第78話 千切れても、花
巨体が動いた。
鉄板がへこみ、オルトロスが低い姿勢のまま迫ってくる。
二つの頭が激しく上下し、左右の魔法石を狙うのは難しい。
「無理に魔法石は狙わない。今のあいつには、二発ともかわされる」
「では、何を狙うんですか!」
「走ってもらう。避け続けられなくなるまで」
「……種をたくさん使うのね」
「それだけじゃない。もっと……大きくしなくては……」
俺は《刹那の種》をつかみ、魔物の進路へばらまいた。
「《刹那の種》!」
鉄の床を割る勢いで、花とツルが現れた。
オルトロスは速度を落とさない。
「ヴォアァァァァア!」
前脚で花を踏み潰し、二つの顎でツルを食い千切る。
「ダメですよ……咲いても壊されています!」
「それでいいんだよ。床一面に広げてくれた」
踏まれたツルも、食い千切られた花も、枯れるまでのわずかな間にまだ伸びている。
俺は重なったツルの中心へ針を突き立てた。
「《刻の縫い針》」
一瞬の静寂。
千切れたツルが止まる。
枯れる寸前の姿で動きを止めた……落ちた花々。
あとは、この全部をひとつに……。
「竜よ、オルトロスだけを追ってほしい。左右の魔法石には触れなくていい。でも、限界まで頑張ってほしい」
「レンリ、いい感じ。今の命令なら、やることも、終わりも決まってる」
「ありがとう。じゃあ、いこう」
花とツルが重なる中心……切れて広がった花の中心へ片手を触れる。
「《竜化の手》!」
床一面の花やツルへ伝わっていく……竜の力。
千切れたツルが互いに巻きついて、長い胴を形作っていく。
様々な色の花が角を作り、巨大な竜の頭が持ち上がった。
天井の灯りをさえぎる頭と角。
エリア一面にのびた長い身体。
尾はまだ、反対側の壁際に残っている。
「花が、竜になりました……! 長い竜に! 大きい! 前見た時よりも大きいです!」
「《長花竜》。行って!」
「シャァァァァァ!」
長花竜が身をくねらせ、敵へと迫った。
『花竜きたあああ!』
『刹那の種に針と竜化!?』
『魔法石を狙わないのか』
『どうするつもりだ』
オルトロスの右の頭が、花竜の喉元へ噛みつく
左の頭が胴を引き裂いた。
それでも止まらない。
千切れたツルが再度からまり、のび、再び形成されていく。
「シャァァァァァッ!」
太い尾がオルトロスの脚元を払った。
魔獣は床を蹴り、長い胴をまとめて跳び越える。
「……また間合いが開いたわ」
「いける! 着地した場所へ追いついて!」
早い。
巨体が全力で対応してくる。
けれど、こちらも全力でいってもらう。
まぁ、花々に体力という概念があるのかわからないけど……。
「いけますよ! 《長花竜》が押しています」
着地したオルトロスへ、薙ぐように竜の頭が迫った。
しかし、その時。
「ヴァオオオッ!」
突如、二つの頭が咆哮し、オルトロスは進路を変えて俺たちへ突進する。
「こっちを狙ってきてます!」
「ニーナ、乃々さんを守れる!?」
「のの、ニーナから離れないで。《結晶盾》」
乃々さんの前に厚い結晶が広がる。
ギャリィィィ!
激突し、結晶を裂く巨大な爪。
重い音が響き、盾が轟音をあげた。
結晶に亀裂が走ったが、ニーナは両手を下ろさない。
「ニーナちゃん、大丈夫です! 私もまだ動けます!」
「よかった。ニーナもいける」
後ろから追いついた長花竜が、オルトロスの後ろ脚へ巻きつく。
敵はツルを引きちぎって盾から離れ、そのまま走った。
長花竜が追う。
逃げ道を塞いでいるわけじゃない。オルトロスが右へ逃げれば右へ、跳べば着地点へ長い胴を送り込む。
「ヴァオオ!!」
噛み千切るにも、踏み越えるにも、敵自身が動かなければならない。
もう一度、巨体が跳んだ。
「シャァァァァァア!」
長花竜は遅れて追うのではなく、長い胴を曲げて着地点へ回り込む。
着地したオルトロスは休む間もなく、また床を蹴った。
「またかわしました! でも、さっきより着地が深いです!」
後ろ脚が沈み、爪が床を長く引っかいた。
先ほどは短かった爪痕が、今は長くのびている。
「効いてる。だが、こっちも枯れる時間が近づいてるね」
横腹へ頭を叩きつけ、巨体を押す竜。
オルトロスは踏ん張り、花の頭を噛み破った。
もうひとつの頭も胴へ食らいつき、床へ叩きつける。
「竜が噛みちぎられていきますよ……!」
崩れた花の下から、ツルが動いた。
「……このままじゃ、消えてしまうわ」
「たぶん、大丈夫だ。頭を失っても、命令は終わってない」
形は崩れてきた……だが、残ったツルの先が敵の前脚を追う。
『まだ動く!』
『首ないのに追ってるのこわい』
『休む暇がない!』
『ボス同士の戦いみたいになってる』
巻きつかれる直前、オルトロスが跳んだ。
しかし、後ろ脚が花の胴へ触れた。
姿勢が崩れ、巨体が傾き、倒れる。
「ヴォアァ……」
振動が伝わり、足元まで大きく揺れた。
すぐに起き上がったが、呼吸が違う。
二つの口を大きく開け、荒く息を吐いている。
「……確実に体力を使わせたわ」
「これなら狙える。ニーナも魔法、当てられる」
「ありがとう……《長花竜》」
追い続けていたツルが、床の上で動きを止めた。
花とツルが枯れていく。
「……魔力が弱まっている。これぐらいなら、再生に使われる魔力の流れをほんの一瞬だけ弱められるわ」
「それをやってくれたら、随分タイミングが楽になる」
敵を見据えて、ニーナはつぶやいた。
「ニーナの新必殺技を試す時がきた」
「新必殺技ですか?」
「そう」
ニーナは胸を張って人差し指を立てた。
「その名も《月光閃》!」
ゴクリ……。
全員が息を呑む。
「作戦はこう。ニーナが魔法を準備する。ニーナがオッケーになる。リィンが魔力を弱める。ニーナが放つ。レンリが斬る。ののはカッコいいところを映す。以上」
「俺の役割、合わせるだけに聞こえるけど重要?」
「重要」
「……ずれると、また戻るわ」
「遅れたらカッコよく無くなる」
「重要な役回りですね」
「そう言われると……ハードルがあがってくるね……」
隙と判断したのか、オルトロスの爪が鉄の床をかいた。
今度は跳ばない。
二つの頭を並べ、俺たちへまっすぐ突っ込んでくる。
リィンの儀仗杖に祈力が集まり、ニーナが両手を構えた。
俺も《燻り火の剣》を握り直す。
「二つとも壊すよ。今度は確実に」
毎日暑くて倒れそうですが、皆様の応援で頑張っています。
是非是非、リアクション、評価、ブックマークなどよろしくお願いします!
先に言っておきます! ありがとうございます!




