賄7話 床に血飛沫
僕、ゴイっち。
ゴイサギの仲間は世界中にいて、海外では時速55kmで飛んだという記録もあるんだ。飛行距離も普段は近辺しか移動しないけど、日本でも50km以上移動したケースは複数あり、500km以上移動したゴイサギも確認されているんだよ。
今回は、命の恩人であるなつきが、妹を探すために必死なので、僕も何とか役立ちたいと思う。本来のスペックは高いんだから、やるときはやるよ!
私、なつき。
ゴイっちの脳にリンクして空から犯人の車を探しているのだけど、ゴイっちがそんなに心配してくれていることが手に取るように分るからなんだかジンときちゃった。
警察は、婦警さんコンビが聞き込みで得た情報以外には手がかりを掴んでいないみたい。結局、私の勘とゴイっちの“鳥の目”で探すしかないようね。
道明寺町の外れに心霊スポットと噂されている、廃墟寸前のアパートがあるわ。犯人は誰も近寄らないようなところに隠れるのではないかしら。
そう推察した私は、リンクしたゴイっちをそっちの方面に向かわせた。
まだ、完全に日が沈んでいないので空から地上の景色が見て取れるが、夜行性のゴイっちの目にはより鮮やかに映る。
しかし、例の“幽霊”アパートはかなりヘンピなところにあって、周辺を木々がおおっているので、なかなか見つからない。
それとおぼしき辺りを旋回していると、木々の間から黒っぽい車が見えた。降下して確かめると、黒い軽のワンボックスカーに間違いない。
“幽霊”アパートは廃墟寸前ながら、誰かが住んでいる生活感は残っている。二階の部屋のひとつに灯りがともっていた。まだ暑いので窓を開けているため、カーテンの隙間から明かりが漏れていたのだ。
ゴイっちは外の物干し台に気づかれないようにとまり、カーテンの隙間から様子をうかがった。
すると、妹がお気に入りのピンク色のスニーカーが見えた。
それに、足のスネにはリバテープが貼ってある。昨日、妹が家の階段でスネをぶつけて「すりむいた」と言ってたのを思い出した。
「シャーベット!」
「待て!早まるな!」
衝動的に飛び出しそうになる私の心を、ゴイっちが制した。
「だって、妹が、妹が…」
「気持ちは分る。でも、今、僕の体で飛び込んでも犯人をどうすることもできない。逆に犯人が興奮して妹に危害を加えるかもしれない」
「じゃあ、どうしたらいいの!?」
「待つんだ。君の本体が婦警さんたちとこっちに向かっているんだろう!」
ゴイっちの脳内でそんなやりとちりをしていたら、犯人が何か話しているのが聞こえた。
「君が、君が悪いんだよ。僕のことをキモいなんていうからさ。僕は、ただ女の子と話したかっただけなのに」
「うーー、うーーー」
妹の呻き声が聞えた。どうやら口にガムテープか何かを貼られて声が出せないらしい。
「へへへ、大丈夫だよ、殺したりはしないから。せっかく二人きりになれたんだから、一緒に遊んでくれればそれだけでいいんだよ。へへへ」
「うーー、うーーー、うーーーー」
妹の呻き声は恐怖におののいているようだった。
「急いで!シャーベットが!シャーベットが!!」
ミニパトに乗っている私の本体が婦警さんに訴えた。
「この先です!あの木が茂っている辺りに廃墟のようなアパートがあるはずです!」
「わかった。急ぐからグリップをしっかり掴んでてよ!」
ビンちゃんの声が車内に響いた。助手席のラリホも 凛とした顔つきをしていた。
「おや、スネに絆創膏を貼ってるんだね。ケガをしたのかい…」
アパートでは男が妹にじわじわと近づいていく。
「へへへ、ちょっとはがしてみようかな、へへへ」
男は妹のスニーカーを脱がして、さらにリバテープを剥がそうとしている。
「うーーーーーー」
「シャーベットーーー!」
思わず窓から部屋の中に飛び込んだ。
「え、ゴイっち?なんで?」
私ではない。ゴイっちが自分で飛び込んだのだ。
「バサバサバサーー」
「うわ!なんだこの鳥!」
ゴイっちが男に嘴で襲いかかった。
「やめろ!この野郎!」
「グワッ」
男がゴイっちを床に叩きつけたため、叫び声を上げた。
その瞬間、床に血飛沫が飛ぶのが見えた。
「ゴイっち?大丈夫なの?」
脳内にリンクした状態で呼びかけるが答えがない。
「ゴイっち!ゴイっち!ゴイ……」
リンクが切れるのを感じた。
「ゴイっち!ゴイっち!」
意識を取り戻すかもしれないと願いながら呼び続けているうちに、リンクの手応えが完全になくなった。
「ゴイっちー!!」




