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初戦闘を終えて存在値なるもの上がったらしい俺は、それが何なのかキュリヤに質問していた。
『この世界のマナを保有する全てのものが持っている値です』
「それが上がると強くなるみたいな?」
『ミチオの知る創作物にある様な戦闘力を計る目安とは根本的に違います。確かに今の様に戦闘によって上がる事もあるので、完全否定はしませんが、言うならば存在感が増すという方が的確』
「存在感が増す? それだけ?」
『今はその程度でも、人間であれば王やある種のカリスマ、魔物であれば魔王、領域支配者など突出した存在値を持つ者は色々と定義できます』
「あぁ、なるほど……、単純な戦闘力だけではないけど目立つ存在にはなるって事ね」
『肯定、そしてその条件は多岐に渡ります』
「芸術家、研究者、職人、ユニークモンスター、あとはパワースポットとか言われそうな自然物とかもかな?」
『概ねその解釈で間違いありません』
「んで、上げていった方が良いの?」
『肯定、様々な行動により上がっていくものなので経験値が溜まったと思えば理解しやすいかと』
「そうか、ゲームなんかの経験値は戦闘で得る事が多いけど、全ての行動に経験値が得られる機会があるって事ね」
『肯定』
「で、それって数字で分かるの?」
『肯定、しかし現在のミチオに自身で確認する方法はありません』
「んー、そっか」
『提示しますか?』
「キュリヤには分かるの!?」
『肯定、ミチオの現在の存在値は11です』
「11? 1から2に上がった訳じゃないんだ?」
『肯定、下位のゲル属ならまだしもイーヴルゲルは上位種なので初期値でもある程度高いと推測』
「ちなみに上限とかはあるの?」
『不明、ただし現在地近辺に限ると現在までの最高値は、過去に存在していたこの国の国王でレベルは120を超えていたと記録されています』
「へぇ、99でカンストではないのね」
『肯定、100を超えた例は多数存在』
「ま、ぼちぼち上げていきましょう」
まずは後片付けだな。倒したナクトマン達を吸収していく。レベルが上がった時の高揚感みたいなものは感じないまま6匹分を美味しくいただきました。味はしないけど……。ちなみに魔法で作り出された岩の槍は跡形もなく消えている。時間経過なのか、術者が死んだからなのか。それにしても、魔法……、使ってみたい。
「あー、キュリヤ?」
『魔法とはマナをエネルギーとして発現させる現象一般の事です』
「うん、そこまではなんとなく察している」
『ミチオの身体操作時のイメージが近道かと提案』
「お、じゃあ念力なんかいけそうかな?」
マナを意識して……。目の前にある石ころを動かす。
【マナ操作】
【魔法適性】
うんうん唸りながら石ころを睨み付けてはみるものの、一向に動く気配はない。魔物のリーダーは体内でマナをグルグルうごかしていたよな……。
【無属性魔法】
【衝撃】
パキンッ!
「あれ? 石が砕けた……」
『石に干渉するマナが強過ぎたと推測、ちなみに今ので無属性魔法【衝撃】を習得』
「なかなか繊細なのね」
イメージ、イメージ……。石ころを地上1mの高さまで浮かせる……。細かくイメージを固めていく。
【念力】
「で、出来た!」
『肯定、無属性魔法の念力の習得を確認』
「ふぅ、やれば出来る子なんだよ俺は!」
『更に熟練すれば発動までの時間短縮、マナの効率的運用に繋がると補足』
「そして、さらっと言ったけど属性魔法があるんだね? さっきの魔物が使ってきたのが石、岩、地属性みたいなところか」
『肯定、ミチオは種族適性として闇属性に親和性があると提案』
「あ、またそういう禍々しい方向なのね」
『暗闇でも視力が変わらない【暗視】、逆に敵の視界を奪う【暗闇】、影の中を移動する【影渡】などが初歩的な魔法です』
「いや、最初のヤツ意味無いじゃん!」
『肯定、現状では必要ありませんが、感覚器官"目"を獲得した場合に必要かと提案』
「えっ? 目、手に入るの!?」
『仮定の話です。可能性が無い訳ではありません』
「そ、そうか、未来に期待しつつ、まずは魔法の習得だ」
影に潜れるってのは便利そうだな。幸いここは鬱蒼とした森の中なので木々の影には事欠かない筈だ。
……なぁっ! 目がっ! 目がぁぁぁっ!! 無ぇんだよぉー!! マナによる視覚に頼っている今の俺には影なんて見えねぇんだよ! てか、今が昼なのか夜なのかさえ分かっていねぇじゃねぇか!?
「キュリヤ、今ってどんな時間帯なの?」
『夕方、と言って良い時間かと』
「ちなみに俺にも睡眠は必要?」
『否定、ゲル属は昼夜問わず徘徊している魔物です。マナの供給さえ出来ていれば睡眠は不要』
「人間離れが次々に判明していくよ」
『提案、影には闇のマナが含有されますので、それを感知する事ができれば……』
「ナイス! キュリヤ! その通りだ」
無意識にだけど光のマナは感じていた筈なんだ。そりゃ、闇のマナもあるよな。……意識を集中させていく。おぉ、闇というか、漆黒というか、すぐに感知する事ができた。適性が高いおかげなのか? 大きな木の幹から直線上に伸びている闇のマナの上へ移動する。闇のマナに集中してみると周囲の木々から同じ方向に伸びている闇のマナが分かる。反対方向に太陽があるんだろうな。まずは、チャレンジ! 闇に同化、影に潜る……。
【魔法適性】
うん、闇のマナが俺の体内に入っては出ていく。この循環に自分のマナを同期させていけば良いのか? マナに集中、マナに集中……。スーッ……。
【属性魔法(闇)】
【影渡】
で、出来た! しかも簡単に! それにしても、この感覚もまた不思議だな。地中に潜る感じではなく、影と同化して自分が二次元になったというのか? とにかく不思議な感覚に感動しつつ移動してみる。スススー……。枝の影なのか幹よりも細い部分でもスイスイ進める。元の体の大きさは関係無いのか? 明らかに俺の体より細い影の中でも問題無い。この状態から触手だけを地上に出して攻撃なんて事も可能かな? ペチン! ふむ、可能だな。近くの木を触手で叩いてみたが、これは便利そうだな。更に他の木の影にすっぽり隠れている木に登ってみる。これも可能だ。垂直方向も可能と……。あれ? これ夜になったら際限無くいけるって事じゃね?
『忠告、魔法【影渡】発動時は常にマナを消費している為、マナが枯渇すると活動が大幅に制限されます』
「おっと、そっちの注意があったか」
せっかく猿どもを食って補充されたマナを無駄にはしたくないな。魔法を解除して地上へと帰還。ふぅ、しっかしこの森ってどの位の広さなんだろう。
「キュリヤ、わかる?」
『約6000㎢』
「……ってどの位?」
『ミチオに分かる例えだと、茨城県程かと』
「おぉぅ、一つの県と同じ位もあるんだ」
異世界に来たんだよなぁ。しかも、人間じゃなくて魔物になって。
「あ、今更なんだけどさ、俺がこの世界で意識を取り戻した時、どうしてキュリヤはさっさと干渉してこなかったの?」
『一つ、まだ起動できる段階ではなかった事。二つ、起動にはミチオが"精神に異常をきたしておらず"且つ"他者へ明確に助力を求める"というプロセスが存在していました』
「一応、起動の為のキーがあったって事ね。てか、精神に異常を……って、俺が発狂していたらキュリヤは起動しなかったて事か?」
『肯定』
俺に分かる事、キュリヤの知っている事、神様の思惑……。繋がらないな。異世界に転生して、粘菌生物にさせられて、猿に襲われて、魔法を覚えて、目まぐるしいったらないが、どうなる事やら……。兎にも角にも生きる事を諦める選択肢は無い! できるだけ生存率を上げる為に出来る事をする。そして、出来る事を増やす。行くあてもなく、広大な森をコロコロと転がっていく。