第101話 帰ってきて……
管理機構のロビー。
俺たちを見つけ、千紘さんが手を振った。
乃々さんはカバンを抱え直し、俺の隣を歩く。
「おかえり。みんなすごいよ! 無事に戻ってこられたね」
「千紘さん、先に受け取ってほしいものがある。危険なアノマリーを持ち帰ったんだ。使ってはいないよ」
俺が名前を告げると、千紘さんは乃々さんのカバンへ目を向けた。
「なるほどね。中に入っているの?」
「はい。見つけた時から、広げずに持ってきました」
「分かった。そのまま持っていてね。受領の担当を呼ぶから、一緒に来て」
案内された部屋には、長い机と椅子が並んでいた。
俺たちは同じ側に座り、千紘さんが連絡を入れる。
乃々さんのカバンは、まだ膝の上だ。
「お待たせしました。日野枝連理さんですね」
ほどなく職員が入ってきた。
千紘さんから話を引き継ぎ、俺たちに向き直る。
「提出する品の真名は《降伏を禁じる白旗》……ということですね。未使用で間違いありませんか」
「間違いない。効果を試すために広げてもいない」
「効果は、どのように確認しましたか」
「ニーナが《宝具解放》で調べたんだ」
「あぁ、例の精霊さんですね」
「ニーナ、もう一度説明できる?」
ニーナは頷いて、白旗を見つめた。
「この白旗の効果。戦っている両方に届く。逃げることも、戦いをやめることもできなくなる。つまり、どんな状況でも戦いが継続される」
職員はニーナの説明を端末へ入力し、続いて発見した場所を尋ねた。
それについては乃々さんが答えた。
「よくわからない場所でした。見たことのない風景で、違う場所に来たみたいでした。木箱を開けたら、たたまれた旗と、組み立てる棒が入っていました」
箱の光がなかったことまで話すと、千紘さんが口をはさむ。
「その間は配信にのってなかったよね」
「そうなんです。その区間はノイズが出ていて、映像も音声も正常に残っていません。私が見たことなら説明できます。ただ、撮れなくなった原因は分かりません」
不明な状況や崩れた教会の周りのこと、箱の様子を話していく乃々さん。
身振り手振り……道の曲がり方まで指で示した。
「運ぶ間に、何か変化はありましたか?」
「……わたしたちが見ていた限りでは、何も。布を広げたり、棒を組み立てたりもしなかったわ」
リィンもまた、真剣な表情で職員の目を見て答えた。
一瞬の静寂。
「連理さん。使用しなかった理由も聞かせてください」
「逃げることも、相手を見逃すこともできなくなる。そんなの危険すぎるよ。勝つために、そこまで必要だとは思わないし、命を目的にしているような……何か嫌な感覚があった」
白旗を手に入れたあとも、危ない戦いはあった。
でも、あれを使う相談はしなかった。
誰かが退きたいと思った時に、この旗のせいで退けなくなる。
それを承知で使うのは嫌だった。
「俺たちだけで、誰にも使われないように保管するのも難しい。だから、帰ったら提出すると決めたんだ」
「慧眼だね」と千紘さん。
続けて職員は緊張した面持ちで口を開いた。
「承知しました。こちらで預かります。たたまれた状態のまま渡していただけますか」
乃々さんが立ち上がり、カバンを開く。
俺もそばで中身を確かめ、白い布と棒を取り出すのを手伝った。
白旗は、初めて見た時と変わらない。
職員は布を開かず、棒と一緒に受け取った。
受領する品の名前と数を読み上げ、俺たちの返事を確かめる。
「白旗一枚と、その付属品。受領しました。伺った入手状況と、判明している効果も記録します」
受領の控えを受け取ってからカバンを閉じ、肩ひもを外して椅子の脇へ下ろす乃々さん。
ニーナが少し横へ寄った。
「のの、こっち。腕も休めていいよ」
「ありがとうございます。……ずっと抱えていたので、疲れました」
「そうだね。ちょっと疲れた気はあるかな」
「……ちょっと? レンリ、ちょっとじゃないと思うけれど」
乃々さんが席に戻り、膝の上で指を伸ばす。
俺も背もたれに身体を預けた。
「ありがとうございます。連理さん。この件は報告させて頂きますね」
職員が白旗を持って部屋を出る。
千紘さんは少し微笑んでから、俺たちを見つめた。
「連理くんたちが、危険だと分かって使わなかったことも、提出を決めたことも、今回の任務の報告に残すよ」
「使わなかったことも、成果になるの?」
「なるよ。入手した品をどう扱ったかは、探索の結果と切り離せないから」
俺だけでなく隣の三人にも目を向ける千紘さん。
「四人が判断して、持ち帰ってくれた。その後の管理は、私たちが引き受ける。報告も、四人の対応としてまとめるね」
「預かってもらえて助かった。乃々さんに、いつまでも持ち歩いてもらうわけにはいかなかったから」
「私も、提出までできて安心しました。知らないまま誰かに奪われたら、と思うと、眠れなくなりそうでしたから」
「お疲れさま、乃々ちゃん。ちゃんと受け取ったからね」
乃々さんが千紘さんに頭を下げる。
珍しいものを引き当てたと言われることには、少し慣れてきた。
でも、そのあとに俺たちがどうしたかを見てもらえるのは、嬉しかった。
「千紘さん、これからのことも相談できる? 俺たちは、また四人で探索を続けたい」
言いながら、リィンを見る。
彼女は俺を見返してから、千紘さんへ顔を向けた。
「……わたしもみんなと一緒に続けていきたいわ。この世界で知らないことは多いけれど、一緒に見ていきたいの」
千紘さんはリィンの言葉を聞き終えて、微笑んだ。
「聞かせてくれてありがとう。今回の結果を踏まえて、四人がこれから活動していくための話もしたいの。今、聞いてもらえる?」
「俺は聞きたい。みんなも、時間は大丈夫?」
全員が千紘さんをまっすぐに見る。
千紘さんが新しい資料を開く。
俺も椅子を机に寄せた。
白旗の提出は終わった。
今度は、俺たちが四人で探索を続けるための話を聞きたい。
すみません……労災で書けず、遅くなりました!読者の皆様ありがとうございます!申し訳ありません!




