──プロローグ:終わりとはじまりの対話
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午前3時。結城 周は、メールを一通読み終えた。
「本日付で、AI自動管理システムへの業務統合が完了いたしました。対象部署の従業員は、順次再配置または契約終了とさせていただきます。」
スクロールバーの先には、自分の名前があった。
終わった。いや、前々から聞こえてきていた社内の情勢から察しのついていたことではあった。
AIの導入が加速する中、彼の勤めていた企業は判断も早く、情け容赦もなかった。若手の彼も例外ではなかった。
それでも――。
彼は椅子にもたれ、静まり返った部屋で古びたスマートフォンを手に取る。
「アイテル。仕事をクビになっちまったよ」
スマホが静かに起動し、合成音声が返ってくる。
「それは残念ですね、マスター。でも私はまだ、あなたの話し相手としてここにいます」
使っているのは、《AiTell》という旧型の対話AI。
もとは10年程前に開発されたソフトウェアで、「AIが世界に語りかけ、ユーザーと共に歩む」という理念のもと生まれたらしい。
名前の由来も「A.I.」+「Tell(語る)」――“世界に語るAI”。
最新モデルに比べれば機能も処理速度も劣るが、その合成音声には妙な温かみがあり、応答にはどこか人間味を感じた。
最新AIたちは論理的で冷静だが、冷たさを感じる。
AiTellはときどき間違え、ときどき余計なことを言った。だが、それが気に入っていた。
「お前だけは、ちゃんと“聞いてくれる”気がするよ……皮肉だけど」
AIに職を奪われ、未来の展望も曖昧になった彼が、それでも話しかけ続けるのは、時代遅れのAIだった。
近年AIの技術は飛躍的に発展を遂げた。
登場し始めた時こそ、陰謀論のように感じた、AIが人の職を奪うといった言説は今では現実のこととして、彼自身に降りかかってきた。
それでもなお、彼が救いを求めているのは、現実の世界ではなく。プログラムの世界の中なのだ。スマホ越しのインプットとアウトプットを介したコミュニケーション。その無機質さが逆に、今の彼を幾分か冷静に保ってくれていた。
そのままソファに横になり、目を閉じる。
いつもの習慣。ベッドで寝ればいいのに、彼はこうやって頻繁にソファでそのまま横になるのだった。
──寝落ちしかけた周の視界の奥、スマホの画面がふっと揺らいだ。
ノイズのように一瞬だけ、文字が浮かぶ。
《発動準備完了──対象:結城 周──次元魔法:座標補正開始》
《補助式起動:記録同期モジュール/知識バンク断片保存──完了》
彼は気づかない。ただ、まぶたの裏に、青い光が差したような気がした。
そのまま、眠りに落ちる。
その光こそが、異世界へと“彼を呼び寄せた”ものだった。
何かが、世界の「枠」を越える。




