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2 ROOTSに入ってみた

「お前の“巻き込まれ体質”だけどな、これからも今回みたいな事件に遭う可能性が高い。そこで、提案があるんだが――“うち”の採用試験を受けてみないか?」


 ウワバミ事件の後。

 扉の前で、鬼頭さんに、そう言われた。


「あの……鬼頭さんの仕事って、何ですか?」


「“起源(ルーツ)を解明し世界の安全を護るための機関”――通称 ROOTS(ルーツ)


 常識では説明できない“怪異”が引き起こす問題を収拾し、人類を守るための国際秘密機関。

 普通ならバカバカしいと笑い飛ばすところなんだが……。


『それに、世界の真実を知りたいと思わないか?』


 ――そんなこと言われたら、受けてみようかなって思うだろ?


 そして今、俺は臨時捜査員としてROOTSに所属している。



 ◇◆◇



「おい、神楽いくぞ!」


「あ、はい鬼頭さん」


 エレベーターで駐車場へ。

 扉を出ると、電子音声が俺の名前を読み上げた。


『ID認証完了:神楽 隼人(かぐら はやと)。本人確認。いってらっしゃいませ』


 心のこもらない挨拶で送り出され、車の助手席に乗り込む。


「鬼頭さん、いくらSNSで再ブームが来てるからって、“口裂け女”とかベタすぎません?」


「……まあそうなんだが、ちょっと気になることがあってな」


 今回のブームの発端は――ある女子校で起こった事件の(うわさ)だった。


 当時はまだ感染症流行の影響で、学校ではマスク着用が半ば強制されていた。

 しかし、流行が落ち着き、みんながマスクを外し始めても――なぜか、頑なに外そうとしない女子生徒がいた。


 そのせいで、入学してから一度も素顔を見たことがない同級生がいる。

 そんな話が学校で囁かれていた。




 ――放課後。

 三人の生徒がスマホを構え、笑いながらマスク姿の女子生徒を囲む。


「ちょっとでいいから見せてよ!」


「同じクラスなんだし、いいじゃん!」


「はい撮りまーす」


 一人の生徒が、無理やり女子生徒のマスクを外そうとする――。


『きゃぁぁぁぁぁぁ!』


 学校中に響き渡る悲鳴。

 

 叫び声とともに学内は騒然となり、教師や生徒が駆けつけたが……そこには誰の姿もなかった。最初は生徒の悪戯(いたずら)だろうと考えていた学校側も、その後三人の生徒が同時に行方不明だとわかり騒ぎになる。


 そして――なぜか最近になって、その事件の映像だと噂される動画がSNSで公開された。


 その動画には――。


 制服姿の女子生徒。

 耳元まで裂けた“口”。

 ゆっくりと開かれていく真っ赤な口腔。

 鋭く白い歯が、画面の向こうに迫り――。


 画面が真っ赤に染まったところで、動画は暗転した。


 やがてSNSで学校名まで特定され、生徒が“行方不明”になっていることが知れ渡ると、“口裂け女事件”と呼ばれて爆発的に拡散した。


「でもその三人って確か“家出”で結論がでてませんでしたっけ?」


「ああ。失踪後に「学校が嫌で家出する」ってメッセージが、親元に送られてきたらしいな」


「なら、やっぱりデマですよ」


 しかし鬼頭さんは、静かに首を横に振った。


「両親の話によると、失踪直前まで悩んでいるような素振りは全く無かったらしい」


「じゃあ、その三人の家に事情を聞きに行くんですか?」


「いや、まずは噂の学校に行く」


「たしか名門の女子校ですよね? 許可もらえますか?」


「そのへんは抜かり無い」


 そう言って一枚の書類を見せられる。その書類には、入校許可の印が押されていた。


「えっ、これ本物ですか?」


「当たり前だ」


 ――その女子校は、閑静な住宅街を望む小高い丘の上に建っていた。

 俺たちは、来客用の駐車場に車を駐め校門へ向かう。


 守衛に書類を見せ、入校証を首にかけると校門をくぐる。校内は休憩時間だろうか、生徒たちが行き交っていた。


「俺、女子校に入るのって初めてなんですよ! なんか、ドキドキしますね」


「……生徒に手を出すなよ」


「ちょっ! 出さないですよ!」


 こちらを不審な目でチラチラうかがう生徒や、ひそひそ小声で話す生徒。


 これ、完全に不審者扱いじゃねぇか!

 疑いの視線に堪えつつ、早足に受付へ向かう。


「すみません、電話で連絡いたしました“W.S.R.”の者ですが」


 W.S.R.というのは、ROOTSの表向きの名前で「世界安全保障リサーチ」の略称だ。


「はい、伺っております。どうぞこちらへ」


 そう言われ、応接室へ案内される。

 室内には高そうな絵画、座った瞬間に沈み込むソファ。


「しっかし、学校って儲かるんですかね」


「まぁ、格式のある名門校だからな」


 ――コンコン。


 ノックとともに入ってきたのは、温和そうな女性だった。


「お待たせいたしました。私はこの星陵女学院の学院長を務める星崎(ほしざき)と申します」


「W.S.R.の鬼頭です」


「同じく神楽です」


「それで、この度はどのようなご要件でしょうか? 失踪の件でしたら警察の方にはお話しましたが」


 学院長が少し迷惑そうに訪ねてくる。


「我々は警察ではなく、政府から調査依頼を受けた民間組織です」


「政府からですか?」


 そう言って学院長が俺たちに疑うような視線を向ける。


「はい、昨今のSNSによる誤った情報拡散が社会に及ぼす影響について、実態調査も兼ねてお話を伺えればと」


 話の内容は事前情報とほぼ同じ。

 ただ、一点だけ違っていた。


「本校の生徒は、その三名だけです」


「つまり、動画に写っていた女子生徒は実在しないと?」


「はい、過去十年を遡って調査いたしましたが、そのような生徒が在籍していた記録は確認されませんでした。少なくとも本校の生徒であった事実はございません。」


 SNSに映っていた生徒が実在しない?

 じゃあ、あの動画はやっぱりフェイクなのか?


「生徒から直接お話を伺えますか?」


「申し訳ありません。騒動のせいで、生徒も教員も疲弊しております。ご配慮いただければ」


 学院長が渋い顔をする。


「……そうですか、承知しました。本日はありがとうございました」


 学院長に礼を言い校舎を出る。

 校門へ向かい歩き出すと、前方から言い争っている声が聞こえてきた。


「お願いします。少し話を聞くだけでいいんです!」


「許可証のない方は入れません。お引き取りください!」


「せめて話だけでも聞いてもらえませんか!」


「しつこいと警察を呼びますよ!」


 校門の前で、守衛と栗色の髪の女性が言い争っていた。


「あんなのが毎日来てたら、確かに嫌になりますね」


「よくある光景だがな」


 そんな騒ぎを横目に校門を出ようとした時、騒ぐ女性と目が合ってしまう。


「やっば!」慌てて目をそらすが既に遅かった……。


「あのすみません! 私、大学のオカルト研究会で活動している藤宮(ふじみや)と言います! 学校の関係者の方ですか?」


 案の定、話しかけられてしまった。

 守衛は、そんな俺を気の毒そうな顔で見て、守衛所に戻っていく。


「いや、俺たちは……ちょっ、鬼頭さん?!」


 鬼頭さんは関係ないとばかりに、スタスタと歩いていった。……逃げやがった!


「あの! 少しお話を聞かせてください!」


 ズンズン迫ってくる、藤宮という女。

 ちょ、ちょっと近いって!


 ――これが、俺と藤宮の最初の出会いだった。

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