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キリメーアの街の酒場で傭兵団【白蛇(ホワイトスネーク)】の団長ブレンに絡まれながらも上手く撃退し和解も済ませた。その後、宿を取ったサイだが宿代を無駄に払う必要もないので俺とキュリヤは遠慮したのだった。金は困らない程度には持っているのだけど……。

『あの無礼な団長はもっと懲らしめるべきと提案』

「なぁに? ちゃんキュリ、珍しく怒りが収まらない感じ?」

『肯定、「イカサマ野郎」という罵声は訂正させるべき』

「まぁ、そうだろうけど、向こうはあくまで人間を相手にしているつもりだったろうからな。ある意味インチキでも間違っちゃいないかもよ?」

『否定、不正は何1つ認められない』

「だからさ、そもそも人間じゃない俺達は最初(はな)から狡い存在だって事……」

夜の街角で低い石垣に腰を掛けていた俺達の背後、つまりは人間で言う死角方向から音を立てない様にゆっくりと忍び寄る人影がある。声を上げずにキュリヤへ告げる。

「後ろな」

『肯定、捕捉済み』

恐喝、強盗、通り魔と逡巡していると接近する影は足を止めた。

「あそこの漁村、なんつー名前でなんつー島だったんだろうな?」

不自然にならない様にキュリヤとの会話を続ける。

『ネーシア諸島、小南(しょうなん)という島の名も無い村』

「あ、知ってるのね? 村に名前は無いのか」

『肯定、地図地名はデータベースに登録済み』

「……あれ? ケントニスの領都を調べようとした時に俺間違えて違う街を……」

背後の影がまた動いた。

「あん時、言ってくれりゃ良かったのに」

『否定、要請は確認されなかった』

「それでもアドバイスとかさ、そっちは違うよーとかさ?」

躙り寄る人影を魔法で拘束して問いただす。

「悪いが不審な動きで近寄ってきたんで拘束した。俺達に何か用でも?」

「ひっ」

時間は深夜、繁華街を外れると動いている人間はそう多くない。明らかに俺達2人に近付く動きだったからこれ位は許されるだろう。

「く、ふっ、くぅ。ま、まだ何もしてないだろ?」

「あぁ、何もされていない。()()な? だが、こんな夜更けに死角からこそこそ近付いてくる奴に警戒してもおかしくないだろ?」

「離せよ! んっ、ぎぎ……」

よく見ると頭に布を巻いている。所謂ほっかむりの様にも見える。犯罪者の匂いがぐんと増す。

「役人か領兵に突き出そう」

『肯定』

「待て! 何もしてない人間にそんな事して良い訳ないだろ?」

「いや、不審な輩が忍び寄ってきて恐怖を感じたから相談するだけだろ」

「い、いぃや、いやいや、待ってくれ! 道を、そう、道を尋ねたかったんだ」

「そうか、それも含めて第三者の意見が聞きたいものだ。俺達は余所者でアンタは? 地元じゃないのか? キュリヤ、誰か人を呼んできてくれないか?」

『了承』

「待って……頼む。ほんの出来心で、もうしないから……」

常習犯の模範解答として100点満点だ。

「ぐぅ、く、きににににぃ、クソッ!」

普通の人間が【影縛(シャドウバインド)】2重掛けに抗うのは無理だ。おとなしく待っていれば良いのに、やましい事があるに違いないと証明している様なものだ。

「何か問題だとか?」

程なくキュリヤが連れてきた人物が声を発する。

「えぇ、危害は加えられていないんですが、こんな時間に背後から忍び寄る人がいて恐怖を感じて拘束したんです」

「そうですか。ん? お前、またか? メオだろ?」

「ち、ちがっ、早く、これを、解け、よ!」

踏ん張るが身動きは一切出来ない。

「はー、もう何度目だよ……」

手に持つ灯りで男の顔を検めて言葉を続ける。

「大丈夫です。こいつは、まぁ、大雑把に言うと出歯亀の類いです。災難でしたね……と、言いたい所なんですが、こんな所で乳繰り合うのも感心しませんね」

「ちょっと待ってくれ! 俺達はそんな事は……」

『ミチオの要望ならば全て対応可能』

「お前はっ! ややこしくなるから黙っててくれ。違うんだよ、酒場の帰りに夜風に当たりながら会話をしてただけなんですよ」

「そうでしたか。ただ、こんな時間に若い男女が出歩いていると余計な誤解を与えかねない事はお伝えしておきますよ」

「それはもう、たった今理解しました」

後ろ手に縄を縛られた覗き魔は連行されていった。俺達もその場を後にして灯りの届かない暗がりで姿を消した。


翌朝、人々が活動を始めた頃に街の外で実体化する。夜の闇ならばともかく、明るくなった時間では街の中に急に人が現れて誰かに見られても面倒だからな。街をぐるりと囲む城壁の西側にある外門から中へ入る。昨日入ってきた場所と同じ場所だ。特に身分証の提示などは必要なく大きな荷物も無い俺達は門兵が数人並ぶ所を通り過ぎるだけだったのだが……。

「あれ? 貴方達は昨夜の?」

覗き魔を捕縛した男が門兵の1人として立っていた。

「街の中が駄目なら外でってのは危険過ぎるぞ? 連れ込み宿の金も無いんならそういう事はよした方が良い。子供が出来たら金なんていくらあっても足りなくなるからな」

勿論勘違いなのだが何を返しても言い訳にしかならないと察して適当に誤魔化すと街の中へと進んだ。この世界にもラブホ的なものがある事に感心しつつサイの泊まる宿を目指して街を歩く。徐々に活気に満ちてくる朝の光景はこちらにも活力を与えてくれる様だ。

「あれ? ミチオ様?」

声の主はワーキヤだった。朝早くから5人組で街の外へ出る様だ。他の連中の1人が「げっ!」と、言ったのも聞き逃していない。1万だけ返してやっただろうに。周囲の者達よりも頭ひとつ抜けた長身のワーキヤが更に続ける。

「昨夜あの後団長が気を引き締めて気持ちを新たにしていこうと宣言しまして、これから仕事なんです」

「そうかい、それは良い事だ。俺等はサイと合流してネーシアを目指すよ」

「ところで……」

俺に近付き小声で続ける。

「団長にはミチオ様の真実を伝えては駄目でしょうか? 昨夜もしつこくあいつは何なんだ! 誰なんだ! お前は知ってるのか!? と、問い詰められまして……」

「でもなぁ、団長も根は悪い奴とは思わんけど、あのガキみたいな性格だとすぐに俺の事が広まりそうじゃね?」

「はははは、ミチオ様も短時間で団長の事を正しく理解してくれて嬉しいですよ。でも、そうですね……その懸念は確かに今日の夕方には実現していそうですね」

「悪いが人間界で窮屈な思いをしたくないんだよ。賢明なワーキヤ殿には迷惑をかけるが今一度胸に仕舞っておいてくれないか?」

「承知致しました。ミチオ様が我がキリメーアに正式にご降臨されるまでは……」

仰々しい礼はせずに軽く胸に左手を当て頭下げるワーキヤ。

「すまんな。代わりに神の感謝をお前だけの為に……」

既に用済みとなっていた蜥蜴王(キングリザード)の牙(箱入り)を手渡した。

「これは?」

「何、苦労の対価だ。魔物の素材なんだけど遠慮なくどう使っても良いからね」

「あ、ありがたき幸せ……」

もう一度頭を下げたワーキヤと別れサイのいる宿屋を目指して進んでいく。すぐに到着した宿屋の脇の道を歩いていると、ズサッ、トン、ザッ、と、聞き覚えのある音が耳に入る。サイが武術の型を行っているのだろう。相変わらずこの点は勤勉だ。正面に回った俺達は宿の中には入らずに前庭から側面へと向かう。サイも俺達に気付いたのだろうが、一通りの動きが終わるまではこちらも邪魔をせず待つ事にする。

「ふぅ、おっす、早いな」

「よっす、相変わらずだな」

「日課をこなさないとどうもな……。悪いが少し待っててくれ」

宿の中へと入っていったサイをやや広めの前庭まで戻って待つ事になる。

「待たせた」

出発の準備は万端、いつでも行けると言うサイ。

「あ、あのトカゲの牙はワーキヤにあげちゃったから」

「そうか。昨夜は他に何か?」

「あー、ハハッ、俺とキュリヤが何事か致していると思った覗き魔が現れたな」

「なんだそれ?」

説明しながら街を出る為に歩き始めた。

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