おわりのはじまり
そこには兄弟がいた。
兄弟の住む家のそばには、大きな大きな樹があった。
その木の下で過ごすのが日課だった。
本を読むのが好きな兄と。
そんな兄が語る話を聞くのが好きな弟。
そんな、どこにでもいる兄弟だった。
生活は豊かではなかった。
むしろ貧しいと言えた。
新たに本を買う余裕はなく、兄は弟に語る話を自作するようになった。
不思議と話は尽きることなく、いつまででも語ることができた。
なんとなく頭に浮かぶのだ。
まるで人の人生を追い語るかのように。
弟は、兄が本を読んでいないことに気付いていた。
それでも兄が語るお話は、とても面白くて続きを聞きたがった。
その一方で、兄のために新しい本を買えないか考える日々が続いた。
貧しくも幸せな日々。
それは、ある日突然終わりを迎えた。
奇跡が起きた。
弟の目の前に大金があった。
ただ、兄のために本を買うお金が欲しい。
そう願っただけだった。
昨日拾った珍しい綺麗な石に願った。
そうしたら目の前に金貨の山があったのだ。
自分で稼いだお金じゃないからか、なんとなく少々の罪悪感に苛まれながらも本を一冊だけ買った。
きっと兄は喜んでくれるだろう。
そう思いながら本を渡した。
だが返ってきた兄の反応は違った。
本の代金はどうしたのかと詰問されたのだ。
仕方なしに兄に起きたことを伝えた。
きっと信じては貰えないだろうと思いながら。
だが、兄は信じた。
そして、決してこの事を他人に教えてはいけないと、強く念を押した。
弟も決して口外しないと兄に約束した。
それで終わったはずだった。
だが人は他者のわずかな違いに容易く気付く。
違和感というものは顕著に表れるものなのだ。
特にぎりぎりの生活をしている者は、お互いの違いに気付きやすい。
弟の起こした奇跡は、あまりにも簡単に他者へと暴露された。
兄弟の破滅は簡単に訪れた。
情報は他人により、わずかな金額で簡単に売られた。
奇跡は二度起きなかった。
弟は領主に囚われた。
兄は抵抗し、重傷を負った。
その後、領主は瞬く間に出世していった。
だが、没落するのも早かった。
地位に飽かせて不正を行い、それを暴露されたのだ。
それも、有り得ないタイミングで敵対派閥に見つかった。
あまりにも運が悪かったとしか言えないタイミングだった。
それと同時にクーデターが起きた。
長年抑え付けられていた領民が蜂起したのだ。
クーデターは国により、見て見ぬふりをされた。
不満を持った民衆のガス抜きをすると同時に危険人物の洗い出しに利用されたのだ。
この後、国が軍を動かしクーデターを鎮圧した。
何かがおかしい。
何もかもがおかしい。
後の歴史家が口を揃えてそう唱える事件は、こうして幕を閉じた。
その影で奇跡を起こした少年のことは忘れ去られた。
そうして、世界の終わりは、静かに、人知れず、始まりを迎えていた。
兄は弟を取り返すことに成功した。
不満を持つ者達を唆し、クーデターを起こさせたのだ。
その隙を突き、弟を領主の屋敷から救い出した。
いや、正確には“弟だったモノ”だ。
弟は拷問を受けていた。
手足の腱は切られ、片目は抉り抜かれ、舌は切り取られていた。
すでに心は壊れ、発狂していた。
体も生きているのが不思議なほど衰弱していた。
もう、息を引き取る寸前だった。
息があるうちに救い出せたのが、むしろ奇跡と言えた。
代償として、兄も傷を負っていた。
ここに辿り着くまでの戦闘で負った傷だ。
致命傷だった。
ゆっくりと、だが確実に死へと向かっていた。
死の間際、密かに発狂していたはずの弟が正気に戻った。
だが、誰もそのことに気付かない。
兄でさえも。
弟は最後に強く願った。
兄の願いが叶うように。
自分の最後の願いが叶うように。
兄は強く願っていた。
それは世界に対する呪詛だった。
願いは叶えられた。
あらすじとギャップが有りまくりですが同じ作品です。




