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第1話 長毛種が完成したぞ

 俺の息子のカイトの様子が、どうにも最近おかしい。


 小さい頃は少し引っ込み思案で姉のケイトの陰に隠れているような子供だったというのに、最近ではやたらと俺に反発してくる。マリィは俺とカイトの間で困っているようだけど、ルディは「放っておけ」としか言わないらしい。


 こういうとき、俺は弱い。前世の俺には父親はいなかったし、エリク・ヴァインバードの父親とは昔折り合いが悪かった。ケイトのことはマリィに任せておけばいいと思っているけど、カイトのことに関してはよくわからない。


 ケイトのほうは年頃になったので、結婚相手を探しているところだ。ヴァインバード家の一大事なので、アレックス兄さんやルーク兄さんとも相談をしている。しかし、なかなか縁談が決まらない。マリィも「まだ焦ることないわよ」と言っているし、当のケイトものんびりしている。高原の発展事業もあるし、俺の悩みの種はいつまでも尽きることはない。


 カイトはよく牧場に行って、ルディにいろいろ相談しているらしい。ルディはカイトと何を話しているのか、「男の約束だから」って教えてくれない。そのうち教えてやるし、悪いようにはならないから安心しろって言ってくれてるけど、何だか面白くないな。


***


 俺がタウルス高原にやってきて二十五年が経った。俺とルディ、そしてウォレスさんとハンナで今年生まれた子牛たちを並べた。長毛種として育ててきたバッファローの隣には、比較として通常のバッファローの子牛もいる。


「違うな」

「違うね」


 二十世代ほど、比較的毛の長い牛をかけ合わせ続けた結果が目の前にある。明らかに長毛種として育ててきた牛たちの方が全体的に毛量が多い。


「これから先、この牛たちが交配していけばずっとこの毛の量は維持されるはずだ」


 ウォレスさんが宣言する。隣でハンナがニコニコしていた。


「ということは……」


 その場にいる全員が顔を見合わせる。みんな、いい笑顔をしていた。


「目指していた長毛種の完成だ」


 俺とルディは抱き合った。ウォレスさんは目に涙を浮かべ、ハンナが支えている。


「やったぞ! ついにやったんだ! これでヴァインバード牛の毛織物事業を始められるぞ!」


 やるべきことは、後はこの子牛たちをかけ合わせて数を増やしていくことだった。牛から安定した量の毛がとれるようになるまで、俺たちは毛織物を販売する手筈を整えなければならない。


 試作品として、俺たちは毛織物を実際に作ることになった。まずはバッファローの毛刈りだ。バッファローの身体はとても大きくて、この毛刈りの作業が一番大変かもしれない。腕のいい毛刈り職人をもっと集めたいな。それか、毛刈り職人をタウルス高原で育成してもいい。バッファローの毛刈りが出来れば、羊の毛刈りくらい簡単にできるだろう。


 俺は出来るのかって? この前挑戦したけど、かなり難しかった。ハンナは毛刈りが上手で、大学ではよく羊の毛を刈っていたらしい。あのふわふわの毛を触っている時間が好きなんだとか。やっぱりこの子は変わっているのかもしれない。


 バッファローの毛が集まったら、これを洗浄してよく乾かしてからほぐす。それから糸にして、織物にしていく。言葉にすると簡単そうだけど、洗って濡れた毛を運ぶのは重くて大変だし、毛を解すのも紡ぐのもなかなか時間がかかる。


 こういう作業を村の子供たちが積極的に手伝ってくれるのはありがたい。毛織物をタウルス高原の売りにするなら、今いる子供たちに毛刈りの仕方を伝授していかないといけないな。これはハンナに毛刈りの先生になってもらう、というのもいいかもしれない。お牛に関する仕事なら、ハンナは何でも喜んでするだろう。


 糸が出来たら、後は織る作業だ。機織りのベテランのイザベラさんの指導で、バッファローの茶色い糸はみるみる暖かそうな毛織物に姿を変える。これからのことを考えると、機織りの職人ももう少し人数が欲しいな。


「ところでエリク、この毛織物の名前は考えているのか?」


 ルディの言葉に俺は首を傾げた。


「名前って、ヴァインバード牛の毛織物でいいんじゃないか?」


 そう言うとルディはにやりと笑った。


「せっかくだから、かっこいい名前にしたいじゃないか。ヴァインバード牛の毛織物、だと長くて呼びにくい。もっと短くて呼びやすいものにしないと」


 ああ、ルディの言うこともわかる。要はこの毛織物に独自のブランド名をつけるってことだ。確かにヴァインバード牛、だと少し長いかもしれない。


「でも、どんな名前をつければいいんだ?」


 俺は首をひねった。何か宣伝文句にもなりそうな名前がいいかもしれない。でも茶色くてあったかいですよー、くらいしか俺には毛織物の宣伝文句が思い浮かばない。


「例えば、ヴァインバード牛を生み出すような魔法の言葉とかさ」


 ルディの案を聞いて、俺はどきりとした。ウォレスさんはにっこり笑い、ハンナだけ首を傾げている。


「とにかく、それを毛織物の名前にするぞ。ついでに毛織物は毛皮と別に売り出す。毛皮は無骨で嫌だというご婦人方にも親しみやすい名前だと思うし」


 し、親しみやすいかなあ……?


 前世だったら間違いなく売れないと思うけど、この世界の人からすれば「バッファロー」という言葉は魔法の呪文みたいなものなのかもしれない。俺もバッファローを思い出す前だったら、そう思ったかもしれないな。


 こうして毛織物「バッファロー」が誕生することになった。前世の記憶が戻った今、俺とすればかなりふざけた名前だとしか思えない。でも、この世界だったら通用するんだろう。なんていうか、シャネルとかグッチみたいな感じで。そこに並ぶバッファロー。ちょっと面白いな。前世のままだったらこんなことはなかっただろう。一回死んで人生やり直してみるもんだなあ。



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