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食材集め

「勝負?」

「そう」


 三人でレオンを追い掛け回していたところを呼び止められ、話を聞けばこんなことを提案をされた。それは採った食材数の平均で勝ち負けを決めるというものだ。


「この勝負なら安全」

「それにせっかくこんなところに来たんだから現地の食材を調達して食べたいだろ?」

「なるほど……」


 確かにせっかくバカンスに来たのに怪我して楽しめませんでしたではおもしろくない。少し物足りなさは残るがレオンをぼこぼこにできるならこの際それでもいいか。恭也たちを見ればこいつらも納得したのだろう、軽く頷いてくる。


「よし、のった!」

「俺は嫌なんだが」

「レオン、ここは幸せの対価と思って諦めなさい」

「はぁ!? だ、誰が喜んでるって!?」

「そこまで言ってないのじゃが……」

「チーム分けは優臣、恭也、エクスの三人とレオン、テオの二人でいいよな?」

「はい」


 サクサクと話が決まりシルティから釣竿を三本と餌の入った袋を渡される。


「私たちも別の場所で食材を採るからそうねぇ……二時間後に一回集合しましょ」



           ☆           



「よいしょー!」


 リールを少しずつ巻き、そして最後に勢いよく巻き上げれば大きく平たい魚が砂浜に上がった。ヒラメなどに似ているが左右どちらかに目が寄っていないから別物だろう。


「おー」


 隣で砂浜にパラソルをたててその下に寝ころび、覇気のない声をあげながら拍手をしているのは恭也。さらにその隣ではエクスがサングラスをかけて魚がかかるのを待っている。


「これで三匹目か」

「そうだね……それでお前は何してるんだ?」

「休憩」

「さっきからずっとじゃねぇか!」


 この男開始早々に一匹釣ってから飽きたと言って寝ころんでいるのだ。逆にエクスは自前の釣竿を一本用意して現在八匹釣っている。


「仕方ないだろ、かかるまで待つことしかできないんだから」

「まぁ確かに」


 開始からそろそろ一時間ほどになるが待ち時間が多くて俺も少し飽きてきている。うーん、何か他の方法がないだろうか……


「あっ」

「どうした?」

「俺、海潜ってくる」

「?」


 何言ってんだコイツという顔をする恭也。お前だけにはその顔をされたくはなかったんだけどなぁ……


「海潜って貝とかを採ろうかなと」

「いやいや、これ釣り勝負だろ?」

「いいや、メアは採った食材の平均と言ってた。それなら釣り勝負じゃないはずだ」

「なるほど……お前ワルだなぁ」

「ふっふっふ、それほどでも」

「なんだ海に潜るのか? それならこれを貸すぞ」


 エクスから短い槍の形の魔術具を手渡される。なんだこれ?


「それに魔力を流せば先端から麻痺効果のある魔法が出るから使え」

「それなら俺はお手製のポーションだ。これを飲めば水中で呼吸することも話すこともできる代物だ。効果時間は二時間だ」

「二人ともありがとう。……ところで恭也はなんでこのポーションを持ってるの?」

「えっ、いや、別に俺が泳げないから作ったとかいうわけじゃないぞ!?」

「「……」」


 こいつ泳げなかったのか……


「と、とにかくこの辺の海は流れもほとんどないし安全だとシルティから事前に聞いてるがそれでも気を付けろよ」

「おう、それじゃあ行ってくるよ」



           ☆           



「それじゃあテオ、早速俺に水中呼吸の魔法をかけてくれ」

「えっ」


 ボートで沖に出て早々、そんなことを言った俺にテオが目を丸くする。


「これは食材をいかに集められるかの勝負で釣り勝負じゃないからな」

「まぁそれはそう……なのかな?」

「だろ? それじゃあ頼む」


 一応納得したのか俺に魔法をかけるテオ。あいつらのことだ、どうせこの勝負を釣り勝負だと思い込んでいるに違いない。くっくっく、これでこの勝負は俺たちの勝ちだな。散々追いかけられた鬱憤はこの勝負に勝って晴らすとするか。

 ……あー、でも合流した時にこれは釣り勝負じゃないのかと突っかかられても面倒だな。それなら俺は言い訳ができるよう大きめの魚だけを狙うとするか。


「じゃ行ってくる」

「気を付けなよ」



           ☆           



「あったあった」


 ナイフを使って岩に張り付いていた貝を使ってはがす。潜って三十分ほどになるが小さいサイズのマジックボックスの中は順調に増えてきている。


「よしよし。さて次は――」


 どこに行こうかなと見回してあるものと目があった。それは


「なんでお前ここにいるんだよ!」

「それはこっちのセリフなんだけど!?」


 海に潜っているレオンだ。もしかしてこいつ気付いたのか!?


「クソッ、お前らは絶対に気付かないと思ったんだがな」

「なんだとこの野郎!」


 こいつ絶対にバカにしてやがっただろ! って


「うわ!?」


 唐突に小さな魚の群れがすごい速さで横を通りぬけていった。その速さはまるで何かから逃れるような……


「おい優臣! あれを見ろ!」

「ん? はぁああああ!?」


 レオンに言われた方を見れば俺たちより大きい魚がもの凄い勢いで迫って来ていた。

 急いで障壁を展開すると魚がぶつかってガンという音が響いた。しかしその魚はかなりの衝撃を頭に受けたはずなのにそのまま通り抜けて再び突進してきた。


「くらってろ!」


 エクスから渡された魔術具で魚に魔法を放つがまったく効いた様子はない。これ、もしかして小型にしか効かないのか!?

 再び障壁にぶつかり、そしてまた横を通り抜けていく。


「おい、優臣! 動きが速すぎてこいつと水中で戦うのは不利だ。一旦砂浜に戻るぞ! 全力で泳いでぶつかられそうになったらその度に障壁で防げ!」

「了解!」




「はぁ……はぁ……」

「やれやれ」


 なんとかあの大きな魚から逃げ切り砂浜に戻り一息つく。


「浅い所にいて良かった……」

「そうだな、だが休む暇はないぞ。すぐに第二ラウンドが始まるからな」

「えっ?」


 レオンの言葉に疑問を持つと同時に海からザバンッという音とともに何かが飛び出した。ってあれはまさか!?


「キュィイイイイイ!」

「やっぱりお前かよ!」


 海から飛び出したのは今の今まで俺たちに突進を繰り返していたあの魚だった。というか


「ねぇ! あいつ飛んでるんだけど!?」

「そういうやつだからな」

「なんか鳴いてるんだけど!?」

「そういうやつだからな」

「なるほど分かった! そういうやつなんだな!」


 そういうやつの一言ですんでしまうとは流石異世界だ。この世界では普通のことだと覚えておくことにしよう。


「来るぞ!」


 体を大きく逸らした魚は水中よりは劣るものの、それでもかなりの速さで突進してきた。


「優臣! 逃がすなよ!」

「分かってるよ!」


 衝突の勢いで少し後ろへと後ずさらせられたが障壁で受けきる。そして何度目となるか、また横をすり抜けようとしたところを障壁を解除して尾びれをガシッと掴んだ。


「早く!」


 ぶつかった衝撃でスピードはかなり落ちたがそれでも俺たちより大きな魚だ。なんとか逃れようとかなりのパワーで暴れ始める。


「よくやった!」


 籠手を装備したレオンが勢いよく駆け寄ってくる。そして


「くたばれやぁああ!」


 暴れる魚の脳天へタイミングよく思いっきり拳を叩きこんだ。


「キュ……キュィィィ……」

「はぁ……はぁ……やったか」


 目の前の大きな魚はか細い鳴き声をあげ、ピチピチと跳ねる動きを緩やかに止めていった。


「あぁ疲れた。ねぇ、こいつなんなの?」

「こいつはイーバーンといって石のように固い頭で突進して敵に突進を繰り返して、弱ったところを捕食する肉食魚だ。ほれ」


 レオンがイーバーンの頭を軽く叩くとコンコンと音が鳴る。そして口を開けば小さく鋭い歯がたくさん生えていた。


「面倒なやつだったね」

「そうだな」


 苦々しい顔をしながら互いに顔を見合わせる。まさかバカンスに来てこんな奴と戦うことになるとは思いもしなかった。


「今何時だ?」

「今は……あっ、もう集合する時間だね」

「そうか……なぁ、お前のマジックボックスにこいつ入るか?」

「一番小さいサイズだから無理だね。そっちは?」

「俺も無理だな」

「「……」」

「担いで持って帰るか」

「だね」


 短い沈黙の後、ため息をつきながら疲れた体に鞭打ってレオンと協力してイーバーンを担ぐ。まさか最後の最後まで苦労をかけさせられるなんて……

 最後まで面倒なモンスターだったとして、俺はこいつの存在を忘れることは決してないだろう。

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