1-2 テンプレ君街へ到着する
早速街へ向かうために歩きだす、そもそもこんな妖しげな森になど用は無い。いくら人に見られたらマズイとはいえこんなところに送らんでも良かろうに。それに一体今は何時ぐらいなんだ? 太陽の位置から察するにまだ午前中だとは思うがこんな所からちゃんと街まで辿り着けるんだろうか。
ちなみにロータスも1日24時間は変わらないらしい。1月は30日で1週間は光・闇・火・水・風・土の6日、元・人・魔・獣・精霊の5週からなるとの事。それが12カ月で1年間となり今は6月で元の世界でいう初夏ぐらいらしい、今回送ってもらったところは年間の寒暖差は比較的少なく夏も冬もそんなに厳しくはならないとの事だ。確かに初夏とはいえそんなに暑くはないし爽やかな風が吹いている。
なんにせよ道なんて見当たらないが取り敢えず丘に登ればなんか見えてくるだろう。
ハァハァゼイゼイ言いながらなんとか丘の頂上にたどり着く。能力が補正されているとはいえ普段の運動不足が祟ってか相当疲れた。そもそも地方都市の移動手段は車がメインだ、長距離を歩くことなんてそうそうない。田舎の人は足腰しっかりしているなんていうのは誤ったイメージだからな、都会の人の方がよっぽど歩く事に慣れている。ちょっとコンビニへ行くにしても車を使うんだからそりゃあ運動不足にもなるよ。
息も絶え絶えになりながら登りきった先に見えた光景は本当美しかった。丘の麓の平野には麦畑が広がりその中を川が流れている。その川沿いに城壁に囲まれたかなり大きな街が見える。
いかにもヨーロッパ的な田園風景に俺は目を細めた。そういやゆっくり観光なんてした事なかったな。仕事柄国内はもちろん海外にも稀に出張する機会はあったが、駅・空港・ホテル・オフィスを行き交うだけの仕事漬けで観光する時間なんてなかった。プライベートでも俺の友好関係には既婚者が多く旅行に誘う人も誘ってくれる人もいなかった。まぁ男同志の付き合いなんて実際のところ飲みに行こうなんて話ばっかりで旅行に行こうなんてのは現実逃避的な与太話でしか出ないもんだけどな。基本的に旅行は家族か女と行くものであり女っ気のない俺は必然的に旅行なんて物には縁遠かった訳だ。
しかし、いざこうして美しい景色を前にしてみるともったいないことをしていたのかもしれない。出張の帰りなど、すぐに帰らず時間をとってゆっくり風景や名物を見て歩くなんていうのも悪くなかったんじゃなかろうか。
異世界転生なんてもんしてしまったが、せっかくだし一人でゆっくり自由気ままな観光旅行も悪くない……いやいや違う。俺はチーレム目指すんじゃなかったのか? まだ見ぬチーレムメイトがいるじゃないか。イチャラブ異世界旅行への期待と妄想に股間……もとい胸を膨らませ丘を下りて街へ続く街道を目指した。
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街道には街へ向かう馬車や旅装に身を包んだ人たちが散見された。容姿はテンプレ通り元の世界でいう白人系の西洋人風。ただ体の作りは西洋人にしては小柄で平均すると170〜175㎝ぐらいか? 食糧事情の関係なのかロータスの人族はそうなのかはよくわからん。何にせよ俺の身長とそう変わらんので目立たなくていい。
皆旅慣れているためか歩調が早く俺はどんどん追い越されていく。流れに乗れず道の端をプラプラと歩いていると後ろから来た馬車に乗った商人風のおっさんに話しかけられた。
「兄さん、街へ行くんじゃないのかい? そんなにゆっくりしていると街の門が閉まっちまうぞ。」
「えっ!?」
「何をそんなに驚いているんだ、日が沈んだら街の門は閉まるもんだろう。いくらこの時期とはいえもう日も暮れはじめるし、ここからだと結構ギリギリだぞ。」
そう教えてくれたおっさんもイソイソと俺を追い越して去って行った。
なんだと、門が閉まる? 野宿なんて真っ平ご免だ。俺は慌てて歩調を早め焦りながら街へ急いだ。
急いだ甲斐もありなんとか日が沈む前に街へたどり着くことができた。あのおっさんに教えてもらえなかったら完全にアウトだ。閉門ギリギリとあって受付にはあまり人はおらず待つ事もなく入街手続きをする事ができる様だ。
「ようこそハルムートへ、身分証をご提示願えますか?」
どうやらこの街はハルムートというらしい、俺は鞄からセルフィーネ様にもらった身分証を取り出し提示した。
「はいありがとうございます。今回の入街目的をお聞かせ願いますか?」
何? 入街目的? そんな事聞かれるとは予想外だ、何にも考えてなかった。うーんここは適当に答えておこう。
「えーと、田舎から夢を叶えるために出て参りました。」
「では移住目的でよろしいでしょうか? 移住目的であれば前に住んでいた所から移住許可証が発行されていると思いますのでその移住許可証と人頭税の150Zをご用意願えますか?」
「いやっ、まだこの街に住むかどうかまでは決めてないです。」
「そうですか、では短期滞在ですね。短期滞在の場合は入街税の10Zを納付いただきます。ただし、期限は1ヶ月でそれを過ぎると不法滞在ですのでご注意ください。」
俺は言われた通り金貨1枚を納付し受付を済ませた。
ハルムートの街へ入るとすっかり日も暮れ宵の口の賑わいを見せていた。街の入り口は宿場町となっており日が落ちてなお活気にあふれている。
しかし失敗したな、これだけ宿屋があるとどの宿にしたらいいのか判断がつかない。受付の人にでもお勧めを聞いておけばよかった。後悔しても仕方ないので俺は神の目を駆使しながら宿探しをはじめる。キョロキョロと周りを見ながら歩いていると一軒の宿らしき建物から男が文字通り転がり出てきた。
「二度と来るんじゃねぇ!」
そう怒声をあげながら一人の体格のいい義足の男が出てきて転がってきた男に木桶を投げつけた。
「閑古鳥が鳴いてる様だから少しでも助けになればと思って声かけてやったんじゃねぇか。言われなくても二度と来るかよ。」
木桶をぶつけられた男はそう捨て台詞を吐いて逃げる様に去って行った。
俺はどうしたものかと悩みながらも義足の男に声をかけた。
「すみません。」
「なんだ!」
「なんだと言われても……、客ですが。」
「おうおうすまねぇ。お客さんか、さあさあ入ってくれ。」
俺がなぜ悩んでまでこんな厄介ごとに巻き込まれそうな男に声をかけたか、実はあのやり取りの最中この男を鑑定した結果、なんと料理技能Level6をもっていたのだ。どうせ食うなら美味いものが食いたい、料理技能のLevelからいってもこの男の宿ならば間違いなく美味いものが食えるはずだ。そんな思惑から俺はこの男に声をかけたのだ。
宿に入ると1階は受付と食堂になっており広くはないがわりと小綺麗で清潔感を感じられる。
「みっともないとこ見せちまって申し訳ない、ようこそ木漏れ日亭へ。料金は一泊相部屋で1Z、一人部屋なら3Zだ。料理をつけるなら1食につき1Z、安くはないが味にはかなり自信がある。それから湯がいるなら200Rだ。」
「じゃあ一人部屋でとりあえず1週間、料理は朝晩の2食ずつつけてくけてください。あと湯をもらえますか?」
俺は料金の金貨2枚銀貨4枚と湯代の大銅貨2枚を支払う。
「こいつはありがたい、部屋は2階の一番奥だ。湯は後で持っていくよ、後トイレはそこの裏口を出た所にある。」
「よろしく頼みます。」
そう言うと俺は宿帳に記帳し部屋へ向かった。部屋へ着いたのはいいものの灯りがなく非常に暗い。さあどうしたものかと考えていると宿屋の主人が湯を持ってやってきた。
「んっ、どうした? 灯りもつけねえで。」
「いや灯りって、どこにあるんですか?」
「おいおい、そこに蓄光石があるだろう。」
そう言うと主人はテーブルの上のソフトボール位の大きさの丸い石に手をのせた、するとその丸い石は淡く光を放ち始めた。
「おおっ、すごい。どうなっているんですか?」
「なんだお客さん、蓄光石も知らねえのか? こいつに魔力を流せば光るんだ。」
さすがファンタジー、随分ECOな照明だ。しかし魔力か、随分生活に密着してるな。早く取り扱いを覚えないと。
「すみません、大分田舎から出てきたものですから。やはり都会は便利なものが多いですね。」
驚きながらもとりあえず当たり障りのない返事で返した。
「そうか、蓄光石も無いような田舎から来たのか。随分遠いとこから旅をしてきたんだな。ところで飯はどうする?」
「もう準備していただいて構いませんよ。湯で身体を清めたらすぐに伺いますから。」
「そうかい、じゃあ腕によりをかけて用意しておくよ。なんか希望はあるかい?」
「おすすめで構いません。期待しておきます。」
「ああ、期待は裏切らんよ。」
そう言い残し主人は部屋を出て行った。
明るくなった部屋をあらためて見まわすと部屋はそんなに広くはないが質素ながらも掃除が行き届いており不快感はあまりない。ただベッドだけは残念だ、木の板に薄い綿の布団がひいてありこれまた薄い羊毛の毛布がたたまれて準備してある程度だ。
湯で身体を洗いさっぱりした後使い終わった湯の入ったタライを持って下におりると純朴な女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、使い終わったお湯はこちらでいただきます。お食事はご用意させていただいておりますので食堂へどうぞ。」
タライを渡し食堂へ入るといい匂いが漂っており強烈な空腹感に見舞われた。ハルムートへ来る途中干し肉を齧ったりはしていたが気を張っていたせいかそこまでの空腹は感じていなかった。しかし宿も決まり精神的に落ち着いたおかげで身体の欲求が素直に感じられる様になったのだろう。
椅子へと腰を下ろすと先程の女性が料理を運んできてくれた。出された料理は野菜のスープにラムチョップとパンだった。俺は追加でエールを頼み早速ラムチョップへ噛り付いた。
「うん、美味い。」
味付けはシンプルながら絶妙な塩加減と香草の香りがさらに食欲を増進させいくらでも食べられる。ラム独特の臭みも嫌みにならない程度に風味よく整えられている。スープは野菜の旨味がしっかりと引き出され優しい味わいに纏められていた。やはり料理技能Level6は伊達じゃない、こんなに美味い料理は元の世界でもそうそう食べられない。一人料理に舌鼓を打っていると主人がエールを持ってやってきた。
「どうだい自慢の料理は?」
「大変美味しくて驚いています。」
俺は感じたままの感想を伝えお代わりを追加注文した。
「お客さん田舎から出てきたみたいだが随分舌が肥えてるね、言葉遣いも丁寧だしいいとこのお坊ちゃんかなんかか?」
俺は設定を考えるのも面倒なのでその様なものだと肯定しておいて持ってきてくれたエールを飲んだ。んっ? 不味い。緩い上に気の抜けた様な発泡、雑味や酸味が酷く澱も混じり口当たりも悪い。元の世界のビールとは比べ物にならない。仕方なくワインを頼んだがこちらも決してうまくはないがエールと比べれば幾らかマシでまだ飲めるものだった。
俺は心ゆくまで飲み食いをした後追加の料金を支払い部屋へと戻った。部屋へ戻ると疲れがどっと出てきたのか強い睡魔に見舞われベッドに倒れこむ様に横になりそのまま意識を手放した。




