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下町オールドクロック ― 白ジャージでだらけてる看板娘、時間を少しだけズラしてしまう時計店  作者: イシマ ヒロ
「人の時間」

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第六十八話 「更新が止まった理由を聞かれて謝罪したら、まだ書いてない次回の感想が届いた」

「この度は」


 頭を下げる。


「更新を止めてしまい」


 一拍。


「すみませんでした」


挿絵(By みてみん)


 シャッター音が一斉に鳴る。


 顔を上げる。


 正面には記者たち。

 視線がまっすぐ向いている。


「では」


 前列の記者がすぐに口を開いた。


「なぜ更新が停滞しているのか、説明をお願いします」


 早い。


「……いや」


 雄一は横を見る。


 奏は頬杖のまま、唐揚げをつまんでいる。

 口元が少しゆるんでいる。


 三雲はすでに頭を下げている。


「食うな」


「謝ってるよ?」


 奏は嬉しそうに一つ口に入れる。


挿絵(By みてみん)


「謝りながら食うな」


「じゃあいいじゃん」


 もぐもぐしている。


 よくない。


 雄一は机の上を見る。


 紙皿。

 山盛りの唐揚げ。


 さっきから食べている。


 確実に食べているのに——


 減っていない。


「……これだな」


「うん」


 奏は次をつまむ。

 少し楽しそうに。


「減らないんだよね」


「それを先に言え」


「様子見してた」


 また一つ。


「何の」


「無限かどうか」


 普通に嬉しそうに食べている。


「結果は」


「無限っぽい」


 笑っている。


 最悪だ。


 前から、咳払いが一つ。


「……それが更新停滞と、どう関係するのでしょうか」


 記者は冷静だ。


 奏は気にせず、また一つ口に入れる。

 機嫌がいい。


「止めたからじゃない?」


「繋がってないだろ」


「更新」


 また一つ。


「……」


 妙に繋がる。


 腹立つ。


「止めるとさ」


 唐揚げを軽く持ち上げて、少し眺めてから食べる。


「その先だけ、勝手に進むんだよね」


 机の端に紙がある。


 雄一はそれを取る。


『第69話も面白かったです!』


 日付。


 明日。


「まだ書いてないだろ」


「うん」


 もぐもぐしながら頷く。


「じゃあこれは何だ」


「感想」


 次をつまむ。


「だから何の」


「次のやつ」


 嬉しそうに食べている。


 意味が通らない。


 そのとき。


 カシャ、と音。


 フラッシュ。


 雄一は目を細める。


 テーブルを見る。


 唐揚げ。


 一瞬だけ、減っている。


「……今」


「うん」


 奏も見ている。


 でもすぐ次をつまむ。


「減ったね」


 ちょっと嬉しそうに言う。


「減ったな」


「でも戻ったね」


 元通り。


「……それが条件か」


「それっぽい」


 奏は軽く笑う。


「記録されると、“消費”が確定する」


「観測か」


「そんな感じ」


 前列の記者がメモを取る。


 奏はその横で、普通に食べ続けている。

 ずっと機嫌がいい。


「つまり」


「はい」


「更新停止により“読まれる時間”が先行し」


「はい」


「観測によって現実が追いつく」


「たぶん」


 その横でまた一つ。


 少し満足そう。


 そこで、別の記者が手を挙げた。


「一点、よろしいでしょうか」


「嫌な予感しかしない」


「本作の優れている点について、20点ほど」


「やめろ」


 止まらない。


 淡々と読み上げる。


「1、奏が可愛い」

「2、何してもだいたい許される顔をしている」

「3、説明してないのに“なんか分かる”感じがある」

「4、会話が軽くて読みやすい」

「5、日常なのにちょっとおかしい」

「6、時計がなんか意味ありげ」

「7、雄一がツッコミとして優秀」

「8、三雲がだいたい可哀想」

「9、唐揚げがうまそう」

「10、唐揚げが減らない」

「11、でもたまに減る」

「12、減ったと思ったら戻る」

「13、つまり唐揚げが強い」

「14、謝るとだいたいなんとかなる」

「15、でもなんともならないこともある」

「16、時間がわりと雑に扱われている」

「17、そのわりにちゃんと辻褄が合うときもある」

「18、合わないときはだいたい奏のせい」

「19、更新が止まっても作品は進む」

「20、むしろ止めた方が進む可能性がある」


 言い切った。


「以上です」


「……途中から唐揚げの話だったぞ」


「重要な要素なので」


「違う」


 奏が笑う。


「ちゃんと見てるね」


 また一つ。


 嬉しそうに食べる。


 机の上に、紙が増えている。


 雄一はそれを取る。


『この回、くだらなすぎて好き』


 日付。


 今日。


 もう一枚。


『次回も同じノリで来るのやめてほしい(褒めてる)』


 日付。


 明日。


「……先に評価だけ確定してるな」


「してるね」


 もぐもぐ。


「止めるとさ」


 軽く言う。


「評価が先に走るんだよ」


「最悪だな……でも合ってるな」


「ね」


 楽しそうに笑う。


 前列の記者が口を開く。


「では」


「……なんだ」


「本件について、改めての謝罪は」


「やるらしい」


 雄一は横を見る。


 奏は唐揚げを持ったまま前を向く。


 口元が少しゆるんでいる。


「この度は」


 一つ食べてから、


「更新を止めてしまい」


 もう一つつまんで、


「唐揚げも減らず」


「そこ分けろ」


「すみませんでした」


 頭を下げる。


 シャッター音が一斉に鳴る。


 フラッシュ。


 フラッシュ。


 フラッシュ。


 唐揚げが、みるみる減る。


 完全にゼロ。


「……減ってるな」


「減ってるね」


 一瞬だけ寂しそうに見て、


 すぐ嬉しそうにする。


 カサ、と音。


 皿の上。


 唐揚げが一つ、現れる。


 ぱっと表情が戻る。


 すぐにつまむ。


「……増えてるな」


「増えてるね」


 嬉しそうに食べる。


「なんでだ」


「許したからじゃない?」


 また一つ。


「時間ってさ」


 もぐもぐしながら言う。


「謝ると、戻すんだよ」


 食べる。


 減って、戻る。


 また食べる。


 ずっと機嫌がいい。


「……最悪だな」


「ね」


 楽しそうに笑う。


 前列の記者が静かに聞く。


「では」


「……なんだ」


「この会見は、いつ終わるのでしょうか」


 雄一は少し考える。


 横を見る。


 奏はまた一つつまんでいる。


 ちょっと嬉しそうに。


挿絵(By みてみん)


「さあ」


 短く言う。


「もう終わってるかもしれない」


「何が」


「この話」


 奏は、ポケットから懐中時計を取り出す。


 指先で軽く弾く。


 パカっ。


 中を一瞬だけ見て、


 カチン。


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