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ネーシア諸島南部の島、大南中央部にある洞窟の迷宮へダンジョンアタック中、サイをサポートする形で戦闘は任せていたのだが休憩がてらに俺が戦い次はキュリヤの番となっていた。
「そういや、さっきの奴等4+4なのか8匹なのか分かんないけどリーダーもいなかったな」
「ここでは習性が違う様だな」
キュリヤを先頭に進んでいくとまたもやナクトマンと遭遇、今回は11匹が群れている。
『殲滅開始』
ギュンと敵の群れへと躍り出ると手近な相手から頭部、或いは胸部をピンポイントで貫手を突き立てて文字通り貫いていく。敵の真ん中で縦横無尽に立ち回り無慈悲に命を刈り取っていくとすぐに戦闘は終了した。正確無比に急所のみを狙うウチのファティング・コンピュータは相変わらず容赦ない。
『造作もないと報告』
律儀にキュリヤも己れの肉体のみで戦っていた。自前の水魔法で両腕の血、返り血を洗い流しながら続ける。
『当機では過剰戦力』
「まぁ、お前たぶん今や相手になるの神様ぐらいじゃないか?」
「ふっ、人間では再現出来ない速度だったな。どれ、充分休憩したし先へ進もう」
サイが再び先頭に立って進んでいくのだが、徐々に難易度が上がっていく傾向があるのか行き止まりにぶつかる事が増えてきた。
「またか……」
洞窟を行きつ戻りつしながら魔物が時々出現するので対応しながらも足を止めずに進み続ける。そうこうしている間に到達した第10階層、区切りが良いので何かあると予想する。これまで現れた魔物の脅威度を考えると最深部ではないだろう。となると中ボス的なものでも用意されているのか、はたまた探索難易度がぐっと上がるのか……。階段を降りきると短い廊下の先に扉がある。中ボス部屋が当たりか?
「扉だな。鍵は必要なのか?」
目の前まで行くと重々しい音を立てながら左右横開きに石の扉が開いていく。中は広い空間になっていて灯りもある様だ。中央には怪しげな石像がポツンと立っている。よくあるパターンだろう。3m弱の高さになる石像は右手に剣、左手に盾を携えていた。
「サイ、たぶんだけどあの石像が動き出して倒さなきゃ進めないとかだと思う。とりあえず任せても?」
「そうか。1人でやってみる」
サイが近付いていくと石像に足元の床からマナが流れ込んむ。それと連動する様に背後の扉がまた音を立てて今度は閉まっていく。石像にマナが満たされたのか床からの供給が止まると……動き出す。マナ保有量はサイよりも多く、石像だったものは無機物から有機生命体へと変貌していた。理屈は分からない。
「ふっ、石よりは叩きやすい」
サイは先制攻撃とばかりに神速の踏み込みから前蹴りを放つ。ボフ! 様子見で半歩退がるサイは手応えを感じていたのだが石像から変化した巨人は意に介さず左手の盾を前に出し歩きだした。
「キュリヤ、あれ何か分かる?」
『不明、ゴーレムと巨人系、両方の共通点を確認』
「ダンジョン特有の魔物か……」
速度は然程でもないので頭上から振り下ろされる剣はなんなく躱すサイ。隙を突き攻撃を仕掛けているのだが相手にダメージがあるのかは今のところ不明。マナを凝視してみても何ら不自然な部分は見当たらず……いや、逆に不自然な箇所がある。生物に限らず体を動かす時には少なからずマナが流動する筈なのに一切揺らぎがない。例えば、生物であれば心臓の鼓動にも呼応しているし僅かな呼吸にも反応する。ゴーレムのブラガだって動力部から駆動部を経由する様にマナの流れがあるのに目の前の魔物は全く動きが見られない。そこに気付いて見ていると気持ち悪い。器が動いているのに中身は整然と並んだままで増減もしない。俺からすれば次の行動の予測も出来ないので純粋に体の動きを見て対処するしかない事になる。どこかに核となる部分でもないのか探るがその様な部分も見当たらない。マナで構成されているのにマナで稼働している訳ではない……? その間サイも直接攻防を繰り返し突破口を探していた。
「ふむ、最初は本当に石で造られたただの像だったのにな……」
石であった部分は、今は……無い。何故? 石像にマナを流し込んだ床を注視していくと巨人と同質のマナが供給パイプよろしくこの部屋全体の床下に張り巡らされている。そしてパイプ内のマナは常に循環する様に動き回っていた。
「これがカラクリか?」
状況は見えてきたのだが理屈や打開策は見つからない。床をぶち抜いてパイプを破壊するとか? 俺であれば巨人もパイプの中も全てのマナを食らい尽くす事も可能だろう。サイに焦りや疲労は見られない様だが闇雲に叩いているだけでは埒が明かない事も理解しているのか意見を聞かれる。
「神さん! 床の模様は何か関係無いのか!? さっき反応したみたいなんだ!」
「も、模様? なんか書いてあんの?」
「お嬢は? 分かるか? 神さんに教えてやってくれ!」
『肯定、部屋の床を十字に四等分する形で、入り口側左に智神ニオを表す紋様、左奥に戦神フレール、入り口側右に文化神キークス、右奥に豊穣神ハミールそれぞれを表す紋様が描かれている』
「反応があったのはどんな?」
『床の紋様に色が付いた』
「誰のとこ?」
『ニオ』
「それはその上でサイと巨人が戦ってた時か?」
『肯定』
「今は?」
『否定、石の色に戻っている』
ニオ、ニオの床でって事は……この世界に降臨した順番が1番しっくりくるか? 試してみるしかないか。
「サイ、仮説だ! 模様の上で床に色が付くまで敵と待機、そっちからだ」
ニオの紋様が描かれているという方向を指差して伝える。
「反応したら時計回りに順番に同じく!」
「やってみる!」
距離を取り誘い込むサイ、俺達は邪魔にならない様に一旦姿を消した。盾を前に翳してゆっくりとサイを追う巨人、俺は床の模様とやらを見ようとするのだが床下のマナが循環している方が気になって非常に分かりにくい。
『変化あり』
……全然分からない。サイは潔く巨人に背を向け走って奥へ移動する。後を追う巨人は遅い動きながら一歩一歩着実に歩を進める。部屋の角へ巨体に追い詰められる格好になるのは恐怖心を煽られるだろうが、サイは冷静に間合いをはかり突き出された剣も難なく躱す。剣を持つ右手首を目掛け手刀の要領で上から手を叩きつけるが腕が下がるだけで剣を離す事はなかった。
『変化あり』
案の定一定時間巨人が乗っていると床に色が付く様だ。隙を見てサッと走り次の床へ移動するサイ。すると、今まで見せなかった動きをする巨人。その場で屈んだと思うと跳躍、一足飛びにサイの元へ剣を振いながら落下していく。
「ちっ!」
ズシン! と部屋を揺らす程の振動を起こしながら地面に叩きつけた剣をゆっくり元の位置に戻す巨人は、今度は盾を突き出して部屋の隅へとサイを押し込む動きを見せる。踏み出した左足の膝をサイの前蹴りが捉えると若干バランスを崩し、その隙に脇を抜け角から脱すると横方向からも膝を目掛け蹴りを入れる。3、4発と続けて膝に集中連打、相変わらずダメージの程は見て取れない。
『変化あり』
結局、色の変化は俺には分かりそうもない。先程のジャンプ攻撃を警戒したのかサイは一定の距離を保つ様に最後の場所へ移動していく。両者がキークスの紋様が描かれているという床に乗っかった。あとは上手く攻撃をいなしながら床の変化を待つだけだと予想するが、もしこれが正解ではなかった場合には俺が出る事も考えておく。横薙ぎ、突き、シールドバッシュ、袈裟斬りを苦もなく余裕を持って捌ききり合間合間に膝を狙った蹴りを繰り出していた。
「ふ! まだか?」
巨人は最初から変わらぬ動きを見せ続け疲労やダメージは確認出来ない。再び横薙ぎに振られた剣を避けると相手の右側へと周り半歩進んで順突きを脇腹へ捩じ込む。
「いっ!」
短い掛け声の後、巨人が動きを止めた。
『変化あり』
サイはすぐさま距離を保つが相手が動かない事に気が付く。巨人はそれまで追い回していた相手に全く興味を示さずにゆっくりと部屋の中央へ歩き始める。
「終わったのか……?」
部屋の入り口付近にキュリヤと共に実体化して様子を見守る。やや呼吸を荒くしたサイは巨人から目を離さずに未だ警戒を解かないでいる。やがて元の位置へと戻っていった巨人はただの石像となっていた。そして入り口の対面の壁に出口が現れる。石壁の一部が音を立てて左右に開かれた。
「お疲れさん」
「ふっ、倒すだけが攻略ではないとは……」
サイを労いながら奥の扉を潜ると入り口側と同じ様な短い廊下があり、その先には下階へ続く階段が口を開けていた。
「ちょっと休憩でも挟むか?」
「そうだな。それにしてもオレ1人では無理だったかもな」
「んー、考えてたんだけど今回は3人居たからクリア出来たのかもな」
「ふっ、床の模様は神さんには見えてなかった様だしな」
「そう。サイ1人じゃギミックは解けないし俺1人じゃそもそもギミックに気付けない。それを繋ぐキュリヤが居たからなんとかなった感じだろ? ハハッ、て事でパーティの勝利だな」
「最後までどうにかぶっ壊してやろうと思ったんだがな」
「あ、でも、試してないだけで俺なら力技でクリアする方法はあるかもな」
「ふっ、知恵と勇気をもねじ伏せる力技だな」
第10階層と第11階層の狭間の廊下で暫し休憩を取る一行だったのだが、疲れているのはサイだけだった。
――????――
「ん? コロッサスが突破されたのか……? 久々の挑戦者、ぐふ、どこでくたばるかな……」




