後悔ーside田島沙也加ー
なんでこんなことになったのだろうか。
私、田島沙也加は病院の窓から公園を見ながら思った。
不幸が起こるのは突然で、まるでダムが決壊し今までにせき止められていた水が流れ出すようだった。
最初は朝遅刻しかけたこと。
昨日まで普通に動いていたはずの目覚まし時計が朝起きると止まっていた。寝る前は正確な時間を刻んでいたはずだ。それなのに時間は夜中の二時をぴたりと指したまま動こうとしなかった。
そのせいで朝食をとりそびれ、髪も整えられないまま家を出ることになってしまった。
よくよく考えればそんな奇麗な時間に時計が止まるわけがない。とはいっても両親がそんないたずらをするとは全く思えないのでそれはあり得ない。
やはり偶然時計が止まっただけだろう。
二つ目の不幸は交通事故。
確かにあの時急いでいたから車の確認はしなかった。それにあそこには一時停止の標識があったため完全に油断した。
そのせいで額に大きなけがと数か所の打撲を負ってしまった。
三つ目の不幸は父親の仕事先がなくなってしまったこと。
私を跳ね飛ばした車はあろうことか父親が働くガソリンスタンドに突っ込み炎上してしまった。
勇気をもって消火活動をしようとした父が爆発に巻き込まれ怪我をしてしまった。
けがは奇跡的にひどくなく、軽いやけどと腰を痛めた程度で済み家で安静にしているという。
四つ目の不幸は足の大怪我。
警察の話によるとこの足は私をはねた車のせいではなく、その後に通った消防車に足を轢かれたらしい。
そのせいで足は粉砕骨折、何とか歩けるようにはなると医者は言っていたが、ギブスをつけられ足を吊り下げられている現状を見るとそれは何か月後なのかはたまた何年後なのか全く予想がつかない。
五つ目はバイトがクビになったこと。
私は4月の終わりからモデルのバイトをを始めた。とはいっても読モなのだが、それでも自分を磨き何件にも応募してやっととれたチャンスだった。
予想以上にバイトはきつく、体力切れで後日また撮影の予定だったのだがそれが今回のケガのせいで解雇になってしまった。
表の理由としてはこの足のケガでは無理という事になっている。しかし本来の理由はこっちのほうだろう。
壁に掛けられている鏡を見ながら額に貼られているガーゼをはがしてみるとそこには縫い跡があった。
怪我があまりにもひどく止血のため私が寝ている間に手術が行われたらしい。この怪我の跡はどうしても残ってしまう、そう医者から告げられた。
これのせいで私の価値は全くと言っていいほどなくなってしまった。
「何が命は助かっただ。何が生きていればいいことあるだ」
もう私の夢は途切れたも同然。顔の傷は想像するよりも致命傷になる。それも顔に傷一つない相手に言われたのが余計腹が立つ。
この怒りをぶつけようにも私をこんな目に合わせた運転手二人はあの事故で亡くなってしまい。行き場のない怒りがむなしさへと変わってしまった。
これもきっと因果応報というやつかもしれない。そう思いいつの間にか見舞いの品に紛れておかれている人形の部品を見る。
これが現れたのは4日前のこと。
どれだけ捨てようともいつの間にか手元にある。壊そうかと思ったがなんだか怖くてそれすらもできなかった。
思い当たる節はある。きっと原因は先週の金曜日に行った儀式のせいだ。
私は特に四方山を強く恨んでいるというわけではない。
というのも彼が男だということもあり、男性からモテたところで敵にはなりえないから。そして彼はボディーケアをしっかりとしてあの美貌を維持しているからだ。
彼の隣を通りすがったときに香水ではなく、体臭でもないよい香りがする。
あれはシャンプーやボディーソープで出るような香りで、高いものを使用しているとすぐにわかる。それだけお金をかけてしっかりとしているのだから当然だ。
ただ、それでも男である彼が持てるのは納得がいかなかった。
同じ学年の女子数人で集まり彼の物を隠したり、過激な子はノートを破ったりもしてたっけ。
それでも気にせず平然とし続けた彼の精神性には驚いたものだ。
そんな中、話を持ち掛けてきたのは学年の中でも大金持ちで有名な鹿島さんだった。
たしか図書室で見つけた呪の本だとか言って一冊の本を持ち出してきたのだ。
どんな名前の呪だったかは覚えていないけれど人形を本人に見立てるとかどうとかそんなものだった気がする。
当然全員そんなものが効くとは全く思ってなかったし本物じゃないと思っていた。
でも、その場のテンションと効果があればラッキー程度の考えでその本に書いてあった通りに実行した。
しかし月曜日にピンピンとした彼を見たときは「やっぱ偽物だったか」と苦笑したものだ。
そして呪を行ったその次の日、この人形の部品が私の鞄に入っていたのだ。
初めあの場にいた誰かのいたずらで入れたのだと思っていたし、いじられるのが嫌で話はしなかったが、他のメンバーからはあの呪効かなかったとわらいあうだけであった。
でもあの呪は本物で、かかったのは私のほう。もしかしたらほかの部品がどこかにあるのかもしれないがこの足では探すこともできない。
窓の外を見ると子供たちは投げ鬼をしながら遊んでいた。
その楽しそうな姿に少し心が和む。
「こんなことになるなら告白しておけばよかった」
ふとそんな言葉が口から洩れ、一人部屋にむなしく消えていく。
生徒会長は女性恐怖症ということで様子をうかがっていたが、もう私はきれいじゃない。傷ものなのだ。
もう絶対に振り向いてもらえないだろう。
そう思いながらもう何度目になるか傷ものになった顔を見るために鏡を見た瞬間。
「え?」
私のベットの隣に等身大くらいの身長をした少女の人形が映っていたのだ。
一応補足
読モ(どくも):読者モデルのこと。学生とか主婦や副業でのモデルがだいたいこれ。
投げ鬼:相手にタッチする代わりにボールを当てて交代するタイプの鬼ごっこ




