6:あばらやにようこそ
「で、これからどうするんだ」
ささくれ立った畳の上にぽつんと置かれた四角いちゃぶ台。半分膝を突き合わせるようにして、二人は向かい合っていた。
「どうする、と言うのは、家事の分担の事ですか?」
「それもそうだけど」
いきなり家事の分担の話をされるとは思わなかった。
流れで護衛対象が家について来てしまった。幾ら仕事の事とは言え、あの場で即決すべきではない案件だったのではないか、と透は思い始めていた。
そもそも、こんな家だ。彼女が元から住んでいた家の方が遥かに安全面では優れていたに違いない。
透は、興味津々、と言う風に部屋の中を見渡す目の前の少女へ視線を戻した。身に染み付いているのか、姿勢はピンと伸び、正座した膝の上に両手を置きながら、首だけ巡らせてあちこちへんな汚れのついている、ぼろアパートの室内を眺めている。
透の視線に気づいたのか、はっ、と陽菜は透の方へと向き直った。
「へえ、お一人で暮らしてらっしゃるんですね……。ごめんなさい、つい」
「いや、良いけど。でも、こんな家で悪いね」
「……、どういう事ですか?」
「いや、こんな古くて狭い家で悪かったね、って事だ。本当なら事前に説明するところだったんだけどさ。なんか場の空気流されたというか……」
何も知らずに自分から了解を取った室長と、必死な陽菜に流されたのだ。透は自分でそう言いながら、だんだんと気分が下向いてくるのが解った。
が、陽菜は透の言葉の意味を理解していなかった。
「いいえ、全然! もう屋根があるだけで十分すぎます!」
「それって俺の部屋の存在価値が屋根だけってこと?」
「いいえ! 壁もあるじゃないですか!」
頭が痛くなりそうだった。目を輝かせながら、陽菜は馬鹿な事を言った。言葉を切ってからも、握り込まれた小さな拳は、雄弁に彼女の興奮を物語っていた。
「お前、それマジで言ってるの?」
「ええと、本気ですけど、何かまずかったんですか?」
ぽかん、とした表情を浮かべ、首を傾げる陽菜を見て、透のあごはかくん、と音を立てて落っこちた。
「ちょっと待て、お前の前の家には屋根と壁は無かったのか?」
「……はずかしながら」
陽菜はうつむいて、もじもじと指を動かしながらそう答えた。俯いているのと前髪がかかっていて解りづらかったが、確かに透は陽菜の頬が真っ赤になっていたのを見た。
「家……、と言って良いんでしょうかね。ロープをですね、こうやって木と木の間に張って、そこへブルーシートをこうやって引っ掛けて形を整えてたんですが」
「テントと言えるかどうかも怪しい奴だな、それ」
家と言っていいかどうかのレベルじゃない。