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冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
刻印受呪~刻印~編

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第29話 リョーカ、モンスターハントにいく

アビが王都でアマンから連絡を待っているころ‥…


革命軍野営にて――




「食料の調達に出るぞ。ヨクトがいつ戻ってくるかわからんからな」


リョーカが兵士たちに声をかける。


そこに、暇を持て余した凍子(トーコ)が現れた。


「ふーん、リョーカさんたち、狩りにいくんだ。私もいっていい?手伝えると思うよ」


凍子は無邪気に微笑む。


(冗談ではない!)


口に出してそれが言えればどれほど楽か。


「いえ、このようなことで凍子様のお手をわずらわせるわけにはまいりません」


リョーカが周りの兵士に聞こえないように凍子に言う。


「いいじゃないですか、危険な任務でもないですし」


「お嬢ちゃん!俺たちの邪魔はしないでくれよな」


若い兵士が笑って言う。


(馬鹿!馬鹿!馬鹿!なんてことを!)


リョーカはすさまじい形相で若い兵士を睨みつける。


「なに?私がいたら迷惑?私ならすぐに獲物を見つけられるけど。すぐそこに牛のモンスターを見つけてるし」


凍子がリョーカを睨む。リョーカは思わず青ざめる。


「牛のモンスターって?」


兵士たちが聞く。


「すぐそこの丘の向こうにいたよ」


「そうか、ジェントル・カウというおとなしい牛の魔物かもしれん。行ってみるか」


兵士たちが喜ぶ。


ジェントル・カウが数頭狩れれば数日はもつ。しかも性格は穏やかで、事故などまず起こらない。


「寝てたからそうだと思うよ!」


「じゃあ、行ってみましょう!隊長!」


兵士たちに押される形で、リョーカはモンスターハントに行くことになった。


◇


丘を越えてモンスターハントに向かう兵士一行。


リョーカだけは嫌な予感で死にそうだった。


「お嬢ちゃん、この辺なんだよね」


若い兵士が凍子に尋ねる。


「わかるよ。ついてきて」


凍子が先頭に立つ。その足取りは軽い。遠足にでも来たような顔をしている。


(やはり嫌な予感がする)


リョーカは額に手を当てた。


しばらく歩いたところで、凍子が立ち止まった。


「いたよ」


丘を登った先に、それはいた。


「な!?」


兵士たちが口を開けて凍りつく。


でかい。


でかすぎる。


四本の足だけで、木々より高い。背中の肉が山のように盛り上がっている。地面に伏せて眠っているだけなのに、その呼吸のたびに地面が微かに揺れていた。


「ベヒーモスだ……」


誰かが呟いた。


「コイツを狩れば、食料には当分困らないね」


凍子が嬉しそうに言う。


(笑顔でいうな!!)


リョーカは内心泣きそうになる。


「あれはAランクモンスターだ。始めて見た。小国なら滅ぼしかねない化け物だぞ……」


「やばい、野営の近くにこんなやつがいたとは……」


「そっとだ、そっと離れて皆に知らせないと」


(やっぱりだ!やっぱりろくなことがなかった!)


リョーカは声に出さず絶叫する。


(いや、しかし逆に考えるんだ。災害が事前にわかったと思え、リョーカ!)


自分に言い聞かせる。


その時、ベヒーモスは自分に死の予感がして目覚めた。


自分が恐怖することなどありえない。


目が覚めると小さな人間たちがいた。


馬鹿め。


そんな装備でオレを仕留めるつもりか。


この森の頂点。

何百年、誰にも従わなかった王たるオレを。


違和感を感じるが、ベヒーモスはそれを振り払うように人間たちへ咆哮を浴びせた。


「ゴアアアアアア!」


それだけで、兵士たちは恐怖で足が固まる。


怯えた兵士の群れに、ベヒーモスが突っ込んでくる。


「まずい、回避だ!」


リョーカの指揮で正気を取り戻した兵士たちは全力で回避行動をとる。


その横をベヒーモスが走り去り、木々をなぎ倒していく。


凍子は兵士たちの頭上に浮遊しているが、皆それどころではなく気がつかない。


「これくらい倒せないから、華姫なんかにやられるんだよ」


凍子がぽつりと言った。


兵士たちが再びベヒーモスと向き合う。


「ほら、ちょっと力をあげるから頑張って」


凍子が軽く手をかざす。


その瞬間、リョーカたちの体に何かが流れ込んできた。


熱い。


体の芯から、何かが溢れてくるような感覚。


「な、なんだこれは」


「おまけだよ。『魔空時空展開』」


周囲に結界が張り巡らされ、リョーカたちの力が数倍に跳ね上がる。


一方、ベヒーモスの能力が落ち、唸り声をあげる。


「なんだ、これは……」


兵士たちがざわめく。


「俺、なんか体が軽い!」


「剣が、いつもより重く感じない!」


「これは……Sランク並みの力があるんじゃないか!」


盛り上がる兵士たち。


「もしや、聖女アオ様が我々に力を……」


しかし周囲を見回してもアオの姿はない。


恐怖を克服することで自分たちが得た力だ——そう誰もが思い始めていた。


リョーカは改めてベヒーモスを見た。


心なしか先ほどより小さく見える。


「これならいけるぞ!」


リョーカの体が今までにない魔力で満ちていく。


「隊長……!その力は!?」


「わからん!だがお前たちの力を貸してくれ!」


「「はい!」」


兵士たちが叫ぶ。


魔力をのせたリョーカの槍が、向かってくるベヒーモスの額に突き立てられる。


そして——


世界が白くなった。


◇


気がついたら、空が見えた。


青い空だった。


雲が流れている。


のどかだな、とリョーカは思った。


(いや待て。俺たちはベヒーモスと戦っていたはずだ)


体を何とか起き上がらせる。


周囲を見ると、兵士たちが全員同じように地面に転がっていた。


しばらくして、兵士たちが意識を取り戻す。


目の前からベヒーモスが消えていた。


兵士がぽつりと言う。


「俺たちが……追い払ったのか」


「やったんだろうな」


「そういえば、あのお嬢ちゃんがいないな」


兵士が凍子の姿を探す。


「逃げたのかもしれない。陣に戻ってみよう」


(そうか、凍子様が助けてくださったのだろう)


(俺はあの方を誤解していたのかもしれない)


(四凶……ひょっとしたら邪神などではないのかもしれん)


リョーカは凍子への感謝とともに、ひとり空を見上げた。


◇


陣に戻ったリョーカたちは、驚くべき光景を目にした。


ベヒーモスがそこにいたのだ。


そして凍子がその背中に乗り、頭をなでている。


「あ……あ……」


開いた口がふさがらないリョーカたち。


「た、隊長、こ、これはいったい」


「やあ、君たち遅かったじゃないか」


「凍子様、こ、これはいったい……?」


「なんだ、覚えてないの?」


リョーカは必死に記憶の糸をたどる。


◇


リョーカはベヒーモスの額に槍を突き立てる。


が——


現実は非情であった。


覚醒したはずのリョーカの槍は、ベヒーモスの皮膚を傷つけることはなかった。


身体能力を上げようが、ベヒーモスを弱らせようが、その差は埋まらなかった。


無残にも、吹き飛ばされるリョーカたち。


「ぐ……」


しかしリョーカだけは何とか意識を保っていた。


「あーあ、だらしないなあ。もう少しでいいところまでいきそうだったのに」


倒れ込み、必死に立ち上がろうとするリョーカの前に、凍子が降り立つ。


そこへ再び、ベヒーモスが突進してくる。


「凍子様、よけ——」


そう叫ぼうとした刹那、凍子はベヒーモスを一瞥した。



ベヒーモスは少女を見て、戦慄した。


数百年生きてきた。その間、自分より強い相手に出会ったことはなかった。


だから自分が王だと思っていた。


それが錯覚にすぎなかったと、今この瞬間に悟った。



刹那、ベヒーモスは急ブレーキをかけ——なんと凍子に向かってしっぽを振り始めたではないか。


さらに巨体のお腹を見せ、服従のポーズをとる。


「お前、わかってるじゃないか。よし、私のペットにしてやる」


「ガウ!ガウ!」


小国をも滅ぼすベヒーモスが、子犬のように凍子にしっぽを振る。


その様子を見て、リョーカは再び気絶した。


◇


「思い出したようだね」


凍子が笑って言う。


「こいつ、君たちの特訓相手にちょうどいいんじゃないかな」


「「はあああああ!」」


兵士たちが絶叫する。


「お前もお前で、負けたらすき焼きにしてやるから負けるんじゃないぞ!」


そう言われたベヒーモスはしっぽを震わせ、兵士たちを威嚇するのだった。


(勘弁してくれえええええ!やっぱり悪魔だ!!!)


リョーカはまたしても心の中で悲鳴を上げた。

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