Chapter 1
―2001年、春。
高校を卒業してから、ずっと夢だった、プロのミュージシャンになろうと、友達やバンド仲間達と一緒に、
「バンドだ、ライブだ」
と、がむしゃらだったあの頃の事…。
本格的にバンドをやり始めた当時から、俺は自分自身の固定概念の中で、
「ロックバンドやるなら、こんなスタイルじゃないとな」
と、全身がモノクローム、もしくは黒っぽい服装を好んで着ていた。
首や、両手首、両手の指には、シルバーのネックレスや指輪、ブレスレット、さらには、両耳はピアスだらけ。
色だけに関して言うならば、モノクロームやシルバーは、子供の頃から好きな色であったので、服装については、元々からの好みも手伝っていたのかもしれないが…。
そして髪は、その時々の気分で色を変えたり、切ったり伸ばしたりしていたけれど、結局は、耳が隠れるくらいの、少し長めの栗色の髪…、いわゆる、「地毛」の髪色で落ち着いた。
そんな、やりたい放題に自分の思うまま過ごして来た、ある日の事。
たまたま、開いた求人誌に見つけた、アルバイト募集の記事。
「ゲーセンか…。やったこと無いし、ちょうどバイト探してた事だし、面白そうだな。受けてみるか」
ほんの軽い気持ちで電話を掛けてみた。
「アルバイトの募集を見てお電話させて頂いたんですが…。まだ募集はされていますか?」
「はい。大丈夫ですよ。それでは、お名前をフルネームで教えて頂けますか?」
「あ、はい。霞静流と申します」
「では、面接をさせて頂きます。日程が明後日の午前11時からでもよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「では、明後日の11時にお待ちしておりますので、履歴書をお持ちになって下さいね」
「分かりました。それでは失礼致します」
二日後に面接を受け、それから一週間もしない内に、バイト先から連絡が来た。
「霞さんでいらっしゃいますか?私、IVISの田中と申します。先日は面接を受けて頂きありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「今日は、検討させて頂いた結果、採用と言う事でお電話をさせて頂きました。もし、霞さんの都合がよろしければ、来週の月曜からでも来て頂けませんか?」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
「では、月曜の13時にお店に来て下さいね。では、失礼致します」
「失礼します」
バイトはあっさり決まった。
少しの緊張と何か得体の知れない期待感で胸が膨らんだ。
そして、バイト初日―。
「じゃあ、行って来る」
車に乗り、エンジンをかける。
「あれ…?何か変だ。ハンドルが重い…?」
いざ発進しようと、ハンドルを握った時の違和感を不審に思い、一旦、車を降りる事に。
「おかしいなぁ…」
そう言いながら、運転席側の前輪に目をやった。
その時、俺の目に飛び込んで来た光景は…。
「あれ…?パンクしてるじゃん…。参ったなぁ…」
そう言いながら、トランクを開け、ジャッキを取り出す。
ジャッキの動作確認の為に、2~3回、ジャッキのネジの部分を回す。
…が、ジャッキが壊れていたようで、上手くジャッキが持ち上がらない。
「くっそーっ!!ジャッキまで、ブッ壊れてやがるし…」
俺は、一人で文句を言いながら、苛立つ思いをぶつけるかのように、使い物にならないジャッキを、トランクの中に放り込んだ。
『ガシャッ』
だが、それで事が済んだ訳では無い。
当然、応急タイヤに履き替えるか、パンク自体を修理しない限りは、バイトに行けないどころか、車を動かす事すらままならない。
一旦、気を落ち着かせ、とりあえず、バイト先に車のトラブルの為に、遅刻する旨の連絡をする。
「すいません。今日からそちらでお世話になる霞と申します。ちょっと、車がパンクしちゃって…。30分くらい遅れそうです。すいません」
「分かりました。大丈夫ですか?」
「はい。直り次第、急いで行きますので」
「気をつけて来て下さいね」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
電話を切り、俺は、ある「賭け」に出た。
それは、余りにも危ない賭けだった。
「このまま、あのガソリンスタンドまで行ければ…」
そう思い、俺は運転席に飛び乗り、キーを回す。
ハンドルをしっかり握り、ハンドルを取られないように、なるべく、これ以上のダメージをタイヤに与えないように、慎重に車を走らせる。
少しでも操作を誤れば、「即、事故」と言う危ない賭けだった。
俺は、最悪の事態を想定しながら、神経がすり減るような思いで、近所のガソリンスタンドまで車をなんとか動かし、急いでパンクしたタイヤを修理してもらった。
「やれやれ…。やっと行けるぞ」
予定より、20分遅れでバイト先に到着。
「すいません。遅れてしまって…」
「大変でしたね。じゃあ、こっちに来てもらえますか?」
(良かった。怒ってないみたいだ)
「じゃあ、この制服を着て下さいね。あと名札は、ここにありますからね」
「ありがとうございます」
店長がフロアにいる、他のメンバーに俺を紹介する。
「今日から、一緒に仕事をしてもらう、霞君です」
「霞です。よろしくお願いします」
「よろしく」
「じゃあ、霞君は、とりあえずこれをやってくれるかな?」
「はい」
先輩に付いて、早く仕事を覚えようと必死だった為、一日目はあっと言う間に過ぎて行った。
それから二日後。
「霞君。今日は、ゲーム機を掃除してくれるかな?こんな感じで…、こうやって…」
掃除の手順を、先輩が丁寧に教えてくれた。
「はい。分かりました」
「後、あそこにいる小野瀬君が休憩だから、これが終わったら代わってあげてくれるかな?」
「はい」
言われた仕事を終わらせ、交代を告げる為に、彼の元へと向かった。
彼は、金髪とまでは行かないが、明るい茶色の短めの髪で、俺よりは少し背が高く、パッチリした目が印象的だった。
俺よりは背が高いと言っても、端から見れば、竜也の身長はすごく高いわけでもなく、標準的な身長だった。
「あの、休憩らしいですよ。俺、代わります」
「あぁ、すいません。俺、小野瀬って言います」
「俺は、霞です。よろしくお願いします」
これが、俺と竜也の最初の出会いだった。
休憩が終わって、俺の方へ竜也がゆっくりと向かって来た。
「あ、休憩上がりです。手伝いますよ」
「あぁ、すいません」
「霞君は何歳?」
「俺は20歳です。小野瀬君は?」
「俺、21。俺より1つ下なんだ。まぁ、仲良くしような」
「はい。そうですね」
「あ、そうそう。俺と話す時は敬語じゃなくて良いから。年が1つ違うくらいで、あんまり変わらないんだしさ。下の名前は、何て言うんだ?」
「静流だよ。小野瀬君は?」
「竜也。呼ぶのは竜也で良いよ」
「分かった。俺の事は、静流で良いよ」
「よろしくな、静流」
「おぅ」
竜也の人当たりの良さに、俺は、何故か安心感を覚えた。
その日から、馬が合う俺達は、自然と二人で行動するようになった。




