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Ep.1 ドッペルゲンガー 〜 7

翌日の早朝。(たい)()(あや)()は、いつものようにリビングで朝食を摂る。

「ふぅん……結局ドッペルゲンガーからは何の情報も得られずに、そのままボコボコにした、と。そいつは始末しちゃったの?」

「別に。あいつがどうなろうが知ったことじゃない。それに泳がせておけば、例の男の足取りも掴めるだろ」

 彩華は感心した様子で頷き、テレビの電源を点ける。昨夜、汰紀たちが戦闘を行った駅で発見された、死体についてのニュースだった。

 首と下半身が切断された、男性と推定される死体。身元は分かっていない。事件性があるとして捜査が始められ、その駅を含む地下鉄の路線が運航停止になった。

「……ホントに殺してないの?」

「……殺してねえよ。俺がどうやってそんな変死体作ればいいんだよ」

「まあ、そりゃそっか。あなたが探してる超能力者がやったのかしらね、アレ」

「だろうな。あの駅に俺たち以外入れないようにしたのもそいつだろ。……何がしたかったんだ、本当に」

 

 2階からの足音に振り返ると、頭が冴え切っていない様子の李紗(りさ)が顔を覗かせていた。

「お、ようやっとお姫様のお目覚めかな?」

「あ、彩華さん……汰紀くんも、おはよう」

 汰紀は残りのトーストを口に放り入れて裏口へ向かう―――ところを彩華は見逃さず、すぐさま襟口を掴んで引き戻す。

「逃げないの。……李紗ちゃん、彼に伝えたいことあるんでしょう?」

 彼女は静かに頷く。汰紀は腕を振り払い、横目で李紗を見る。……潤んだ瞳と、震える口元。彼は目を背けた。

「わ、わたし……汰紀くんと話したいこと、いっぱいあるの。あの時のこと、まだ謝れてなかったし、だから―――」


「別にいいよ」

「え……?」

 汰紀はゆっくりと、彼女へ顔を向ける。その両眼は横を向いたままだ。

「あの時のことは、もういい。……俺がどうかしていたから。お前が謝る必要はない」

「あ……う、うん。あ、ありがと」

 しばらくの静寂。それを破るように彩華が口火を切った。

 

「ねね、李紗ちゃん。うちで働いてみない? 彼ともっとお話ししたいでしょ」

「んえ!?」「は!?」

 李紗と汰紀が同時に驚く。掴みかかろうとする汰紀を裏拳で黙らせ、彩華は続ける。

「だってさ、せーーーーーっかく再会できたっていうのに、ここで別れたらこの青年は一生顔合わせてくれないぞぉ~。確実に距離取るぞぉ~~。それでいいのかぞぉ~~~」

「そ、それはよくないですけど、汰紀くんの意見も――――」

「あー、彼には選挙権も選択権も無いから心配しなくていいアルよ。入社しチャイナ~、なんつって!」

「死ねよ」

 汰紀は裏口から外へ出ていった。


~ ~ ~ ~ ~

 

 その日の夜。仕事を一日中放棄した汰紀は、夕食の支度と後片付けをさせられていた。 

 テーブルの汚れを拭きながら、彩華は彼に話しかける。

「―――あの子、変質(メタモル)の影響を受けてなかったのよね。認識を改変されずに、ドッペルゲンガーだと気付くことができた……。普通ならあり得ないことを、あの子はやってのけた。汰紀くん、これがあの子を誘った理由よ」

「いきなり何の話だよ、店長。別に理由なんか聞いてないんだが」

 彼は彩華へ視線を移す。深夜の静寂が耳をつんざく。

「分かってるんでしょ。あの子はいずれ……いや、もう既に狙われていると思う。あなたに因糸(レッドボンド)を発現させた超能力者に。そいつの理念は知らないけど、仲間を増やそうとしているのは確か。超能力を目の当たりにしても何もなかった一般人を放っておくなんてこと、絶対にしないはずよ」

 

 それ以上、彼女は何も言おうとしなかった。あなたがやるべきことは分かっているはずだと、日花汰紀に訴えていた。

 彼も分かっていた。分かっていたことを皆まで言われて、洗った食器を全て叩き割ろうとすら思っていた。

 かつてのクラスメイトを、超能力者の手から守る。

 一般人である彼女を、超能力者にしてはならない。

 そして、彼女を狙うであろうその元凶を始末する。

 やるべきことが2つ、増えていた。

 ……汰紀は大きくため息を吐いた。

 

 彼は、李紗のことを嫌っているわけではない。

 汰紀が高校に通っていた時、彼女は唯一の話し相手だった。

 今まで出会った人間の中で、最も信頼できる人物であると思っていた。

 超能力を得てから、因果の糸で彼女の位置を探ってでも、決して出会うまいとしていたが。

 

「…………まだ、会いたくなかった」

 小さく溜め息が零れる。食器用乾燥機のスイッチが押される。

「おやすみ汰紀くん。明日から、また頑張んなさいな」

 階段を昇る音を背に、彩華は椅子から立ち上がった。

「さーてと。私も準備しますかね~」

 そのまま彼女は、地下への階段へと向かった。

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