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1-11 テンプレ君三人組に出会う

 冒険者ギルドでポーションの販売品を試しに購入したり、どんな依頼があるか眺めたりしていると何やら受付が騒がしい。行ってみると男女三人組の若者がやいのやいのと言っている。

 

「だから今は90Zなんて大金は無いんだ。登録したのち返済するからとりあえず登録させてくれないか。」


「いや、そんな事を言われても規則だから無理なのよ。」


「規則なのはわかっているがそこを曲げてなんとかお願いできないだろうか?」


「なんと言われても無理な物は無理よ。他の人にも迷惑がかかっちゃうし申し訳ないけどお引き取りください。」


 頼み込んでいた赤髪で体格のいい女性はしょんぼりとしながら仲間の元へ戻る。


「デボラそんなに落ち込まないで、僕の持ち物を売ればお金を作れるから大丈夫だよ。」


「エディ様、そういう訳にはまいりません。何度も申し上げておりますようにエディ様の所有されておられます物はオーリック家所縁の品や貴重な書籍が大半、他にも貴重な品々ゆえ再興成された暁には必ず必要となられる物ばかりではありませんか。今を凌ぐために手放していい物など一つ足りともありません。」


「エディ様、デボラの言うとおりです。かくなる上は私が身売りしてでもお金をおつくりいたしますのでご心配なさらないでください。」


「セシール、馬鹿な事は言わないでくれ。君を失ってまで残す程価値のある物など有りはしないよ。」


「エディ様、しかしそれでは……」


 なんだこの茶番は、尻がムズムズする。しかしあの少年、非常に気になる。決してショタやホモホモしい気になるではない、確かに美少年だがアーッ! な展開はもうたくさんだ。気になるのは技術の事だ、そっと鑑定した所Level2ながら魔道工学と魔法陣学なる物を持っている。まあ没落貴族みたいだし魔力もCとそれなりみたいだから魔道具は使えるんだろうがね。


 ただ子供が冒険者登録なんてできるのか? 確かロータスでは15歳から成人扱いになるはずだが、そこは興味なかったから聞いてないや。体格のいい女性は元騎士見習いで戦闘系技術がそこそこあり魔力もDはあるんだから一人なら十分冒険者やれるだろうに、なんで全員の登録にこだわっているんだ? 特にもう一人の小柄な女性は元メイドであり護身術はあるものの能力的にも技術的にも全く向いていない。取り敢えず元騎士が一人で登録して稼いだら良さそうなもんだが。


 厄介ごとに首を突っ込むのは御免こうむりたいが魔道工学や魔法陣学っていのは気になる。ちらっと話しだけ聞いてみるか、面倒くさそうならポイしちゃえばいいし。取り敢えずエディと言う少年に話しかけてみる。


「どうかなさいましたか?」


 そう声かけると元騎士が反射的に反応して少年を自身の身に隠す、よく訓練されている。


「デボラ、大丈夫だよ。いやお騒がせしてしまい大変申し訳ございません。お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。少々金策の方法に意見の相違がございまして内輪で揉めておりました。」


「なるほど、まあこんな所で揉めていると目立ってしまいますのでどこか食事でもしながらゆっくりお話しできる所へ移られてはどうでしょうか? 私もちょうど食事にしようと考えておりましたのであなたのような聡明な方と食事をともにさせていただければ光栄ですしぜひごちそうさせていただきたい。」


「お心遣い痛み入ります。ですがそのような施しを受ける訳には……。」


「何を仰いますか、施しなどと考えてはおりません。私の気まぐれにぜひお付き合いをとお願い申し上げたのですよ。」


「そっ、そうですか。では喜んでその申し出をお受けさせていただきます。」


 その後、ギルド職員に個室のある店を紹介してもらい場を移した。個室がある店というと必然的に高級そうな部類の店になるため若干気後れしている様だが、好きなものを好きなだけどうぞと言った途端全員目の色を変えて食いまくる。まともなものをよっぽど食えていなかったのだろう。落ち着くまで食べさせてから詳しい話しを聞き始める。


 何でもこのエディという少年はオーリック家の後継ぎなのだが神童と呼ばれるほど優秀との事。王都の魔法学校なる所にわずか12歳ながら飛び級で合格、入学後は魔道工学を専攻していた。魔道工学には魔法陣学が必須なためそちらの勉強も併せてしていたようだ。

 ただ在学中に実家の父が騙されて投資に失敗し莫大な借金を背負ってしまう。借金は土地に利権、家屋敷や家財道具を売り払いなんとか返したものの没落の運びと相成った。エディは魔法学校の高額な学費を支払えなくなったために退学し父とともに家を出てデボラの実家へ居候する身となる。

 父は心労からそのまま病気にかかり失意のまま他界。親戚筋は没落した者など相手にする訳もなく見捨てられ、母や兄弟もいなかったためたった一人となってしまった。

 その後年齢が幼いうえに魔法学校を卒業できた訳ではなく手に職も無いため働く術を持たずデボラの実家でも厄介者扱いされる様になりそれに憤慨したデボラがエディを連れて出奔。ずっとエディを心配していたメイドのセシールはそれを聞いて全てを投げ打って慌てて駆けつけ付き従ったという事だ。


 どこの世界のいつの世にもよくある話しだね。そして今回の騒動の原因はというと、この時期は人頭税の納税時期のため一人150Zずつ支払わねばならないが飛び出して放浪している彼らにそんな金はもちろんない。払えなければ奴隷落ちとなってしまう、では冒険者となって取り敢えずの税を免れようと言う考えだったがその冒険者に登録する金すら無いというお粗末な物だった。


 再興の時を考えるぐらいならさっさと持っているもん売っぱらえばいいのにお貴族様は大変だな。もう面倒くさいしポイしようかなぁ、でも魔道工学とか魔法陣学は気になる……いや本当は違うな、昔の自分を思い出してなんかザワザワっとするんだ。


 どうしたものかと考える、エディからは今の状況をどう思っていてどうしたいのかを彼の言葉では聞けていない。脇の女二人がまくし立てている状況だ。サシで話を聞くしかないな、はぁ俺もよっぽどの甘ちゃんだ。しかしこんな状況の子供ほっとける訳がない。


 俺は二人に退室を促すがギャアギャアと騒いで非常ウザい、俺の真剣な表情を察したエディが二人を宥め退室を促すと渋々ながら承諾し退室して行った。コッソリ店員に言って店外まで追い出してもらっておく。


「申し訳ございません、二人とも僕を心配な余りのことゆえお許し願いたい。」


「わかっていますよ、さてエディ君。君の考えを聞かせてくれるかな。」


「僕の考えですか……。僕はオーリック家を再興して二人の苦労や想いに報いなければならないと思って」


「違うよね、エディ君のやりたい事って本当はそんな事じゃないよね。」


「いやっ……、ぼっ僕は。でも、あの二人を」


「エディ君、君は貴族でその上とびきり優秀なものだからいろいろなしがらみの中で生きてきたのだと思う。でもまだ13歳の子供なんだ、甘えてわがまま言って大人を困らせていい歳なんだよ。だから一人でそんなに重い荷物を背負わなくても良い、それは大人の仕事だから。不幸にも君の周りには今大人がいなくなってしまったけど、そんな中でも君にまだ生きていくための術があるのなら躊躇なくそれは使うべきだよ。今は重い荷物なんて背負わないで君がやりたい事をやって生きたい様に生きて生き抜いた中で学び成長して大人になったその時、あらためて背負うべきだと思うのなら背負い直せば良いじゃないか。それまでは周りの大人なんて使いたおして構わないんだ。だから本当の君の気持ちを教えてくれるかな?」


 エディはその後泣いた、最初は嗚咽を堪えながら噎び泣き徐々に堪え切れなくなったのか最後には溜まっていたいろいろなものを吐き出す様にワンワンと泣いた。泣くだけ泣いて落ち着く頃には憑き物が落ちた様にスッキリとした子供らしいあどけない表情を見せてくれた。


 その後今までどんな気持ちだったかとかどんな事が不安か、自分が何をやりたいかどうしていきたいかなどを取り留めなく喋っていった。俺はただ静かにその言葉に耳を傾け続けた。


 エディは自身の優秀さゆえ周りには期待され続け、それに応えなければと気を張り続けていた。そんな中魔法学校で学んだ魔道具の製作はとても楽しくもっと学びたかった。突然家が没落し周りから誰もいなくなって最後に優しくて大好きだった父親まで死んでしまい悲しくて寂しくて仕方なかった。そんな中デボラだけはいつも自分を守ってくれたしセシールは何もなくなった自分の所に全てを捨てて駆けつけてくれて本当に嬉しかったけど申し訳ない気持ちで一杯にもなった。だから二人のために自分は頑張らなきゃいけないとも思った。だけど本当はもう貴族になんかなりたくなくて、ただ三人で一緒にいられれば楽しいしそれだけで十分だった。ただやりたい事はないかと言われると魔道工学の勉強をもっとしたかったし研究もしたかった。


「ほら、自分の気持ちもどうしたいかも言えたし、やりたい事もちゃんとあったじゃないか。」


 そう言って頭を撫でてやると再び声をあげて泣いた、父親を思い出したらしい。失敬な俺はまだ父親なんて呼ばれる歳では……あるがこんな大きな子供いる様な年齢……にも近いか。まあそんな事はどうでも良い、取り敢えずエディは落ち着けた様だ。


 そしてエディにこれから二人を説教する事、つらいかもしれないがあの二人のためだから我慢して欲しいという事を話しておき二人を再び部屋へと呼ぶ事にする。

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