1話
以前投稿した作品の改稿版です。
エピソードを追加しました。
よろしくお願いします。
――ああ、また壊れてしまった。せっかく組み立て直したのに。
奥深くに押し込めていたものが溢れ出す。
そう。
その日は――
*
その日は、いつにも増して底冷えする夜だった。
窓の外は濃密な霧。街に漂う不穏な緊張感がここにも伝わって来るようだった。
ベッドの中で小さな身体を縮こまらせながら、ビィは両親に思いを馳せた。
――おとうさん、おかあさん……。
熱のせいだけではない震えと不安に、涙が滲んでくる。
そのとき、カチャリ、と小さな音を立てて、扉が開いた。
「ビィ、調子はどうだ? ミルク粥、食べられるか?」
「……おにいちゃん……」
あまいミルク粥のにおいとともに入ってきた兄の姿に頬を緩ませ、それでも消しきれない不安が漏れ出す。
「おとうさん、おかあさん、だいじょうぶかな……。まちのそとには、まじゅうがいっぱいきてるんでしょ……?」
前に父が言っていた。何年かに一度、魔獣たちがいっせいに暴れて、この街にも襲いに来ることがあるのだと。
「大丈夫だよ。父さんも母さんも腕利きの魔導師だ。防衛隊の人たちと、街を守ってくれるさ」
頭をなでる温かい手に、幾分かほっとする。しかし――
「もう何年かあとだったら、俺も剣を取って駆けつけられたんだけどなぁ」
街の外を見やる兄の言葉に、とっさに腕にすがりつく。
「いやっ! いやだ……! おにいちゃん、いなくなっちゃいや……!」
「わるいわるい。大丈夫だよ。兄ちゃんはどこにも行かない」
ビィの小さな手をつつみ込みながら、兄は言った。
「何も怖いことはないよ。兄ちゃんがずぅっとそばで守ってあげるから」
温かい手のひらに、だんだん心が落ち着いてくる。
「や、やくそくだよ……。ずぅっと、いっしょだよ……」
「ああ、約束だ」
優しい笑みに、ほぅ、っと安堵の息をつく。
そこでようやく、ビィは気がついた。
頼れる兄の微笑みが、小さく揺らいでいることに。
兄も、本当は心配なのだ。
ぎゅっと、兄の手を握り返して、ビィは決めた。
――ぼくも……ぼくもおにいちゃんのこと、まもれるように、なるんだ……。
結局、あの防衛戦から両親が帰ることはなかった。
静かな家で沈み込むビィを、兄の手の温かさが支えてくれた。
兄が一緒なら、どんなことだって頑張れた――




