2-11 テンプレ君ラストピースGETだぜ
ウンウンと唸りながら計画書を作っていると部屋の扉をノックされた。
「ユーゴ兄さんお客さんだよ、バンジャマンさんっていう人みたい。」
来たかラストピース、思ったより早かったな。
「わかった、今行くよ。丁重におもてなししておいてくれ。」
俺はバンジャマンさん向けに作っていた資料をまとめ食堂へと降りていく。
食堂には疲れた顔をしたバンジャマンさんが待っていた。
「バンジャマンさん、ようこそおいでくださいました。お待たせしてしまって申し訳ありませんでした、ちょっと資料をまとめていたもので。」
「ユーゴさん、昨日は本当にありがとうございました。昨日ご提案みんなで話し合ってよく考えてきました。」
「得体の知れない男の急な申し出をこんなに早急にご検討いただきありがとうございます。大分お疲れのお顔をされてますがその分だとよくお休みいただけなかったのではないですか?」
「ええまあ、ですが今後のみんなの運命がかかった事ですのでそんな事を言っている場合ではありませんから。」
「そうですか、それで本日いらっしゃったという事は意見がまとまったと考えてよろしいですか?」
「はい、そう考えていただいて結構です。お申し出に対する回答をお持ちしました。」
「それでは早速お伺いしてもよろしいですか?」
「今回のお申し出、人材派遣業の立ち上げはお受けしたいと思いますがもう一つのお申し出は仕事内容がわからない以上お受けするわけにはまいりません。」
「ふふっ、バンジャマンさん。やはりあなたは素晴らしい方だ、この状況でも金に目をくらませる事なく実利は取りに来られた。」
「いえ、私の判断ではないのです。今回のお申し出に対して私達の間でも意見がかなり別れました。正直申し上げて私は現実と理想の間で答えを決めかねておりました、コレットの事を考えれば治療の目処が立ちそうに無いこの街を見切り王都へ向かい教会による神の奇跡に一縷の望みをかけたいという思いもあります。ですが現実にはそこまでの資金はすでにありません、では私への仕事のみお受けしてそれを元にしてはなどとも考えました。ですが私への仕事は内容がわからない以上私の意に沿わない仕事である可能性も高い。そんな仕事をしたら私が私でなくなってしまう、そう言って全員一致で反対されました。そうなると考えれば考える程ユーゴさんのお申し出の合理性に勝るものはなく正直迷いました、それはコレットの事は諦めるという事になりますから。ポーションで延命を図っても最終的には狂死が待つ病気、やりきれない悔しさと悲しみを拭うのは簡単ではないです。現に今もまだ割り切れておりませんよ、ですがコレットはみんなを不幸にして生き延びても辛いだけだと涙を流すのです。ですからこの街で働きながら助かる可能性を模索する事に賭けました。」
「そうですか、苦しい選択をさせてしまいましたね。その分新規事業は絶対に成功させなければなりません、私も精一杯頑張らせていただきます。事業計画は早急にまとめて明後日にでもお持ちさせていただきますので。」
「わかりました、どうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願い申し上げます。それからバンジャマンさんへの依頼の件ですがこれから資料を元に詳しくご説明致します。ただ事情があって極秘裏に進めなければならない仕事ですので軽々に口にする訳にはいかないのです。説明を聞いて受ける受けないを問わず口外は決してしないとお約束いただけませんでしょうか?」
「わかりました、お約束いたします。」
そう約束を取り付けると人払いをして説明を始める。
バンジャマンさんは案件が案件だけに当初難色を示したが決して本人の意思に反して無理矢理に働かせる事はしないという条件、そしてバンジャマンさんが関わる事によって寧ろそういったケースが発生する可能性を減らす事が出来るというメリット訴求によって最終的には引き受けてくれた。すかさず両契約の細部を詰め契約書を交わす、これで全てのピースを手にする事ができた俺はホッと肩をなで下ろす。
時間は既に昼食時を過ぎていた、バンジャマンさんを食事に誘い木漏れ日亭のみんなで食事をしていると髭もじゃと猫娘がやってきた。
「あっ、今日はいたのか。昨日随分待ったんだぞ、薬の材料はあんなもんで充分だったか?」
「昨日は随分待たせたみたいですまなかったな、材料はあんだけあれば充分以上だ。しかしお前たち毎日来るほど暇なのか?すぐにできる訳じゃ無いから一週間後って言っただろう。」
「そうだけどよ、本当に大丈夫なのか心配でしょうかないんだよ。あんた本当に梅毒治せんのか?」
「梅毒を治す!?」
この馬鹿、最悪のタイミングだ。何もバンジャマンさんがいるときに来てわざわざその事を口走るとは。
「バンジャマンさん、落ち着いてください。ちゃんとご説明致しますから。」
「これが落ち着いていられますか、一体全体どういう事なんですか?」
「なんだ?オッさんも梅毒なのか?」
「お前は黙ってろ、こちらの方のご家族はお前らみたいに快楽に溺れて業を背負った輩共とは違うんだ。出来てもいない薬の話しをして生殺しの様な思いをさせたくなかったんだよ。ペナルティとして治療開始を更に一週間延ばすぞ。」
「ちょ、ちょっとそれはねえぜ!わかった黙っとくから勘弁してくれよ。」
「たく馬鹿たれが、初めから黙ってろ。」
そう言って2人を隅の方へ追っ払う。
「バンジャマンさん黙っていて申し訳ありませんでした、確かに私は現在梅毒の特効薬を製造中です。すでに仕込は完了しておりますが完成にはまだ幾分時間がかかります。実は完成したあかつきには、コレットさんへも治験として試させていただけないかを依頼する事は考えておりました。ただあの者へも申した様に完成してる訳でも、成功するかどうかの確認が取れている訳でもないのです。その為まだ時期尚早と判断しその事は伏せていたのです。」
「特効…薬…、まさか…そんな…。おお…おおおおおぉ…」
バンジャマンさんはテーブルに突っ伏し号泣しはじめた、俺はこの涙は確実に治るという事が約束できた時点で見たかった。それにもしダメだったら俺はどんな顔をしたらいいのかわからなくなってしまう、やっぱり髭もじゃにはペナルティだな。治療を引き延ばすのは命が関わってる分可哀想だから適当な事を言って治っても1年間は結ばれるのを禁止しよう。
とりあえずバンジャマンさんが落ち着くまで待って、帰るのを見送るとみんなに詳しい事情を話した。それを聞いて髭もじゃもさすがに申し訳ないと思ったのかしょんぼりしていた、まぁ猫娘に大分冷たい目で責められての事だが。
2人にも食事をとらせ見送ったのち俺は今日の予定を切り替えて商業ギルドへデュルケーム商会の件で確認事項の問い合わせに向かう事にした。
▼
お馴染みのロータスの一般的な服装に身を包み商業ギルドへ着いた俺は早速受付へ向かう。
「申し訳ありません、新規で商会開設したいのですがどの様な手順で進めればよろしいのでしょうか?」
「新規の商会開設ですか、どんな商売をされる予定ですか?」
「奴隷の売買及び人材派遣業です。」
「はい?人材派遣業?なんですそれ。」
「奴隷を短期貸しして働かせる仕事ですよ。」
「うーん、よくわかりませんが奴隷の売買という事は奴隷商も行うんですよね。それでしたら奴隷商街に店舗開設の土地を取得し、街へと新規開業の申請を提出。その後街から国へ申請を上げて申請が下りたら晴れて新規開業の運びとなります、ただかなり手間とお金がかかりますよ。」
「なるほど、因みにこういった手続き関係を代行する様な業者は無いのですか?」
「またよくわからない事を仰いますね、そう言った仕事は伺った事はありません。」
「そうですか、では手続きの流れをお伺いできますでしょうか?」
「はあ、わかりました。まず土地の取得から始まります、ただハルムートでは区画が整理されておりますので商売毎に決められた区画があります。主な販売商品に合わせて土地の取得をしなければ街に申請を出しても許可が下りないでしょう、さらに土地の取得時には紹介状が必要となりますのでこの街の商会のどなたかに紹介状を書いてもらって下さい。土地を取得しましたら街への申請となります。この際後ろだての貴族様などがおられますと比較的スムーズなのですがいない場合かなりの時間がかかる事は覚悟してください。許可が下りれば建物があれば営業は開始できますが建物が無ければここから建物の建築を開始します。完成すれば街より監査を受けて営業を開始できます、まあ概ねこんな流れでしょうか。」
「因みに土地の管理は商業ギルドで行っているんですよね、今の状況ってわかりますか?」
「今回の問い合わせのケースですと奴隷商館街となりますね、ちょっと待ってください。ええと現在その区画には空きがありませんね。そうなると既存の店舗と交渉して買い取るか空きが出るまで待たなければなりません。」
「うーん、どうやらこの街での開業はちょっと難しそうですね。別の街に行くしかないか、忙しい中長々とお時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。おかげ今後の予定が立てやすくなりました。」
「大丈夫ですよ、これも業務ですので。確かにハルムートは新規参入の商会には厳しい街です、おかげで既存の商会もかなり幅をきかせてますし。残念な事ですが相当上手くやらないとまず成功しないでしょう、悲しい事です。」
やり取りを終え受付を離れ暫し考える。
商店を立ち上げるのがこんなに困難とは、工房は何だかトントン拍子で話が進んだけどギーさんかなり無茶したんじゃなかろうか。まあ何にせよすぐに拠点を持たせてなんて言う風には考えてなかったがそれにしても面倒だ、何処か潰れそうなところ買収した方がよっぽど楽だな。
そんな事を考えながらぼんやりと働くギルド職員を眺めていると奥から偉そうなピッチリ横分け鼻デカ兄さんがやって来た。何やらさっきの受付の職員にネチネチっとやっている。そう奴は我等が敵の一人、商業ギルドハルムート支部副支部長ミスターミキプルーン…もといダリウス=ブームソンだ。
奴隷商の件には敏感になってるだろうからな、俺も警戒して適当かましたし目立たないように着替えもして来たから大丈夫だと思う。ミキプルーンはひとしきりネチった後フンスと鼻息を鳴らし今度は女性職員の所に行き再びネチりだした。しかし今度はその目がニヤついている、こんな典型的な奴生れてこのかたTVでしか見たことがないが本当にいるんだな。今日の目的はデュルケーム商会の件についての調査の為だが、どうせ商業ギルドに来るなら顔を拝めれば御の字と思ったがまさかミスターミキプルーンとは…いやそこじゃない、どんな奴かもうっすら想像がついてしまうような小物とは。となるともう一人の大物とやら、正体が全くわかっていないがこの分だとちょっと手強そうだ。こんだけ巧妙な策をあのミキプルーンに立てられる訳がない、なんか操りやすそうだし。となると本当の黒幕はそいつなんだろう、正体が不明なのも裏で動き易いよう秘しているといった所か。
俺はミキプルーンの観察を終えると目立たない様ひっそりと商業ギルドを後にする。




