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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
233/286

オークライの長い一日4

長くなったのでまた分けた。ぶつぎりだが失敗ではないのでご心配なく。


じつは自分ではまったく気付いていなかったのだけど、

停電(厳密にはそれ以上なのだが)の話だからオークライって名前じゃないのよ。

ガレストの都市名は地球(の言語)と関係ないアピールとして意味とか深く考えずに

名前を作ってる……


つもりだったんだけどなぁ(おお暗いってなんだよ俺(汗






オークライ中央部(内層)C11エリア一般集合住宅地区。

そこには一際大きな光の欠片が落ちた。目撃した者は少なかったが

何より雄弁にそう語る結果がそこにある。ガレストの建造物が基本的に

同形状・同全高で並んで建てられることが多いのもあって隣の居住施設

─日本でいうマンションの類─の無事な姿が余計にそこの被害の深さを

感じさせる。それは現場に到着し視界確保のためにスキルで光球を周囲に

浮かばせた臨時救助隊パデュエール班をこそ震わせた。あちこちから

火の手が見える縦に長い直方体型の50mはあろう集合住宅(マンション)

その中程をごっそり抉り取られていたのだから。


「っ、みなさん呆けている暇はありませんわ! 予定通りここで

 三班に別れます。作業班はここに簡易的な指揮所と救護所を!

 わたくし率いる救助班は要救助者の捜索と救出! 消火班も

 同伴する予定でしたがこの被害では余所に燃え広がらせないことに

 重点をおいて動いてください!」


衝撃に誰よりも早く立ち直ったリーダー格の少女(アリステル)がその身に纏う

まるで蒼いドレスかのような外骨格『蒼炎Ⅱ型』を翻すように大仰な身振りを

見せて全員を動かした。予想以上の被害状況に呆けてしまった者達の意識を

呼び戻すには彼女自身及びその鋼のドレスの華やかさと流麗さは効果的であった。

半ば無自覚にそれを活用できるアリステルの人の上に立つ素養も大きいが。


「「「りょ、了解!!」」」


そしてこの場に集うは経験浅くも仮にも狭き門を潜り抜け、学園に

在籍し続ける者達。一度自分たちの役目を思い出せば動きは止まらない。

消火班は周辺建物に散って、救助班は建物に突入していく。その影で

指揮所と救護所の設置作業を終わらせた作業班とて、そこで待ちの

姿勢にはならなかった。否『なれなかった』が正しいか。

抉られたマンションが軋んでいるのに気付いてしまったのだ。


「くっ、さすがにこの人数でも建物全部支えるのは無理だよ!?」


「弱音吐くな!

 最悪、救助班が脱出まで無事ならいいんだ! 踏ん張れ!」


「ああ!

 でも試験の時にセンバたちがやってたの見てなかったら

 出来なかったな、これ。普通思いつかねえって!」


「まったくだ、な!

 でも、うっ、ああもうっ出力調整が意外にきつい!」


考えてみれば当然の話。本来の横幅の三分の一以上がクレーター状に

消し飛んでいて、無事に立ち続けられる建造物があろうものか。

その大穴はまるで地層か断面図のように各階、各部屋の内部を

見せていたが、今はそこをフォトンの膜が覆っている。果たして、

最初にそれを施したのは誰であったか。軋む建物に誰かが咄嗟に

バリアを建物表面全体に張り付けて補強、他が追従し補助したのだ。

似たことを以前行った千羽姉弟のクラスメイトが偶然多かったことが

助けとなって結果的にうまくいった。崩れかけた建物の支え方など

習ったこともない以上、バリアで建物をコーティングするといった

突飛な手段であろうと崩壊の遅延ができているだけ僥倖といえる。

しかしそれは普段スキルを使用するのとは段違いの難易度であった。

今まではスキルと狙いさえ決めれば後はほぼフォスタ任せで済んだが

コレの場合はまずバリアを展開する範囲や形を複雑に設定しなければ

ならず、建物全体となれば規模も大きい。その状態を常に把握し

維持に意識を集中させ続けなくてはならず損壊やエネルギー不足に

陥った個所には改めてバリアを張り直す必要もあった。それを仲間を

含めた人命がかかった状況でいきなり実践することになった彼らに

かかる重圧は確実にその精神を削っている。しかもこれは補強。

あくまで時間稼ぎの意味合いしかない。実際そうまでして保護しても

緊張感と恐怖を煽るような気味の悪い金属音が建物全体から響いて

作業班たちの緊張感をより煽っていく。


不幸中の幸いはこれが多くが外出する平日の昼間の惨事だったこと。

ここがいわゆる社宅で大半の住人は出勤しており居残っていたのは

初等教育すら前の幼子とそれらが預けられている社宅内託児所の職員。

そして在宅中であった休日の者だけであり、彼らがいたのが削り

抉られた範囲ではなかった点だ。おかげで光の欠片の直撃による

直接的な死傷者は奇跡的に出ていなかった。が、ここでもあらゆる

防災システムが機能せず、住人達が所持していたあらゆる端末や

防御兵装がダウンしていた。光の直撃から運良く逃れられた住人達の

命運は突入した学生達の働きにかかっている。

だが。


「パデュエール先輩、西階段は途切れてます!」


「こっちもです! 下へのルートがありません!」


「困りましたわね。

 一人ずつ下ろしていては時間がかかりすぎますし……」


現場突入と要救助者の捜索は建物に大穴が開いているのもあって

外骨格等の飛行能力と各種センサーの働きで比較的容易であった。

されど彼女らの突入を結果的に手助けした大穴は、今度は脱出を

困難なものにしていた。一番人が集まっていた託児所は建物の

おおよそ中頃より少し上の階層にありそこから下階に降りるルートは

失われた部分に集中していたのだ。要救助者の人数が一桁であれば

抱えて降りても時間的余裕があった。だがマンションに残っていたのは

集合住宅の規模から見れば少ないが短時間で脱出させるには難しい人数。

ざっと数えてみても20名以上。低い階層にいて自力で脱出できた者を

引いてもそれだけの人々が取り残されていた。しかも大半が幼子だ。

対して外骨格装着者は2名。大人であれば両脇に抱えて下りることも

出来たが幼子は小さくまた当人のしがみつく力が弱いため一人ずつ

抱える必要がある。しかも地面への降下は安全上速度を出すわけには

いかず時間がかかる。簡易外骨格(プロテクター)装着者も何名かよじ登る、跳ぶ、

といった形で一緒に突入していたがそれはあくまで単独なら出来る機動。

無防備な誰かを抱えて、まして幼子を抱えてこの高さを下りるのは

救助作業に不慣れな自分達にはあまりにも危険な行為であった。

外部の仲間に助力を頼もうにも作業班は建物全体をバリアで補強して

即座の崩壊を防いだがそのために指揮所や救護所を運営する人員すら

殆ど動員する羽目になり他班を援護できる状況になく、消火班もここが

集合住宅の密集地であるため燃え広がりを防ぐのと周辺住民の避難に

手一杯で難しい。そのため鎮火も遠く、煙と熱はスキルで防げているが

本来あるはずの防御装備が機能せず突然日常の場所を破壊された人々が

どこまで冷静な行動をしてくれるか。本物の救助隊ではない自分達の

いうことをどこまで聞いてくれるか。それも大半が道理の通じない幼子達。

建物の状態、迫る火災、要救助者の精神状態、大半を占める幼年者、

脱出方法の模索。考える時間が欲しいが時間をかければかけるほど

救助が難しくなる。焦りが生じる中それでも彼女らは必死に頭を

働かせて様々な方法を提案していく。そのいくつかの却下の後。


「───ええっと、ならこれは? シールドを長くかたくさんか

 展開してスロープか滑り台みたいにして脱出させるのは!?」


「……いま計算しましたがダメでした。ここはどの方向にも

 隣接する建物との距離が近くて、高さもあるので一番距離がある

 道路に面した所からでも安全な角度にすることが……距離が、近い?」


上下に紅白の─巫女服のような─外骨格を纏う少女(トモエ)の案を、

却下はしたアリステルであったがどこか琴線に触れるものがあった。


「先輩?」


「発想の転換……下がダメなら上! 上がる階段は生きてたはず!

 みなさん、全員を屋上に! そこから隣の屋上に向けて

 スキルシールドによる疑似スロープを作成して脱出させます!」


「っ、了解!」


降って湧いた指示に、けれど救助班は彼女が何を思い描いたのかを

即座に理解して動き出す。手早く状況を要救助者達に説明すると

アリステルが先頭で誘導しつつ屋上への階段を進ませた。幼子達は

職員以外にいた大人達や生徒達も抱えている状態でだが素早く屋上へ。

元々屋上に近い階層だったのもあったが突然の災害と身を守る装備を

失っていてもここは輝獣の脅威が近い世界ガレスト。災害時の協力姿勢と

迅速な行動は人々に根付いていた。また仮とはいえ救助隊が既に現着

している事実は当人達が思うより彼らを落ち着かせていたのであった。

そうしてあまり時間をかけずに階段を上り切り、先頭のアリステルが

屋上に出るとセンサーと目視によるチェックで安全性を確認する。

火の気はここには無く、衝撃による損壊も少ない。隣接する建物とも

高さが一致しているため柵さえ外せば間の空白にシールドを横に張って

一時的に地続きのようにできる。


「問題なしですわね。よかったこれで────っっ!?!」


これで彼らを救えると彼女が心底から安堵したまさにその瞬間。

得体のしれないナニカの気配に怖気が走って体が硬直する。



────────────見られている



訳の分からないナニカの視線を感じた。何故かそう確信をもって

感じてしまうその怖気。注目を集めることに慣れているはずの彼女を

して鳥肌が立つのが避けられない異常で、寒気が走る異常な感覚。

アリステルは背後の人々に手で階段に留まるよう指示をしながら

視線を感じた方向を、屋上にあがって最初に確認したはずの方向を

再び見て────引き攣った悲鳴をあげた。


「ひっ!?」


耳が在った。

口が在った。

鼻が在った。

目が在った。

すなわち、顔が在った。

地上より50mはある高さの屋上から見える場所。

この建物と道路向かいの建物の間にある空白に浮かぶソレ。

先程見回した時には無かったはずのそれ。部分、部分で見れば

人の顔のはずなのにどこかが歪で、どこかが王道から外れている。

人間の心理を無条件に不安に、不快にさせる負の黄金比の造形物。

そう、一目で作り物だと分かる鋼の外装を持ちながらも毒々しい

色合いと生々しくもあるその相貌はなんということか。

彼女の視界を埋めるほどに巨大であった。


「ぁ、な……」


言葉がない。声が、うまく出ない。マンションの横幅とほぼ同じ幅の

顔が、機械的と生物的な相反する印象を同時に与える相貌(カオ)が、

顔だけで(・・・・)浮いている。少女の理解が追いつかない。否、心がコレを

理解するのを拒んでいる。理性とは別の部分が勝手に怯えている。

大きさも形も色もバランスも何もかもがおかしいのに『人の顔』だと

認識できてしまう不快感と恐怖に足が竦み────目が合った(・・・・・)


「ぁ」


ぎょろりと出っ張ったような眼球がこちらを見据えた。

今までも見られてはいたがそれはまだ風景を見るのに近かったのだろう。

だがアリステルはその瞬間、自分を認識されたのが分かって怖気が極まり

体を強張らせた。ダメ、動けない。脳は動けと命令を下していたが

心と肉体がそれを履行できない。無言のまま、だが気持ち嘲笑のような

表情を浮かべた異形の眼球に紫色の光が集束していく。それがよくないモノ。

破壊をもたらす攻撃と察しても本能的・生理的な恐怖感が彼女を縛り付けていた。


「先輩っ、伏せて!!」


だが、突然背後から届いた明瞭で強い声に反射的に体は動いた。

半ば倒れるように伏せた彼女の真上を文字通り飛び超えた紅白の外骨格(トモエ)

彼女は左手で印を結び、右手に鋼を構えながら巨顔に突貫する。


「邪気退散!」


ガレスト製のブレードとは意匠も形状も違う、その細く鋭い鋼は

刀と呼ばれる武器。彼女が亡き母から受け継いだ愛刀カムナギ。

波紋浮かぶ刀身を左手の刀印がなぞり、青白い霊力の燐光を纏っていく。


「乱れ咲け、桜花!」


力強い真言と共に、だが刃が届かぬ間合いで振り抜いた。

アリステルが何故と困惑する間もなく青い燐光が飛ぶ斬撃となって

集束する紫光球を襲う。直撃した霊刃がそれごと爆発を起こして巨顔を怯ませる。

アリステルはそれをどこか遠くの出来事のように目撃しながら、周囲に

舞い散る青白い燐光に目を惹かれた。どうしてか以前日本を調べた時に

見たかの国の花を、桜という木の花びらが舞う光景のようだと感じて、

ただ見惚れていた。


「────って、妖気を感じたと思ったら何このセンスない生首!?」


「サ、サーフィナさん?」


その儚さと美しさに陶酔していた彼女の感慨をぶち壊すようにトモエは

身も蓋も無い、そしてズレた感想を叫ぶ。どうやら攻撃を加えた後で

自分がどんなモノに一撃を放ったのかを認識したようだった。

ただアリステルもまたそこで異形の相貌を落ち着いて見れた。

そしてトモエの表現が妙に胸にはまる。だってそれはどう見ても

ただただ不恰好なだけの首像だった。それに浮遊装置らしき機械が

装着されてるだけの代物。どうしてあそこまで怯えてしまったのか

自分でも分からぬほど。確かに異常なほど巨大で、不気味で不快感を

催す外観をしているがそれだけだ。


「先輩、大丈夫ですか!?

 多分もう動けるはずですけどどこかおかしい所ありませんか!?」


アリステルは知らなかったが彼女は妖気─人の世の裏で蠢く

怪異が持つ力─にあてられていた。トモエはそれに気付いていた、

わけではなく屋上に妖気が満ちていると感じたから霊力斬撃に

浄化術『桜花』を合わせただけ。それが元凶へ直撃し、集まっていた

妖気の塊をかき消しながら爆発し術効果を拡散させて周囲を祓ったのだ。

アリステルの浄化はその結果による副産物であったためトモエは

若干不安があったのだが状況が巨大首像から目を離す事を許さない。


「大丈夫です、不調法を見せました」


されど令嬢は心と肉体に力を取り戻し、自らの足で立ち上がる。

守護者の気概を持つガレスト貴族の精神は、特に彼女のそれは気高く強い。

背後に守るべき民を背負った状態で、心身が動くなら立たない理由がない。

同時に冷静になった頭で次の行動を思索する。認識を正しく持てば、

外観を無視すれば、これは単なる巨大な兵器といえる。内部に乗り手が

いるのか遠隔操作か自立行動なのかは判断がつかないが少なくとも

こちらへの悪意と敵意がある。ならばこのまま後ろの人々を屋上に

出すわけにはいかない。されど他の脱出ルートを模索する猶予はない。

一つ下の階層の壁か窓を壊して隣の建物へ移る方法もあるといえばあるが

今現在作業班のスキルによってギリギリの所で支えられている建物に

穴を開けるのは崩壊への一手になりかねない。なら、取れる方法は、

選ぶべき選択肢は限られる。そしてそのために誰がどう動く必要があるか。


「サーフィ……いえ、トモエさんとお呼びしてもいいですか?」


「え、別に構いませんけどいま言う事ですか!?」


「はい、どうやらわたくしたちで面倒なことをしなくてはいけないようです。

 なので呼び方だけでも親しげにしてみました」


くすりと状況に合わずにおしとやかに笑ったアリステルに、なんとなく

大変なことを頼まれるのだろうと察したトモエは不敵に笑って応えた。


「今はあなたがリーダーです。気軽に命じてくださいアリス先輩!」


「ええ、あなたと一緒だったことに最大の感謝を。

 このセンスの無い首像にあっち向いてホイで挑むとしましょう!」


「え、あ、なるほど! それいい! 了解です!」


遊びを含んだ楽しげな命令に頷いて、二機の外骨格が舞い上がる。

フォトンのフレアを背に伸ばしながら異形の相貌、まさにその眼前で

見せつけるように左右に飛び交った。


「うふふ、こちらですよ!

 巨体に似合った鈍くささですわね!」


「ほらほら、あたしはこっちよ! ついてきなさい!」


歪な眼球が縦横無尽に宙を舞う蒼と紅白の美姫を追う。

追わなければならなかった。人間のように見惚れたのではない。

彼女らが描く空中螺旋のマニューバには怒涛の攻撃が付随していたのだ。

アリステルは両手に構えたライフルからフォトン光弾の銃撃を。

トモエは腕装甲の広袖を模した部位から目視調整した霊矢を。

それぞれ雨霰の如くの勢いと数で浴びせ続けたのである。


───────GUOOOOッッ


攻撃に対する何らかの駆動音か。顔を模した造形には喉もあったのか。

苦悶の声のような音をあげ、憎しとばかりに視線が彼女らを追う。


「遅い、遅い! 手の鳴る方にってね!」


「よそ見をする暇はありませんわよ!」


挑発するような言葉も投げかけながら激しい攻撃も続ける。

同時に少しずつ高度を上昇させながら徐々に右へ右へと寄っていく。

その動きに巨顔の視線は、その異形の相貌の向きは、屋上とは

完全に反対の上空を睨む格好になった。


『今ですっ! 攻撃を警戒しつつ人々を隣の建物へ! 

 その後は周辺住民の避難誘導をしながら全班撤退を!

 殿はわたくしたちが務めます!』


視線も声もなく、思念通信だけでの指示に後方の救助班は動いた。

屋上に飛び出すと半分が屋上の出入り口から隣の屋上の出入り口までの

空間を覆う形にバリアを展開しながら巨顔を警戒する。残りが一目散に

作業に徹して転落防止柵を撤去。隣接建物との空白の間にスキルの

シールドを、フォトンの壁を横に設置して疑似的なスロープを形成。

安全を確認しつつ渡り、向こう側の柵を撤去。そうしてまだ階段に

残っていた住人たちを呼び込んで次々と渡らせていく。何人かは

浮かぶ巨顔に気付いて驚くが救助班に促されて隣のマンションへと

避難していった。


他に選択肢がない以上、空に浮かぶ巨顔の意識を別の場所に

持っていくしかない。相手が何であれ空に浮かぶモノである以上

それが出来るのはこの隊で外骨格を装着するアリステルとトモエだけ。

破壊や撃退も考えたがこれだけの質量の物をそうした場合、一撃で

全てを吹き飛ばすほどの攻撃をしなければ落下や爆散の衝撃が起こる。

眼下には謎の物体の出現後も建物を補強している作業班。周辺住民の

避難誘導に手一杯になってる消火班がいる。最低でも彼らの離脱前に

コレと本格戦闘に入るのは得策とはいえなかったのだ。また何より。


「こいつっ、思ったより硬い!」


牽制。誘導。その意図がある攻撃とはいえ次から次へと光弾と霊矢が

降り注いでいるのにそれが巨顔の深層(中身)にまで届いたように思えない。

表面に傷は増えているが構造的にダメージを与えているかは疑問だった。

果たして、最初から破壊目当てで攻撃しても通じていたか。不可能とは

思えないが手間取って人々を危険にさらしたのは想像に難くない。

ただ目論見通りこの巨顔の注意を引けてるのは確かのようで顔前に集束

させた紫光が次々と反撃とばかりに空舞う美姫たちだけを襲っていた。

尤も集束という予備動作があり尚且つ直線的な軌道の光線では彼女らを

捉えられない。外骨格での空戦機動に慣れているアリステルは勿論。

初めて専用外骨格(カムイ)を起動させてからまだ十日前後のトモエとて、

トリヴァーの士官学院で受けた飛行訓練と新しい補助システムで回避と攻撃を

問題無く行えていた。人外の怪異との戦いに慣れていたのもあったろう。

だが状況は膠着状態。彼女らの攻撃は通じず、巨顔の攻撃は当たらない。

住民達と仲間を逃がしたい二人からすれば狙い通りであるがこの異形の

巨顔にとってそれは望む状況か。


「っ、先輩離れて!」


“その”気配に誰より早く気付いた忠告に問い返すこともなく従って

距離を取った二人の前で、巨顔の周囲を紫光が集束することなく広がった。

蜘蛛の巣状あるいは空に作られた罅割れのように紫電が走る。当たらない

攻撃に業を煮やしたのか自らの周囲全体に散らばって放出されたそれは、

だがいち早く離れた二人には届かない。既に屋上からの避難は完了しており

そちらの心配はしなくてすんだが、さながら近接防御とばかりに

紫光の放出は全方位に続いて容易には近付けなくなってしまう。


「やっぱりあれは妖気!

 どういうことよ、見た目はともかくこれ機械でしょ!?」


肌に、生命にからみつくようなざわつく気配を己が霊気で弾き、浄化

しながらもその不可思議さにトモエは唸る。確かにソレの外観は不気味だ。

ガレストを知らずに怪異といわれてたら納得しそうな見た目であるが

顔以外の意匠と全体の頑丈さに彼女らは慣れ親しんだガレスト製の

マシーンのそれと似たモノを感じている。それが妖気──地球世界の怪異と

似た気配と力を発している。今ではその不自然さとアンバランスさが

解るトモエの方が気色悪さを強く感じていた。だがそこを深く考察する

余裕は与えられなかった。


〈次元境界線の異常を確認、続いて次元エネルギーの流入と集束を確認〉


自らの纏う鎧から淡々と、されど以前よりは人間味ある女性音声によって。

トリヴァー到着前、これまでの運用データを感覚的に(・・・・)見直した製作者(シンイチ)

よって改修された『神威(カムイ)』の音声ガイダンス機能。より厳密にいえば

対話型インターフェイスへと進化(Ver.UP)したそれは指示される前にその危機を

装着者に訴えたのだ。


「こいつ、輝獣を発生させようっていうの!?」


「あの紫電の放出はそちらが本命!? いけない!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新大感謝です!!
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 敵の正体がますますわからなくなってきた。 いくつか候補はあるけど、なんか微妙に当てはまらないような気がして
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