第30話 奴隷商人カク
私とビゼンは警備隊長のアマンに招かれ、兵士たちとともに奴隷商人カクのもとに向かった。
高い塀で覆われ、中のようすをうかがうことはできない。
そこはまさに屋敷だった。
警備隊の人たちが門をたたいて大声でわめいている。
「開けろ!コラア!」
「いるのはわかってんだぞ!」
まるで野盗のようだが、相手もろくなもんじゃない。
こういう脅しも必要なのだろう。
アマンはその兵士たちの様子を黙ってみている。
私とビゼンは一歩引いて成り行きを見守る。
まもなく恰幅のよい男があらわれる。
「こ、これは警備隊長アマン=キスリィ様、此度は急な起こしですがどのようなご用件で。」
男は汗をかきながら、アマンに対峙する。
「ご苦労。カク殿。実は今回来たのは、民間人である私の友、ビゼン殿の里が何者かに襲われ、同胞のダークエルフが誘拐されたそうなのだ。」
アマンはビゼンのことを友と紹介する。
真意はうかがい知れないが。
「そして、現在この王都で売られているダークエルフたちこそ、彼女の同胞らしい。紹介しようこちらがビゼン殿だ。」
アマンはビゼンをカクに紹介する。
ビゼンは仮面をはずし、カクを一瞥する。
しかしその瞳は美しくも、怒りに燃えていた。
「なるほど、でそれが私となんの関りが?」
カクがアマンに問う。
「実は、その誘拐犯がカク殿の名前を出していたと、このビゼン殿が証言したのだ。そういうわけで、真実を確認しにまいったというわけだ。」
そういってアマンは再びビゼンを見る。
「そうだな、ビゼン殿」
ビゼンはだまって首を縦に振る。
まあ、それは嘘なんだけどね。
しかし、実際にこのカクが誘拐犯、つまりコウロとつながっているのは間違いないはずだ。
「これはこれは、アマン様、こんなダークエルフの言うことをまにうけなさるのですか、ひょっとしたらこいつは逃げ出した奴隷…」
やつがそう言いかけたその刹那、アマンが凄まじい抜刀をし、カクの前に剣を突きつける。
次の瞬間、音が遅れてきた。
カクの喉元には、すでに剣があった。
全く見えなかった。
なんてやつだ。
「私は彼女のことを友だといった。その友を侮辱するということは私を侮辱するも同然。貴様はその意味が分かっているのだろうな。」
「こ、こんなことをすればコウロ様がただでは済ましませんぞ!」
カクが叫ぶ。
「ほう?おもしろいことをいう。貴様を切ればなぜコウロ様がお怒りになるのだ。貴様の商売は奴隷商人だが、まさかコウロ様が奴隷商人などの後ろ盾になっているとでもいうのか?」
「いや、それは…」
アマンの追及に口をつぐむしかないカク。
「なに、簡単なことだ。貴様が清廉潔白な商売をしていたならばなんの問題もない。」
さらに剣を突きつける。
「もし、私の捜査に協力してくれたあとであれば、コウロ様だろうが、ショウ様だろうが、国王陛下だろうが好きに私の無礼について申し立てれば良い。
「あ、わかりました。しかし、私も立ち会わせていただきますぞ。」
「もちろんだ。協力に感謝する。では、ビゼン殿、アビ殿、まいろうか。」
私たちはアマンに促され、屋敷の中にはいる。
そして、十数名のアマンの部下たちが家探しをはじめる。
【調査】会計書類の矛盾を自動的に判別する
【金庫探し】隠された宝箱や金庫を見つける
【隠し扉探し】隠された扉を発見する。
私のスキル【翻訳者】が反応する。
どうやら、アマンまたは彼の部下たちがスキルを駆使して、屋敷を調査しているようだ。
彼の部下も優秀らしい。
しかし、知らなかったが、こういうデスクワーク系のスキルをもっといるひとも世の中にはいるのか。
世界は広い。
ワタシも本棚の並びを確認する。
そこで、一冊の奇妙な書類に目が止まった。
会計書類に混じって置かれた、古いパズルゲームの本。
(怪しい……)
手に取ると、カクの眉がぴくりと動いた。
平静を装っているが、動揺が伝わってくる。
一見、変哲もない数字の羅列だ。だが、ワタシがそれを見つめた瞬間、【翻訳者】が視界の中で文字を書き換えた。
(……なるほどね。暗号か)
ワタシは意地の悪い笑みを浮かべ、近くの紙にその「翻訳結果」を書き記していった。
そして数時間後…
「どうです?何か問題がありましたか?」
カクがニヤつきながらアマンにつめよる。
「いや、貴殿がダークエルフ誘拐犯とつながっているなどという書類はなかった。」
アマンが無表情にいう。
「もっとも、どこかしらからダークエルフを「仕入れた」という書類はでてきたが、これだけではそいつらが誘拐犯かどうかまではわからん。」
「……‼」
ビゼンが拳を握りしめる。
「そうでしょう!あれは旅の商人から大量に仕入れたのですよ!もしあれが誘拐犯だっとして、私には関係がないことです!」
カクが勝利の笑みを浮かべる。
そして‥‥
「しかし、今回のこと、必ず、アマン様あなたの後ろ盾であるショウ=エン公爵に報告させていただきますからな!」
カクはアマンに指を突き立てる。
しかし…
「ところで、アビ殿、貴殿がおもしろものを見つけたと言っていたな。」
アマンがワタシにいう。
「これよ。」
ワタシは先ほどみつけた数字のパズルゲームの本のファイルをみせる
「そ、それは!!」
あからさまにカクの顔色がかわる。
「ワタシのスキルはどうやら暗号が読めるみたいでね。ここに面白いことがいろいろ書いてあったよ。解いてみたよ。」
ワタシはニヤリと意地の悪い笑いをみせ、数枚の紙をぴらぴら見せる。
自覚はなかったが、ワタシの【翻訳者】周囲のスキルを自動判別するだけじゃなかったらしい。
未知の言語や暗号まで「翻訳」するようだ。
こっちの世界や国にきて、ワタシはなぜか字が読めたのだが、そんなものかとおもっていたが、このスキルのおかげだったのかもしれない。
「この数字のパズルといてみるとき妙なことに帳簿のようにみえるね。」
ワタシはアマンにその紙をわたす。
「これをみると、カク殿、貴殿はダークエルフを含めた一部奴隷の販売の利益を申告していないように見えるが、どういうことかな。」
アマンがカクをにらみつける。
「そ、それは…」
カクの顔色がかわる。
「アビ殿が解読したのは全体の一部に過ぎないが、もっとあるかもしれない。これほどの脱税をしたのであれば、この国では重罪だぞ。」
「いや、これはミス、そう事務処理のミスなのです‼」
カクが顔色をかえて弁明する。
「ほうそうか、ではこれはどういうことか説明してもらおうか。おい。」
アマンが部下に指示をすると、部下たちが大量の書類を積み上げる。
「こ、これは何でしょうか。アマン様」
カクが顔色を土色にかえていう。
「これは貴様と取引がある商人たちの帳簿だ。ここに書いてある数字と貴様帳簿に書いてある数字が大幅にあわぬ。これはどういうことかな。」
アマンがカクを嘲笑するように言う。
そうか、アマンはすでに脱税の証拠を押さえてわけか。
そして、私たちに協力してくれたのも家宅捜索の口実をえるため。
こいつ…
ワタシはアマンの策略に利用されたわけか。
まあ、利害が一致したので文句はないが、しかし、このままではダークエルフの解放までまだ遠い。
「いや、これは…」
カクはなにもいえなくなっている。
「もし、これだけのことが全て事実だと証明されれば、場合によっては全財産の没収は免れん。場合によっては死罪の場合も…」
「そ、そんな…」
カクが膝をつく。
「しかしだ。」
膝をついたカクをアマンは見下ろして言う。
「私はカク殿が怪しげな商人からダークエルフを購入して売ったのだとは信じがたい。そうではなくて、彼らを開放するために購入し、なんらかの手違いで使用人が勝手に売ってしまったのではないかと思っていたが、どうだろう。それなら買い戻せばそちらの利益はなくなるが。」
アマンは一息つく。
「私もそうであってほしいと期待しているし、ショウ=エン様もそうであれば喜ばれるだろうな。あのかたは問題のある奴隷制度自体をなくしたいと思われているからな。」
カクは立ち上がる。
「そうなのです!私はダークエルフの皆さんを開放するために私財をつかったのです。儲ける気などありませんでした!」
カクはアマンにすがるようにいう。
こ、これは・・・
「で、あればすべてのダークエルフを買い戻せ。」
「はいいいいいい!」
カクはアマンに土下座をした。
◇
警備隊詰め所、応接の間にて。
「アマン殿どれほどお礼をいっていいか。」
ビゼンは仮面をとり、彼に深々とお礼をする。
「いや、こちらこそアビ殿の協力なければ、あれは見抜けなかった感謝する。」
「いえ、そんな。」
「これで奴隷商人の元締めをつぶすことができた。」
「え?今回はあれで見逃すんじゃ…」
「私はそのような話はしらん。あなたたちもなにも見なかった。奴が勝手にダークエルフを開放するのだ。その他の不正行為は別だ。」
こいつ、エグすぎるな
「しかし‥-」
アマンが一息おく。
「すべてのダークエルフがまだ開放されるわけではない。」
「それはどういうことだ?」
ビゼンが言葉を強める。
「コウロだ。やつだけは買い戻しなどに応じまいよ。結局、やつがカクから直接ダークエルフを購入したという記録はなかった、いくつかの業者をまたいで、証拠を消してるのだろう。」
「クソ、」
ビゼンが拳を握りしめる。
「さて、前回も話したが、あなたたちにはぜひ、今後も我々に協力してほしい。」
アマンは私たちをみていう。
「正規兵が難しければまずは傭兵からでもかまわん。」
「それについて、少し考えさせていただくわ。」
「かまわん。しかし、我々の陣営に入れば、よりコウロに近づくこともできるだろう。」
「ひとつ聞かせて、アマン殿、あなたのいえ、あなたたち目的はなに?」
ワタシはストレートに問う。
「キョウ王女をまもることだ。」
「キョウ王…?」
「残念ながら国王陛下はまもなく亡くなられるだろう。陛下は後継者を決めていない。というより決めることができない。」
アマンは座りなおす。
「王位継承候補はふたりいる。成人されたキョウ王女殿下、とまだ幼いカイ王子殿下だ。コウロがカイ王子をたて、自分が後継人になろうとしている。そうすればやつは邪魔なキョウ王女殿下を亡き者にしようとするだろう。」
「ひどいはなしね。」
「かりに国王陛下がカイ王子殿下を後継者に指名されれば、キョウ王女はやはり亡き者にされる。」
「そして、コウロが政治の実権を握ればますますこの国の政治はおかしくなり、例の革命軍を称する反乱軍に賛同する連中もでてくるだろうよ。」
アマンの炎のような瞳がまたゆらめく。
「その、あなたの後ろ盾のショウ=エン公爵という人はまともなの?コウロの弟なのでしょう?」
ワタシはその名を聞く。
「彼は私の幼馴染でもある。いささか古いタイプの人間だが、コウロのようなクズではない。彼ならばキョウ王女殿下が王座について、カイ王子殿下にも敬意をはらうことは間違いない。」
「なるほどね。」
「ひとつだけいっておく。コウロをなめないほうがいい。やつは今、この国でもっとも力をもつ人間といっていい。とくにあの華姫という悪魔。あれを討伐するために、こちらも人員を整えなければならん。」
「わかった。いろいろありがとう、アマン殿。」
私たちはそういって、警備隊の詰め所を出た。
◇
その帰り道――
「アビ、話がある。」
ビゼンは決意を込めた目で、ワタシに話しかける。
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