イップク
人形の髪を回収し終わり、行きつけのカフェで注文したパフェが届くまでの間、先輩と早川に「回収できたよ」と軽い感じのメールを送りつつも作文用紙に文章を書きこんでいく。
何サボってるんだと思うかもしれないが、俺に振り分けられた仕事が終わったわけだ。少しくらい休憩してもいいだろ?
それに、どちらかの手伝いに回ろうにもどのくらい進行しているかもわからない状態で手伝いに行くより手が必要かどうか聞いて手伝いに行ったほうが無駄に骨を折ることも少ない。
と、そんな自分の正当性を確認していると、目の前にコーヒーが置かれる。いや、頼んでないんだが?
「オーナー、コーヒー頼んでないんだけど」
「頑張ってるみたいだからサービスよ」
そう言ってウィンクをすると向かいの席に腰掛けるオーナー。何しれっと座ってるんだとは思うが、ほかに客もいないわけだし暇なのだろう。
「なら、彼女にもサービスしてあげたら?」
そう言って隣で失敗した作文用紙で足の生えた鶴を折っているメアリーを指すと、
「いやよ。飲めない相手に出すとか嫌がらせでしかないじゃない」
あ、わかるんだ。そういえば入店したときにお手拭きは二人分渡されたけれど水はメアリーのほうには出されなかった。
「すごい、いつ気づいたんで?」
「入店した時からよ。別にこの子隠そうともしていなかったみたいだし、そっち方面の人だったら見ただけでわかるんじゃない?」
「ということはオーナーもそっち関係の人?」
「ええ・・・確かにそうね」
オーナー霊能関係の人か、不思議って探せばいろいろと見つかるものだな。
「しかし、珍しいこともある物ね。怪異が人と平然と連れ添ってるなんて」
「そうなの?」
「ええ」
オーナーの話によると怪異というのは基本的にトイレの花子さんのように特定の場所にとどまっていたり、こっくりさんのように道具によって現れるもの、器の中に入り込み移動するものの三種類が存在するらしいが、メアリーに関してはどれにも該当しないようだ。
「でも、人に取り付いたり悪さするやつっていますよね? それじゃないんで?」
「いや? 器に入り込むタイプは基本人間の精神を乗っ取ったり人形の中に入ったりしたら移動できるけど、あくまで器を手に入れたらだ。それまでは結局特定の場所からは動けない」
うん、違いがよくわからない。
「じゃあメアリーは等身大の人形に入ってるってことじゃないので?」
「いや、この子はこれが本体だ」
「本体ね・・・」
メアリーのほうを見ると「yes」と書かれたメモを持っていた。
うーん、やっぱこの騒動どう考えても彼女が関係してるんだよな…。
そう考えつつコーヒーに角砂糖とミルクを入れて飲む。それにしてもパフェ遅いな。
「それで、君は何を書いていたのかな?」
そう言ってせっかく折られた鶴を広げて読むオーナー。おいこら、メアリーが「ああ!?」とでも言いたそうな感じに手を伸ばしてるんだが?
「ふむ、ホラー小説・・・このポストの怪異は君オリジナル?」
「いえ、少し耳に挟んで」
「ならやめておきなさい。妄想の怪異でも「噂」だとしても「本物」 になってしまうわ。それに中身が何もなくてスカスカだから面白くないし」
いや、リアルにあった話なんですけどね?
「じゃあ、何かこの町に伝わる怪異の話とかあります?」
「そうね、例えば『交差点の赤い傘』とかどうかしら」




