表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/44

1-6 テンプレ君生産ギルドを訪れる

 無駄な時間と魔力を取られたものの目的の生産区画へたどり着く。普通、製造の現場に一般人がアポ無しで訪問しても門前払いになるのが関の山だろう。そんな訳で俺は生産ギルドへ来たのだ。生産ギルドもまた商業ギルドと同じ様に役所的な雰囲気である、嫌な予感しかしないね。


「すみません、少しお話をお伺いできませんか?」


「んっ? どうしました。」


「いや、ギルドも無い様な田舎から出てきたもので。勝手が分からず取り敢えずお話しをお伺いできればと思いまして。」


「そうでしたか、しかしギルドが無い様な場所とは随分遠い所からいらっしゃいましたね。」


「はあ、まあそうですね。」


 此処は曖昧に応えておく、遠くから来たのは間違いないしな。その受付の方はとても丁寧にこの国の製造業とギルドについて教えてくれた。


 この国では生産もやはり許可制であるとのことだ。商業権と同様に国が発行する製造権が必要となる。


 ただ全ての生産が許可制というわけではないとの事。許可制となっているのは武器・防具や馬車・馬具といった戦いの道具になる物が主だ。隠れて武力をつけて反乱起こすといったことを防止する目的の様だ。その権利は工房ではなく人に帰属し貸与や譲渡は不可。従って工房で製造された物は全て有権者名義で市場に出される。ただし、権利の取得は比較的容易で有権者の紹介状と製造物の献上による審査が通れば取得できる。その審査も一流の目利きが集る審査委員会が行うため基本的には実力主義、腕が良ければ権利を取得して独立するなり工房を継ぐなりをする。


 もちろん製造権無しでの製造は違法となる。バレればかなり厳しい罰を受ける事になる。


 他の製造業は比較的自由で工房ごとにそれぞれの物の製造を行っている。


 製造権とは逆に生産ギルドへの加盟は工房毎なため個人での加盟は受け付けていない。加盟するならば工房を立ち上げる必要があるそうだ。ちなみに入会金は300Z、年会費は50Z。

 ただハルムートの場合区画が決まっているため生産区画に工房を構える必要があるが生産区画に工房を構えるためにもやはり紹介状がいるのでハルムートにおいての新規参入はかなり難しいとの事。


 しかし商業区画でも自家製の食料品・日用品の製造販売は行われておりそちらの規制まではされていないのが現実との事。区画による規制は所謂工業製品が主となっている。また、そういった製造者は工房ではないためギルドへの加入はできないそうだ。


 ギルドの役割は生産上のトラブルの仲介や違法の取締りは勿論、献上品の審査の手伝いなど。何より重要な役割は原料の一括仕入れによるコストカットと安定供給を行っている。原料の仕入れを領主や貴族、商業ギルド・冒険者ギルドとまとめて契約している。個人の仕入れルートもある様だが質は上がるが割高となる。そしてそれらの物をギルド員へギルド員価格で下ろしている。


 なるほど、ハルムートの街でなければ比較的容易に所属できるかもしれない。所属するメリットも結構大きい、全ては神の手の能力次第かな。何にせよこのハルムートでは難しい事なので後々考えればいいか。俺は田舎者のフリをしたまま図々しいお願いをして見る。


「なるほど、よく分かりました。本当にありがとうございます。ところでギルドに加盟した際に下ろしていただける物の品質を見てみたいのですが少量を割高でも構わないのでサンプルとして頂戴できませんでしょうか?」


「サンプルですか、ちょっと難しいかもしれませんね。ためしに上へ確認してまいりますので少々お待ちいただけますか?」


「無理を言って申し訳ございません。幾らでもお待ちいたしますので前向きにご検討願います。」


 そのまま受付の職員は奥へと下がって行って上司に確認を行っている様だ。上司もまた判断がつかないのかそのまま2階へと上がって行った。小一時間ほど待つとその上司がやって来て話し始める。


「大変お待たせして申し訳ありませんでした。あまり例の無いご要望だったので確認に手間取ってしまいました。実は他国の間者ではないかとの声もあり大変申し訳ないのですが身分の照会を行いたいので身分証のご提示を願えませんか?」


 むっ、ヤバイ。なんか大事になっている? 身分証なんて良くわかんないから詳しく見てないぞ。でも此処で躊躇したらかなり不味い状況に陥りそうだし出すしかないだろう、南無三! 


 上司は出された身分証を確認するも首をかしげる。


「ちょっとお預かりさせていただいてもよろしいですか?」


「どうぞ、十分にご確認ください。」


 俺の身分証を持って再び上司は2階へと上がって行った。おい、大丈夫か? このまま拘束されて捕まったりしないよな、緊張の面持ちで待っていると上司が下りてきた。


「身分証ありがとうございました。今回の申し出ですが、少量ずつならばご要望に添えるかと思います。但し、価格は市場価格で別途手数料を頂戴いたします。あとは原料のままの転売と国外への持ち出しを禁じます。その内容で誓約書へとサインを頂戴いたしますがいかがでしょうか?」


「ありがとうございます、全く問題ございません。」


「それでご要望の品物はどういったものでしょうか?」


「そうですね、なるべく多くの種類の鉱石及び金属、革及び布・糸に木材などいただければ。何が作れるかの確認がしたいので種類は可能な限り多い方が助かります、むしろ量は本当に少なくて構いませんので。後、総量が結構嵩張るなら運搬用の荷車などお借りできると助かります。」


「分りました、ご用意させていただきます。しばらくお待ちください。」


 そう言って上司は再び奥へと下がっていった。上手く話がまとまって良かった、本気で捕まるんじゃないかと思った。身分証を作ってくれたセルフィーネ様に感謝だな、何が書いてあるかちゃんと確認しとかないといざという時困るな。


 しばらく待つと最初の受付の人がやって来た。


「表に荷物のご用意ができましたのでご確認いただけますか?」


「分りました、すぐに伺います。」


 表へ出ると荷車にさまざまな原料が満載されていた。確認していくと本当に少量ずつだがさまざまなものが用意されておりファンタジーな素材もチラホラ見える。だが残念ながらミスリルは無い、思いきって尋ねてみる。


「申し訳ないのですがミスリルはありませんか? ほんの欠片でも構いませんので。」


「ミスリルですか? 今あるものでもかなりの額になりますがさらに高額になってしまいますよ?」


「構いません、希少金属や不明な鉱石などもあればそれも欠片程度で構わないのでご用意いただけると助かります。」


「分りました、少しお待ちください。」


 少し待つと職員は手提げ程度の小さな袋を持ってきた。


「こちらが希少金属や不明な鉱石です。加工方法や特性が不明なものが多くもしわかるのであれば情報のご提供をお願いできませんか? 情報によっては報奨金も御用意させていただきますので。」


「分りました、お約束いたしましょう。ご協力できれば幸いなのですが。」


 今回の処置はつまり未知の技術への投資という意味合いも大きい様だ。俺が誰も知らない田舎からやって来て生産ギルドの情報を聞いてきた。つまり生産に携わる者であると思われた。さらにサンプルを求めるという事はもしかしたらそこには未知の知識や秘匿された技術があるのではないか、そう考えたのかもしれない。いずれにせよ歩き回らずに材料が集まったのだから非常助かった。こんなよくわからん男の申し出など戯言と一蹴されるのが普通だが、良くもまあ許可してくれたものだ。


「では精算なのですが今回のサンプル品、少量ずつとはいえ高額な物も含まれており総額500Z、手数料で25Zと高額になってしまいましたが大丈夫ですか?」


「大丈夫です。むしろ格別の配慮をいただいた上荷車までお借りして申し訳ありません。」


「分りました、もし新たな発見があれば報奨金ははずませていただきますので。それでは誓約書にサインを頂戴いたします。」


 俺は書類にひととおり目を通し問題無い事を確認の上サインをした。


 その後荷車を引いて生産ギルドを後にしようとするが、かなりの重さになっており引いて歩くのがかなりキツイ。身体に多めの魔力を循環させ身体能力を上げ荷車を引くとかなり楽になった、そのまま物陰へと隠れると荷物を全てアイテムボックスへ納めていく。


 その場で時間潰しがてら休憩していると陽も大分暮れてきた。そろそろかなと思い再び荷車を引き生産ギルドを訪れ荷車を返却して礼をする。これでようやく宿へ帰れる、いや今日は一日中歩き回って本当に良く働いたな、さすがに疲れたわ。そう思いながら帰途へと着いた。





 宿に着く頃にはもう夕闇が辺りを覆い薄暗くなっていた。


「ただいま戻りました。」


「おかえりなさい、今日は大分遅くまでお出かけでしたのね。」


「ええ、おかげでヘトヘトです。お湯いただけますか? 後、身体を清めたらすぐ降りてきますので食事とワインも用意しておいていただけると助かります。」


「分かりました、少しお待ちくださいね。」


 奥さんは柔らかい笑みを残してお湯を準備しに下がり、少しするとお湯を持って戻ってきた。俺はお湯をもらい部屋へと戻りタライの湯で身体を清めた。しかしさすがにそろそろ風呂に入りたいな。石鹸も無いし髭剃りも無い。テンプレだと石鹸作ってウッハウハなんだけどそんな簡単にいくかねぇ、獣脂からだとかなり匂いもキツイみたいだし作るところ無いよな。まあ今日は疲れた、おいおい考えよう。


 使い終わった湯を持って1階へおりると奥さんが待っていてくれた様で使い終わった湯を渡した。その後食堂へ入ると既に食事の用意が整っているため、早速夕食を食べ始める。今晩はグラタンにコンソメスープと玉ねぎのオーブン焼き。相変わらず手の込んだ料理だ、そして美味い。素材の価格は決して高くないが本当に腕がいい。


 主人とも少々言葉を交わすが疲れていたため早々に切り上げ追加の酒代と先ほどの湯代を支払い部屋へ戻る。硬いベッドに横になりこいつも何とかしないと何て考えているうちに今日も深い眠りに着く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ