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第23話 なんか風雲! タケツ城みたいだね!


 なんとなく神殿のような場所と地下水路が混ざっている感じ。


 そこを走っている。


 不穏だ。


「今走ってるのは、最深部へ続く地下水路です。ハァハァ……中央に水路、左右に細い足場。奥に、《深部放水路》らしい広い空間が見えます」


 足場は狭く、ところどころ結晶化していて、踏むたびに硬い音が返ってきた。


 前方には、《ハウンド》の三人。


 冴が先頭。ソーゴが盾を構えて道を開き、透が端末を見ながら足場を読む。動きに無駄がない。


 彼らはもう回収班の顔になっていた。


「実況できるなんてすごいよ乃々さん」


「のの、プロ根性」


「それでも《ハウンド》さんたちに追いつかないと……!」


 普通に走るだけでも体力的に大変なのに、実況までしている。


 これは根性というより、宝箱への執念に近い。


「正面を行く。ソーゴ、前」


「了解。前に出る」


「透、この先は?」


「足場、危険はない。浅い水たまりが三つ。不自然だ。何か潜っている」


 透が分析する。


「出ても押し通る」


 不敵に笑う冴。


「了解。正面突破だ」


「正面から行くんだね」


「迂回しない。それだけだ」


 冴の判断は速い。


 危険があるから止まる、ではない。


 危険ごと踏み抜いていく。俺たちとは進み方が違う。


「連理さん、私たちは?」


「同じ場所に突っ込む必要はないかな。上も見よう」


 あっちが力なら、こっちは別ルートだ。


 同じ土俵でソーゴの盾と競っても分が悪い。なら、こちらは宝箱から得たものを使う。


「前の水たまり、動いた」


「何かがたくさん出てきますよ!」


「ウォータースライムか」


 透の予想通り、水たまりから飛び出してきたのはスライム。


「止まるな」と冴。


「この程度」


 ソーゴの大盾が、ウォータースライムを押し潰していく。


 強い。


 力で、道を作っている。


 半透明のスライムが盾にぶつかり、ぐにゃりと潰れて左右へ散った。


 水路に落ちた個体はすぐ形を戻すが、ソーゴの足は止まらない。


 盾で押し、肩で受け、濡れた足場をそのまま踏み抜いていく。


「突破しています……! でも、スライムが盾にまとわりついています!」


「正面を追うと、こっちも足を取られるね」


「上、ある」


「乃々さん、フライで上を映せる? 水路の上、配管か足場が残ってないか見たい」


「分かりました。フライ、上昇。水路上を映してください」


『正面突破こわ』

『ウォータースライム嫌すぎる』

『《ハウンド》、力で行くのか』

『別ルート映ってるよー』

『あれ?』


 フライの映像が上へ跳ねた。


「む? あれは《監視員クラゲ》?」


『地下水路の正しいルートを通ってください」


 怪しい……。


 殿様のような服装……?


 変な服を着てサングラスをかけたクラゲ……それが壁際に佇んでいる。


 水晶化した壁の上。


 そこには古い配管のような足場が斜めに残っていた。


 崩れかけていて、そのままでは渡れない……けれど。


「ありました! 崩壊寸前の足場が壁の上に通っています。ただ、かなり崩れています」


「足を置ける場所が少しでもあるなら行ける。《刹那の種》を使おう」


「あっちが力ならこっちはアノマリー」


「駆け抜けよう!」


「はい……!」


 俺は袋に手を入れ、種を取り出した。


「《刹那の種》!」


 配管沿いに、ツルが走る。


 花が咲き、崩れた足場の隙間を埋めていく。


 花びら……綺麗だけれど、長持ちはしない。


 《刹那の種》は、迷っている時間をくれないんだ。


「咲きました! 上のルート、通れます!」


「先に行くよ!」


「はい!」


 後ろを振り向くと、乃々さんは高さに恐怖しているようだった。


「のの、がんばれー」


「落ちたくないー! 怖い! 綺麗! 助けて!」


 言いながら走っている。


 花の足場は柔らかい。


 踏むと沈む。けれど、沈みきる前に次へ移ればいい。


「火種ちゃん、足元を照らしてくれると助かる」


「ひー!」


 火種ちゃんの光が、花と配管の境目を照らしてくれる。


 それだけで、足を置く場所がかなり見やすくなった。


『別ルートきた』

『花の足場便利すぎる』

『それぞれ違うルート取りだな』

『これが宝箱アノマリー運用か』


 その時、監視員クラゲが謎のホースをもって……。


『正規ルートを通ってください』


 放水してきた。


「あっ! クラゲさん! 放水してきましたー!」


「タケツ城かな!?」


 言いながら、放水を避けて駆け抜ける。


「タケツ城ってなんですか!?」


 前は放水、後ろには消えていく花の足場。


 まずすぎる。


 しかし、それでもゴールは近づいている。


「《深部放水路》が見えます! 柱が並んでいて、ものすごく広いです!」


 花の足場を抜けた先、視界が一気に開けた。


 そこは、今までの地下水路とはまるで規模が違っていた。


 高い天井。ずらりと並ぶ太い円柱。


 プール施設というより、巨大な地下神殿か、都市の下に隠された放水施設だった。


 声を出せば、何度も遅れて返ってきそうな広さがある。


「下、《ハウンド》、見えるね」


「あっ……冴さんたちも抜けました! ウォータースライムを振り切っています。速いです……!」


 いつのまにか放水は止まっている。


 しかし、《刹那の種》はもう枯れる寸前だ。


「花、終わるよ」


「よし、降りる!」


 壁際からジャンプして着地。


 道の先、ソーゴが盾を振り切るのが見えた。


 スライムをまとわりつかせたまま、力で引き剥がしている。


「ソーゴさんが先に出ます。盾を構えています!」


「放水路への入口を塞ぐ気だね」


 ほぼ同時だ。


 放水路へ出る直前の通路でソーゴの盾が止まった。


 通路は狭い。


 その先には、柱の森みたいな巨大空間が広がっている。


「ここまでだ。最深部へ続く道は一つ……この先」


「譲る気はない、ってことだね」


「そうだ」


「連理さん……」


「乃々さん、下がっててね」


「退け」


「それはできないかな」


 ソーゴの盾が押し出される。


 俺はバールを振って、盾を狙った。


 が。


「……軽いな」


「軽いなら、そのまま通してくれると助かる」


「通さん」


 簡単に抑えられてしまう。


「銃」


 体勢を低くして突っ込んでくる冴。


 その両手に、黒い魔銃があった。


「レンリ、撃たれる」


 ニーナが魔力を溜めながら、立ちはだかった。


 しかし、冴は恐れずに二丁の魔銃をニーナに向けた。


「精霊。動けば撃つ」


「撃つなら、撃ち返す」


 ニーナの周囲に、白と青の結晶が浮かぶ。


 冴の銃口と、ニーナの結晶。


 ソーゴの盾と、俺のバール。


 狭い入口で、全部が止まった。


 流れるのはフライが映すチャットだけ。


『武器向け合った』

『ソーゴ盾でかすぎ』

『冴さん二丁魔法銃かよ』

『これ始まるぞ』

『乃々ちゃん下がって』


 空気が張り詰める。


 誰かが一歩でも間違えたら、撃つか撃たれるかになる。


 人間相手の怖さが、ここで一気に形になった。


「待ってください……奥の水面が!」


「班長、放水路側だ」


「何?」


 水の下に、長い影が走った。


 円柱の根本を抜けるように、ゆっくりと大きくうねっている。


「反応がでかい。下から上がってくる!」


 透の声が大きくなった。


「フライの映像でも、水面が膨らんでいます……! 《深部放水路》の奥です!」


『うおおおおお』

『なんだあれ』

『ボスか?』

『最深部じゃないのに? 珍しい』


 今まで向け合っていた意識が、同時に奥へ引っ張られる。


 柱が並ぶ巨大空間のさらに奥。


 広い水面が、大きく膨らんでいた。


「全員、あれを見るんだ」


「……来る」


「班長、中断だ」


 《ハウンド》たちが呟く。


「同感」と俺。


 冴が銃口を水面へ向け直す。


 ソーゴも盾の向きを変えた。


 さっきまで道を塞いでいた壁が、今度は俺たちを含めて前を守る形になる。


「最深部個体。放水路側から出る」


「影が……水の下に、巨大な影が見えます!」


「ひー!?」


『何か来る』

『でかすぎ』

『水面やばい』

『今それどころじゃない』


 ハイリザードマンとは大きさが違う。


 この巨大な放水路そのものを戦場にする相手だ。


「蛇?」


「ソーゴ、盾の準備を」


「了解」


「ニーナ、来たら合わせる」


「うん」


 水面が割れた。


 巨大な影が、青い水を押し上げる。


 乃々さんの声が、震えながらも名前を捉えた。


「《シーサーペント》……!」


「最深部へ行く前に、向こうから来たって感じかな」


 現れたのは白い竜のような生物だった。


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