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武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第一章
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7:他人の呼び方とヒトの気持ち

 頭を抱え込みたくなった。陽菜の言葉は透の理解の範疇を越えている。

「それで、どうやって暮らしてたんだ」

「火さえ熾せれば大抵の物は食べられますし……、水は公園の水道がありましたね。でも、やっぱり屋根や壁があるのって安心感が違います」

「……、色々気になるが、敢えて聞かないでおこう」

 目の前の少女からは汗の匂いもしなければ、泥の粒だって一つもついていない。

「まあ、あれだ。慣れるまでは色々大変だろうし、俺がやるよ。まあのんびりしてな」

「いえっ、そんなっ!!」

 慌てた様に手を振る陽菜。透はそんな陽菜を落ち着かせる事もせず、さらに言葉を継いだ。

「俺が『どうするか』って言ったのは、もっと詳しく業務内容を突き詰めようぜ、って事だ」

「業務内容……、ああ、護衛の事ですね」

 何の事だと思ってたんだ、と透は一人心の中で毒づいた。何となく調子が狂う気がする。

「例えば、お前は何をされたから護衛の必要性を感じたのか、とか、そもそも、お前が狙われてる理由だって、俺は何にも知らないんだ」

 透は自分の言葉に勢いがついていくのを感じていた。調子を取り戻そうとするあまり、自分の声に不機嫌そうな色が混じってくる。

「あの……、なんか怒られてる感じがするので、名前で……、呼んでくださいませんか?」

 怯えながらも、大きな濡れた瞳だけは透から離れない。自らの言葉につられて、沸き立ちかけていた透の心は急に冷めていった。

 危ない危ない。本当に、何故かこいつ相手だと調子が狂う。

「なんかすまんな。……、水流崎さん、で良いのか」

「いいえ、それは名前じゃありません」

「……陽菜さん、……で良いのか」

「どうか呼び捨てで」

「………………陽菜。…………、許してくれ」

「許してあげます」

 満足げな顔で目の前の少女がうなずく。透は頭を抱え込みたくなった。

「じゃあ、透さんのおっしゃるお話の方も、ぼちぼち話していきましょうか」

「……頼む」

 息も絶え絶えに、透はやっとそう言った。窓の外には、やっと夏の暗闇が訪れようとしていた。


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