは革命軍も来たことがないな。」
「私も来たことがない。」
ビゼンとヨクトにとって、この町は初めてだった。
「この町はね、自治都市ということになってるんだけど、要は――」
アオがそう言いかけたとたん、男たちが囲む。
「おっと、ここを通るには通行料がいるんだよ。」
「体で払ってもいいんだぜ。」
「なるほど、こういう町ってことね。」
ヨクトが一歩前に出る。
【豪傑覇気】――
ヨクトが覇気を発した瞬間、バタバタと男たちが倒れる。
気を失うもの、腰を抜かして動けないもの、ほとんどの男たちは戦闘不能になる。
「てめえ、何をしやがった。」
「妙な術を使いやがって!」
数名の男たちがヨクトに襲い掛かる。
「これは驚いた。まだやれる奴がいたとはね。」
ヨクトはそう言いながら、襲ってきた男たちをたたき伏せる。
男たちがビゼンとアオに向かう。ビゼンは男たちを蹴り飛ばす。
「やろう!」
また、数名の男たちが現れる。
「きりがないね。」
アオはそうつぶやくと。
指先から、光を発する。
『敵意あるものよ退けー滅敵覇気』
瞬間、周囲の男たちがバタバタと倒れる。
しかし、見物人は倒れない。
なにがおこったのかざわついている。
「これは‥‥おれの【豪傑覇気】に似てるが……」
「ヨクトのスキルと似たようなものだよ。ただ、効果は私たちに敵意があるものだけだけどね。」
「いや、完全にオレのスキルの上位互換なんだが。」
ヨクトが肩をおとす。
「ちょっとコツをつかめば君にもできるよ。」
そこに1人の女ギャングが話しかける。
「おめえら、すげえじゃねえか。ただの冒険者じゃねえな。ここは初めてか?だったら案内してやる。」
若い女ギャングを見ながらヨクトはアオに確認する。
「アオ、そのアカはどこにいるかわからないのか?」
「わからないね。でも、ひとつ方法がある。」
「どんな方法だ。」
「このあたり一帯を消し飛ばすんだよ。そうすれば気になって出てくると思うよ。」
「う、それは却下だな。」
「私たちの目的はカクの居場所探しだ。現状、手がかりもない。話だけでも聞いてもいいだろう。」
ビゼンが答える。
「しかたない。あんたの言うとおり、この町は初めてでね。人探しに来たんだ。」
「決まりだ。この町のルールから教えてやる。ついてきな。」
三人は若い女ギャングについていくことにした。
(まあ、最悪、どんな相手でも俺たちならどうにかなるさ)
こうして三人は歓楽都市オアシスで、奴隷商人カクと朱雀竜アカを探すこととなった。
◇
ワタシはアマンとともに、キョウ王女と面会することになった。
面会の前、アマンは私に言った。
「アビ、まず宦官の長、中常侍ジヨウに挨拶する。後宮のことはすべてあの男が仕切っている。王女殿下からの信任も厚い宦官だ。」
「ずいぶん信用してるのね。」
ワタシは正直な気持ちを伝える。
アマンは首を振った。
「信用しているわけではない。むしろ逆だ。宦官など、なにを考えているかわからん。あまり信用するな。」
「ずいぶん疑うのね。」
「周りはみな敵だと思え。そうだな。ただ一人信頼してよいのはリョウコ殿だけだ。」
「リョウコ?」
「あの魔王を倒した勇者パーティーの一人だ。」
「でも、それって五十年前の話だよね。リョウコって人はエルフかドワーフなの?」
「いや、人間だ。かなりの高齢だから戦力になるかは分からんが、王が協力を依頼したらしい。」
そう言いながら、私たちは王宮の奥へと進む。
後宮へ続く門の手前で、護衛の女戦士たちが集められていた。
ワタシを含めて十人ほどだ。
その中に見覚えのある顔を見つける。
「おう、アビ。」
振り返るとハクエイが立っていた。
「ハクエイ。」
アマンも軽く会釈をする。
「なぜ、あなたがここに?」
ワタシは首をかしげた。
「今回は俺が傭兵隊の責任者ってことになった。王宮周辺の警備は傭兵隊が担当する。」
「王宮の警備を傭兵がするなんてありなの?」
「宦官は直属の軍を持ってないからな。俺たちみたいな傭兵の出番ってわけさ。とはいえ、俺が入れるのはここまでだ。後宮の中は男は立ち入り禁止だからな。」
ちょうどその時、宦官が現れた。
「これより中常侍ジヨウ様に拝謁する。」
私たちは宦官に導かれ、建物の中へ通される。
部屋の奥にはすでに一人の男が座っていた。
四十代前後だろうか。
派手ではないが質のよい衣をまとい、細い目でこちらを見ている。
中常侍ジヨウ。
この男が後宮を取り仕切る宦官の長か。
「跪け。」
宦官が言う。
私たちは一斉に膝をついた。
「顔を上げよ。」
静かな声が響く。
ワタシは顔を上げた。
ジヨウはゆっくり立ち上がると、私たちの前を歩き始めた。
一人一人の顔を確かめるように見ていく。
そして私の前で足を止めた。
「護衛の中に刻印持ちがいると聞いていたが……お前だな。」
「はい。アビと申します。」
ワタシは名乗る。
ジヨウはしばらく私を見ていた。
「女の戦士は不足している。刻印持ちの奴隷でも構わぬ。」
意外なほどあっさりした口調だった。
「だが、後宮では肌を見せるな。刻印は隠せ。特に王女殿下の御前ではな。」
「承知しました。」
「宮廷内ではしきたりに沿った衣服を着てもらう。まず体を清めよ。衣服は後で支給する。」
それだけ言うと、ジヨウは背を向けた。
「下がれ。」
私たちは頭を下げ、部屋を出る。
外に出ると、アマンが腕を組んで待っていた。
「どうだった。」
「思ったより普通の人だった。」
アマンは小さく笑う。
「油断するなよ。」
そして後宮の門を指さした。
「ここから先は男子禁制だ。俺もハクエイも入れない。」
「つまり、ここからは私たちだけ?」
「ああ。後宮内は強力な結界が張られている。魔法通信もできん。気をつけろ。」
「ええ、任せて。」
ワタシはうなずいた。
さて。
噂のキョウ王女。
どんな王女様なのだろうか。
――その時、ふと視線を感じた。
誰かに見られている。
この感じ。
あの華姫に似ている。
こいつが後宮の悪魔か。
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