オベロンとミア
フジリナです。新章突入です。
僕は、夏休みを過ごすことに。久々の羽を伸ばせる夏休みだ。
思えば去年の夏から、冒険が始まったものだ。あの日から始まった、怒涛の日々を思い出す。再びの夏を過ごせるのはありがたい。
そして、僕は今までの冒険物語を日記帳に書きためていた。それが盟主さまのおっしゃる、『真理の物語』なのだろう。僕の冒険はまだ始まったばかりだ。
◇
ある夏の夜。シェイクスピアの妖精の物語である、『真夏の夜の夢』のような、幻想的な夜。摩天楼の光がホタルのように輝き、そして、静寂に包まれた夜のニューヨーク、セントラルパーク。
いつものように、パトカーと救急車のサイレンに、包まれた夜だった。
「夜のセントラルパーク、あまり外に出てはいけないけど、ここは落ち着くよな」と僕。
すると、
「おや、そこの王子様?僕の前に来たね」と艶のある僕にそっくりな声。
そこにいたのは、僕に瓜二つの仮面をつけた男だ。そいつは、黒のアゲハの羽に、星空が舞うマントに、月とフォスフォフィライトのペンダントに、茨の冠、そして黒のワイシャツとスーツ、そしてフォスフォフィライト色のネクタイ、また、艶のある黒の手袋姿だ…。
こいつは人間ではなく、妖精だ。
なぜ、人間の欲望が渦巻くこの街に来たのか…?
「王子様。実はレディ・クラリスの依頼でここに来たんだ。王子を守れとね。しかし、本当は君の『いちご』を狙いたかったんだ。」と男は近づく。
「…お前!」確信犯的に近づく男を拒絶した僕。
「ふふん、君は本当に照れ屋さんなんだね。どうなっても知らないよ。これまでのこと、レディ・クラリスから聞かされたからね。」
男は不敵な笑みを僕に見せてきた。夜の静寂と暗闇に包まれていたが、黒のアゲハの羽が、虹色に輝いていた。
「あんた、ただの妖精じゃないな。おまえは…」
「僕の名前はオベロン。レディ・クラリスからの依頼で、君を守るために、ここに来たんだよ。ほら、夜は危険だから、家に帰りなさい。」
◇
僕はオベロンに導かれるがまま、盟主さまの住まう、屋敷へ帰ることにした。アッパー・イースト・サイドにある、ヴィクトリア朝の貴族の屋敷のような家は、盟主さまがアメリカに滞在されるときのお屋敷みたいだ。ニューヨークグランドロッジのペントハウスだと手狭になって、なおかつ勤務地や安全性の問題から、お屋敷に引っ越すことになったのだ。
「ここが、私の本当のアメリカでの住まいだ。ご苦労だったな、ロバート」
僕は、荷解きをするために、僕自身のために用意された部屋へと導かれた。そこは、僕の実家のベッドルームに似ていた。また、古いノートが置いてあった。これは、曾祖父の伝次郎の日記だ。わざわざ亡き祖母の部屋から出してきたみたいだ。
「ばあちゃんの形見だったけど」と僕。そこには、「東京府立第一中学、明治四十四年卒業生」と書かれた古い写真だ。皆が皆、詰襟姿で、僕にそっくりな少年がいた。この人が僕の曾祖父の伝次郎だ。
また、若い青年の先生で、羽織に袴姿、額には包帯、頬には十字傷と湿布、髪を伸ばした男が、担任の先生みたいだ。
「これが、曾祖父の青春時代だ…」と僕。
◇
新しい屋敷には、見慣れない少女がいた。盟主さま曰く、レディ・クラリスの旧友のイタリア系の魔女で、ヴェネツィア出身の少女の姿をした、栗色の長くおろした女だ。
「はじめまして」と僕。しかし、少女はふん、と軽くあしらうと、「あなた、ロバートよね。あなたに会うのは、初めてじゃないわ。きっと、赤ちゃんだから、覚えてないのよねえ」と少し小馬鹿にしたように、生意気そうに言う。
「そんな…赤ちゃんの頃に会ってたんだ、オレ」
「そうよ。まだすやすや眠ってたのに、もうこんなに大きくなってねえ」と女の子は、親戚の年上の女性みたいに言う。「紹介するわ。私はミア。ミア・デ・ヴェネツィアンよ。よろしくね」
新しい屋敷での生活が始まるのだった。
またお会いしましょう。




