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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第四章「異世界バーン秘史」
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84 丸くなったタコ焼き

 店を夜のバー営業にして客用のテーブルでハヤトとユミ、チキータとガーランドは座っていた。

 ハヤトが会議をしたいと集めたのだ。

 ガーランドもなんとか体調を戻したようだ。

 店のバーテンはルシアがやってくれている。


「ガーランドさん。大丈夫ですか?」


 ユミが心配そうに聞いた。


「大丈夫です。ちょっと過労で……」


 ガーランドには明らかに疲れの色が見えていた。


「店長、皆で集まって会議ってなんですか? ま、まさかタコ焼きとかいう料理の調理器具が手に入らなくてまた探しに行くとか?」

「いやタコ焼きの鉄板は手に入った。皆に集まってもらったのは他の話なんだ」


 ガーランドは直感的に嫌な予感がした。

 いや……そもそも嫌な予感もなにもハヤトが改まってする話にろくなことはない。


「たった二泊三日の旅だったけどバーンのいろんな場所にいって俺は自分が井の中の蛙だって気がついたんだ」


 ユミとチキータはハヤトを真剣な目で見つめている。

 ガーランドは店長が確かになんとなくいいことを言っているような気もするが、二人がそういった眼差しを向けているのは〝女〟だからだと思う。現実的な問題を抱えている彼の立場からは気が気ではない。


「幸い店も大繁盛……俺はS級試験にも通過して……手続きはまだしてないけど……経営的にはなんの心配もなくなった」


 二人の少女はますますハヤトに見入っている。

 ガーランドの嫌な予感はさらに募っていった。


「けど大衆店だからかもしれないけど、どうしても質より量とスピードになってしまったんだ」


 ガーランドはまた気が遠くなりはじめた。


「そんな時、俺は知り合いが飯を食う客にまで苦労を要求する場所に店を開いてることを知った」


 ハッサンがあの場所に店を開いたのは、マグマが吹く過酷な環境で働く人達に美味い飯を提供する目的と美味いものを食いたいと真剣に思ってくれる客を選別する意味があったことをハヤトは聞いていた。


「俺はそこまではできないけど、もっと客に質の高い料理とサービスを提供したいと思ってたんだ」


 ガーランドが叫ぶ。


「無理ですよ! 今だってカツカツでやってるんですから! それに今だってこの店の料理のサービスの質が低いとは思わない!」

「ああ。俺もそう思うよ。ガーランドさんのおかげさ。俺がいない時でも店の質を保ってくれてた」


 ガーランドは叫んで悪かったかなと思ってしまう。


「だから、この店はガーランドさんに任せて二号店、いや、ゼロ号店を作ろうと思うんだ。俺が呼びたい客しか呼ばない最高の料理とサービスを提供する店をな。それなら今の店以上のことができる」

「な、なななななに言ってるんですか? 無理ですって無理です!」

「無理かな?」

「無理! 絶対、無理です!」


 ガーランドは必死に抗議した。

 もし聞き入れてくれないなら辞めてやろうとまで思う。

 ハヤトは笑うだけだった。


「俺はこの店の経営権から運営まで一切合財をガーランドさんに任そうと思ってるんだ。つまりのれんわけさ。いやこの場合、俺のほうがのれんを貰うのか?」

「え?」

「もちろん売上も全部ガーランドさんが管理して従業員に給料を払ってくれ。もう俺が口をだす権利もないけど給料を多めに払ってあげて欲しい」

「新しい従業員を雇ってもいいんですか?」


 今まで従業員を雇おうとする度にハヤトは料理に対する姿勢がなってないとかよくわからない理由で不採用にしていた。


「もちろん。ガーランドさんが決めることさ。それに俺が隠れ家的な店を開店準備してる間はチキータとユミを雇ってあげて欲しい」

「そ、それはもちろん。こっちから頼みたいぐらいです。けど、いいんですか? いまや大繁盛店ですよ」

「料理やサービスの質を落としたら、すぐに大繁盛店じゃなくなるぜ。あ、この店って半分はユミのもんなんだけどユミもいいよな?」


 ユミは親指を上に立てるサインをした。


「て、店長……ユミちゃん……」


◆◆◆


 今日のハヤトの店は貸し切りのパーティー会場となっていた。

 いつもは従業員以外に、入らせない厨房にクラスメートを入れて、ハヤトが華麗にタコ焼きを丸めていく。

 タコ焼きは作る作業工程も味の一つだ。


「バーンに来てタコ焼きなんか食べることができるなんて思わなかったよ。嬉しいなあ」


 時田はB級グルメが好きらしい。


「でも、なんでハヤトくんの料理試験突破でタコ焼きパーティーなの?」

「吉田が関西出身でタコ焼きが食いたかったらしいよ」


 ハヤトがそう答えると腕組をしてタコ焼きができる様子を眺めていた吉田が堂々と言った。


「アレは戦術的な嘘だ」


 クラスメートはハヤトも含め毎度のことなので「へ~嘘なんだ」という顔をしていた。

 アレだけ苦労したハヤトは別に怒ってもいない。そのおかげでタコ焼きができたと思うぐらいだ。

 友人の出身地の郷土料理だから作ってやりたいと聞かされていたガーランドだけが脱力して、運んでいた皿をぶちまけそうになった。一瞬、この店を貰うという話も断ろうかと思ったほどだ。

 タコ焼きは次々に焼けていった。


「美味しい~。外はカリッとしてるのに中はトロっとして。タコもプリップリ。日本のタコ焼きよりも美味しいかも。ガーランドさんも休憩して食べたら?」

「いや、タコ焼きが丸くなったのを見れれば、十分ですよ」

「へ?」


 犬飼先生がガーランドにタコ焼きをすすめる。

 ガーランドはもう十分に食べている。問題はタコ焼きが綺麗に丸くなっていなかっただけだ。


「わーいわーい! 試験とやらが終わったと思ったら旅に出ていたハヤトが店に戻ってきたのじゃ~」


 魔王のブリリアントが楊枝に刺したタコ焼きを掲げて走り回っている。


「こら! リリー! 食べ物を持って走り回るな!」

「うるさいのじゃ! 立食パーティーだから座って食べなくてもいいのじゃ!」

「座って食べなくてもいいが、食べ物を手に持って持って走るとはどういうつもりだ。お行儀よくしろと教えているだろう! そもそも女の子がな……」


 最近、清田はブリリアントの教育係になっていた。

 チキータも今日ばかりは初めてのタコ焼きを食べる側に回っていた。

 ハヤトとユミが同時に店内の様子を見て笑った。

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