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第3話 俺は認めないぞ!

 長毛種の開発により、少しずつではあったけれど、毛織物「バッファロー」を安定して生産できるようになってきた。また換毛期に入った普通のバッファローの毛も集めることで更に効率よく生産できるようになった。


 主に毛の収穫は毛刈りの得意なハンナ、そして機織りはゼルタス家の長女メリアが主導して行うようになった。イザベラさんから熱心に機織りを習っていたメリアの機織りも素晴らしい腕前になっていた。


 更に糸紡錘や機織りの仕事があるということで、移住者に若い女性も増えた。これで結婚式をあげるカップルも現れはじめた。それに合わせて、子供も増えるだろう。なんていうか、次世代が頑張っている感じがする。俺としては大満足だ。


 そして、もうひとつめでたいニュースがあった。ようやくケイトの縁談がまとまりそうなのだ。なんと、相手はエルムウッドに住んでいるシルバー伯爵家の息子だ。ルーク兄さんが何かの折に話を持って行ったところ、何故か本人にえらく気に入られてしまいタウルス高原までわざわざ挨拶に来たのだ。


 一応ヴァインバード家もそれなりに名のある家なのだけど、爵位を継いだのは兄さんだし俺とケイトは山の中に住んでいるしで相手が何を気に入ったのかはよくわからなかった。それでも若い二人がそこそこ盛り上がったようなので、俺たちは縁談を進めることになった。


 ケイトはエルムウッドにお嫁に行く気でいるし、マリィも寂しがっているけれどケイトの門出を祝っている。ところが何故か、弟のカイトはやっぱり何かが気に入らないようだった。


「姉さんはエルムウッドに住めていいよね」

「でも、お嫁に行くんだから少し寂しいのよ」

「そんなこと言ったって、本当はこんな田舎出てせいせいしているんじゃないのか?」


 そんな風に、カイトは何かとケイトに突っかかっていく。見かねて俺が二人の間に口を出した。


「遊びに行くんじゃないんだぞ、カイト。これは家の間の話なんだから」

「いいよ、どうせ俺はずっと父さんの言うこと聞いていればいいんだろう?」

「誰もそんなことは言ってないぞ」

「言わなくても、態度でわかるんだよ」


 ……どういうことだ?


 もしかして、カイトはタウルス高原にいるのが嫌なのか?


 俺はカイトの小さい頃を思い浮かべる。カイトは牛が好きだ。俺と一緒によくモルーカを撫でたり、子牛の世話をしたりした。ノヴァ・アウレアに帰るときに牛がいなくて不安だって言っていたくらい、牛が大好きなはずだ。


 そんなカイトがタウルス高原を離れたがっているなんて、俺には思いつきもしなかった。だから俺の仕事を継いでもらうべく、最近はいろいろ仕事の引き継ぎのようなことをさせていたところだ。


「もしかして、開拓事業の監督が嫌なのか?」

「嫌じゃないよ。監督の仕事も村長の仕事も、大事だと思う」

「それならお前が何が言いたいんだ?」

「……もういい」


 そう言ってカイトは俺の前から姿を消してしまった。一体俺はどうすればいいんだろう。


***


 結局、俺はルディに相談することにした。カイトから見ればルディは伯父に当たる。それで俺に言えない何かを相談していたはずだ。ルディには言えて、俺には言えないことって何だろう?


「……なるほどな。確かに、カイトはよく俺のところに来ていた。でも大した話はしなかったぞ。牛がかわいいとか、そのくらいだ」


 俺は拍子抜けした。もっとルディに重大なことを打ち明けているのかとばかり思っていたからだ。


「でも、そうしたらカイトは一体何を言いたいんだ? 言いたいことははっきり言ってほしいのに」

「その台詞、二十年前に聞きたかったな」


 うう、その件ばかりはルディに言われては俺は黙るしかない。あんまりにも俺がマリィと結婚したいと言い出さないから、わざわざ高原から離れたエルムウッドに言って俺を泥酔させるという手段を取られてしまった。言いたいことを言わないところまで似てしまうなんて、親子っていうのは難しいもんだな。


「何にしろ、カイトはケイトの結婚に不満があるってことは確かなんだ。でも、姉の結婚を祝えない弟っているか?」

「いるんじゃないか? 俺は妹の結婚は本当に嬉しかったが、それはこれからも変わらずお前やマリィと一緒にいれるから、だったのかもしれない」

「つまり、カイトはエルムウッドに行きたいんじゃなくて、ケイトと離れるのが寂しいってことか?」

「可能性としては、なくはないな」


 なんてこった。


 カイトは昔から姉の後をついて行く子供だと思っていたけれど、そこまでカイトはケイトのことを慕っていたというのか……? いやいやいやいや。まさかカイトに限って、そんなことは、ないとは、言い切れないか……。


 いや、いかん。


 何があっても、それだけは認めるわけにはいかない。そんなことを言い出したら、俺はケイトをさっさと嫁にやってカイトを高原から追い出してやる。何が俺の息子だ、跡を継ぐだ。そんなこと言ってる場合じゃない。俺はカイトの父親でもあるが、ケイトの父親でもあるんだ。


 姉弟間の劣情なんか俺は断じて認めないぞ!!


「とにかく、もう少し様子を見よう。カイトが何を考えているのか、俺なりに探ってみるから」


 悶々としてしまった俺をルディが慰めてくれた。一体カイトは何を考えているんだ? どうして話してくれないんだ? 無理に話を聞こうとしても無駄なことは俺が一番よく知っている。


 ああ、ヴァインバードの血って面倒くさいな……。

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